お兄様から逃げる方法

tsuyu

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2* 逃亡の協力者

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「行った?」
「行ったわ!」


 イージスお兄様が出勤したのを見送り、使用人の出入りする裏口から少し離れた所に、待機してくれていた、幼馴染で親友でもある侯爵令嬢キティー・ファントムーンが馬車で出迎えてくれる。

「イージス様ったら本当に勘が鋭いわよね。焦ったわ!」

 余程焦っていたのか、キティーは紅玉色ルビーの眼をキョロキョロさせ、黒いレースの扇子を広げたり閉じたりしている。

「いつもありがとう。キティー」
「フローリアの為だもの! いくらでも協力するわ!」

 当然だ!と笑顔で毎回逃亡を手伝ってくれる親友に、頼まれていた色とりどりの小さいタルトをお礼に渡す。

「はい、いつもの。今回はご希望の新作のタルトよ」
「キャー!! 今回も美味しそうね! やっぱりフローリアのタルトが一番ね!!」

 幼い頃からお菓子作りをするのが好きで、我が家の料理長に習い、今では我が家の食卓やパーティーで出される殆どのお菓子は私が作ったり、提案している。
 その評判は社交界でも有名で、フローリアの印である食用花エディブルフラワーが使われているケーキやクッキーは、見た目豪華な上、甘いのにカロリーは控え目と女性たちに大人気である。


 フローリアはイグラルド伯爵家の令嬢で、侯爵令嬢のキティーと同じ16歳。
社交シーズンの今は王都の邸宅に来ている。
領地が隣り合わせで、二人の母親も仲が良く、昨シーズン社交界デビューした二人は、王妹の公爵夫人主催のお茶会で気に入られ、夫人たちの交流会に引っ張りだこである。

 そんな合間を縫って、今日は秘密のお出掛け。
過保護なお兄様たちから逃れて恋人に会う為に、キティーに迎えに来てもらったのだ。
念には念を入れて、恋人とは現地集合である。

「シーフは?」
「お兄様は予定通り、昨夜のうちに向かったわ」

 そう。私の恋人はキティーの兄。
シーフ・ファントムーン、17歳。
ロイヤルミルクティーの髪色と、紅い柘榴石ガーネットの眼。
 キティー同様、幼馴染で物心ついた時には既に大好きになっていた。
次期侯爵で貴族や商人の子弟が通う寄宿学校で学生会長の傍ら、侯爵領の運営を、父侯爵を手本に頑張っている。

「イグナス様は?」
「イグナスお従兄様おにいさまは一昨日から商業ギルドの全支部長の集まる会議で、ギルド本部に缶詰め状態よ。商会長たちとの決算報告会もあるから、あと数日は大丈夫…」

「ジュラルミン子爵は?」
「カバールお従兄様おにいさまは決算期で、財務大臣に捕まっているわ。この一週間、毎日手紙が届くから流石に可哀想でチョコとレーズンのショートブレッドを届けてあるわ……」

「カーゴル博士は?」
「カーゴルお従兄様おにいさまは医薬開発局のお仕事で、隣国に招致をされて来週まで帰らない予定………」

「大丈夫よね?」
「……………」

 大丈夫な筈なのに、不安がよぎり頷けない。

 幼い頃から、私とシーフが遊んでいるとお兄様が邪魔をしに、どこからともなく現れて中々二人っきりになれないのだ(侍女たちは含まれない)

 初めて二人(+乳母)で出掛けた公園には、カーゴルお従兄様おにいさまが医薬品の薬草を観察しに来たと言って三人で過ごす事になり。

 シーフの家に招かれ、侯爵夫人ご自慢の庭園で、シーフとキティーとお茶を楽しんでいると、ファントムーン侯爵と領地の食用花を特産品にし、共同事業として盛り立てる事になったと、子爵に成り立てのカバールお従兄様おにいさまに意見を求められ。

 王都で人気の洋菓子店でデートをすれば、その洋菓子店のオーナーと新作メニューの企画をしていたイグナスお従兄様おにいさまに見つかり、コラボレーションしないかと誘われ。

 シーフからは何年も前に既に求婚されていて、両家の両親は承知しているのだが、お兄様たちが反対して、婚約者になった今も納得しておらず、邪魔されるのだ。

「おじ様たちは?」
「勿論、お父様もお母様も執事や使用人たちにも口止めしているわ」

 毎回毎回、慎重に行動しているのに、一体どうやって嗅ぎ付けるのか謎である。
忙しい恋人に会える時間は少ないというのに、対策を立てても必ず誰かに邪魔されるので、何処からか監視されているのでは? と背後を気にする毎日にいい加減うんざりしている。

「もういっその事、駆け落ちでもしちゃえば?」
「嫌よ! 両家間に問題は無いし、婚約者だし後ろめたい事も無いのに、お兄様たちから逃げる為だけに駆け落ちだなんて!」
「逃げても追いかけて来そうよね…」

 不憫な、と隠しもせず顔に出すキティーに即答する。
何処まででも追跡され、連れ戻されそう…と、考えたくないが簡単に予想ができてしまう。


 今回の逃避行には三ヶ月も前から計画に計画を重ね、いつも可愛がってくださっている王妹の公爵夫人にも協力していただいている。
 これで駄目ならもう、王妃様に頼るしか無い。
公爵夫人は面白がってくださっているが、こんな馬鹿らしい事にお忙しい王妃様を引っ張り出す訳にはいかない。

 私とキティーは今日から三日間、公爵夫人の所有するマナーハウスに、招待された御婦人方とチャリティーバザーに出品するクッションカバーやハンカチに刺繍をしたり、レース編み、ヘッドドレスや髪飾り、日持ちするお菓子の準備で滞在する……という事になっている。

 実際は、一度公爵邸に赴き馬車を乗り換え、公爵家のマナーハウスとは別の場所にある、別荘地へ向かい一泊二日滞在させていただく事になっている。
 最終日はちゃんとマナーハウスに合流するので、完全に嘘というわけでもない。
他の御婦人方が集まるのはお昼頃だけど、私は移動があるので早目に向かう。

 しかし、今日に限ってイージスお兄様の出勤時間がいつもより一時間以上遅かった。
この緊急事態に、待機してくれていたキティーに遣いをやったのは言うまでもない。

 なお、バザーの準備に参加する御婦人方も協力者である。
あまりにもお兄様たちが酷いので、お茶会で愚痴を零したところ、心優しく慰めてくださり「私たちも協力致しますわ!!」と、社交界を裏で牛耳る実力者の心強いサポートでこの日を迎えた。


「キティー、フローリア、いらっしゃい」

 公爵邸に着くと窓のない部屋に案内される。

「アイシャ様、ごきげんよう。この度はお世話になります。こちらを皆様とお召し上がりください」
「いつもありがとう、フローリア。さあ、早く着替えて!」
「ありがとうございます。お願い致します」

 公爵夫人のアイシャ様にキティーに渡した物とは別の、食用花を使ったアイシングクッキーを何箱も渡す。

「じゃ、また明後日ね! お兄様によろしくフローリア!」
「ええ!」

 そして、キティーとはここから別行動で私は変装し、公爵家のメイドとシーフの待つ別荘へと向かう。
今日着て来た服は、キティーの滞在する客室に保管しておいてもらって、公爵家のお仕着せを着て、メイドのジャンヌさんと馬車の中で三日間の最終確認をする。

「こちらでお間違い無いですね?」
「ええ。何から何まで、すみません」
「とんでもございません。私もフローリア様のお菓子のファンで御座いますので、ご教授頂くうえ助手にしていただけるのですもの! フローリア様に同行させていただくために勝ち抜いた特権です!」
「え?」

 どうやら今回、招かれた御婦人・御令嬢方には公爵家のメイドを一人ずつつける事になり、決める際に、別荘への計画も含めたお世話係兼お菓子作りの助手の選抜試験?があったそうです。
「倍率が凄かったのです!!」とジャンヌさんに力説されました。

 知らない間に、とんでもない事になっていました。
お菓子作っていて本当に良かったです。


 お昼近くになり、漸く公爵家の別荘に着きました。
雪解け水が流れる川の水を引き入れた、大きな湖があり、近くに綺麗な花畑もあるそうです。

「フローリア!!」
「シーフ!!」


 やっと会えた恋人に抱き着くと、会わない間に少し背が伸びたようで目線が変わっているし、声も以前より落ち着いた声音でドキドキしてしまいました。
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