捨てられた魔法道具師は天才だった。究極の道具で国を救いますよ?

みなわなみ

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番外編 母イリス

イリスの後悔 4

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 あのオルゴール。
 あの小さなオルゴールは、リヒトが作ってくれたものです。

 ◆◆◆

「イリス!この子は天才だ! 見ろ!もうオルゴールを作り上げた!」

 夫のアベルが幼いリヒトを抱き上げて入ってきました。

 アベルはそれはそれは嬉しそうです。
 この家アルバスでは魔導具を作る手を育てるために、小さな頃からオルゴールづくりをさせます。
 魔力がなくても作れるけれど、ぜんまい仕掛けのため、細かいパーツを正確に組み立てないとオルゴールは鳴りません。

「リヒトが?もう?」

 器用な子でしたが、まさかもうオルゴールを組み立てるなんて…
  小さなリヒトを見ると、ちょっと恥ずかしそうに微笑んでいます。

「しかも見ろ!」

 オルゴールについているドレスを着た小さな陶人形を動かすと、オルゴールが鳴り、同時に人形がくるくると回ります。

「まぁ!かわいい!」
「すごいだろう? ただスイッチを作るのではなく、ちゃんと構造をわかってるんだよ。こいつは天才だ!素晴らしい魔道具師になるぞ!」

 アベルは満面の笑みでリヒトを抱き上げました。

「すごいわね!リヒト!」
「ははうえに似たお人形が…あったの…カイと、ははうえが喜ぶとうれしいです」
「わたくしに?」
「はい」
「ありがとう。リヒト」

 とっても嬉しくて、リヒトを抱き寄せて、頬にキスしたのだったわ…。


 あの頃はとても幸せでした。
 リヒトに魔力がないのがわかる前、リヒトがまだ4つを過ぎた頃までは…。
 夫のアベルも義父ギュンターも、器用なリヒトに期待を寄せていました。
 リヒトはリヒトで、カイの面倒をよく見る良いお兄ちゃんだった。
 カイは、だれよりも、リヒトが好きで…
 そう、カイはリヒトが大好きだったわ……
 オルゴールを鳴らして、二人で遊んでいた…
 義母のメアリーは微笑みながら、そんな二人を見つめていたわ……

 今日の出来事ーリノちゃんとオルゴールの音ーに、一気に思い出が呼び覚まされます。

’(忘れて…いたわ…)

 あの頃は、みんな笑顔だった。
 リヒトが三つの時、彼は生まれたばかりのカイをよくあやしてくれました。

「カイ、見てごらん。これ、すごくいい音がするんだ」

 そう言って、彼は自分で作った小さな木の笛をカイの目の前で鳴らし、カイはそれに手を伸ばしてきゃっきゃと笑っていました。
 リヒトは、そんなカイの姿を嬉しそうに見つめていたわ。
 あの時の二人の笑顔は、私の何よりの宝物だったのに…。


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