捨てられた魔法道具師は天才だった。究極の道具で国を救いますよ?

みなわなみ

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第2章 流浪

軽い籠

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 夕方になるとエレンが食事を持ってきてくれる。

「リヒト!そろそろ今日は店じまい!」
「…もうちょっと…」
「ダメダメ!置いて帰ると、明日の朝まで食べないんだから!」
「うーん…」
「魔物が出るかもしれないよ!ほら!食べて!食べるまで帰らないからね!」

 魔物は減っているが、そういわれれば手を止めざるを得ない。
 そんなやり取りも日常的になりつつある。

 いくらか具は入っているが、まだ薄いスープと硬いパン。
 それでも、僕に分けてくれるのをありがたくいただく。

(収穫量を上げる魔道具って作れるかな…)

 ぼんやり考えていると、

「ねぇリヒト、ものが軽くなる魔道具ってない?」

 エレンがそんな相談をしてきた。

 聞くと、村の入り口近くに住むミサばぁを助けたいとか。

「うん。僕も気になってた」

 ミサばぁこと、ミサ婆さんはいつも、背丈ほどもある大きな籠を背負い、山から薪や薬草を運んでくる。
 その重さで曲がった腰は、見るからに痛々しく、足取りもすごくゆっくりだった。

「一度、山から帰ってきたミサばぁが息を切らしてたんで、『僕が運ぶよ』って声をかけたんだ。
 そしたら『気遣いは嬉しいが、華奢なリヒトには重過ぎるだろう』って言われたよ」
「あはは!ミサばぁらしいねぇ!……で、なんとかできそう?」

 けらけら笑っていたエレンが、急に真顔で訊いてくる。

「うん。考えはあるから、明日やってみるよ」

 とはいえ、エレンが返った後、僕は小さな鉱石を手に取った。そこに、模様を刻んでいく。

(空気中の微弱な浮遊魔力を集めて、反発力に変えれば…)

 理論上は可能だと考えていたが、鉱石が少ないので、まだ手付かずだった。

 模様を刻んだ石が、ふわりと持ち上がる。
 が、籠を載せてみると、バランスが崩れた。

(まぁ、そうなるよな…)

 僕は、夜が更けるのも忘れて、夢中で作業をする。
 安定するように、魔道板に鉱石を埋め込み、板にも模様を刻む。

(あとは起動の仕方か。簡単でないとな…)

 考えを巡らせていると、ドアがノックされた。

「リヒト、朝ごはん! …って、また徹夜?」

 ドアを元気よく開けたエレンに、僕は苦笑いを返す。

「今日はみんなで木の実のパンを焼いたんだよ! リヒトに食べて欲しいってさ! ほら、休憩!」

 まだ作物は十分ではないけれど、魔物が減った森の中で、いろんなものが採れるらしい。
 木の実がみっしり詰まったパンは、噛み応えがあり、しみじみおいしい。

「……、おいしい」

 僕の言葉にエレンがほほ笑む。

「籠、できたのね。ちょっと背負ってもいい?」

 僕は口を動かしながらうなづいた。

「籠に何か入れてみてよ」

 エレンに言われて、そのあたりにあるレンガや薪を籠に入れていく。

「! すごい! 軽いよ! これがあれば、女でもタップリ水を家に運べるね!」
「うん。ただ、鉱石があまりないんだ」
「…そうなの…。でも、まずはミサばぁにだね!」

 残念そうな声を出したエレンだけど、すぐに笑顔を見せた。
 籠の中から、ものを取り出しながら、僕はひらめく。

「そうか…ものを入れるから重いんだ…」

 僕の独り言に、エレンが(あたりまえじゃない)という顔を返す。
 籠から取り出した魔道板に、僕は起動の模様を刻んだ。

「エレン、ありがとう。完成した。ミサばぁのところへ急ごう」

 外へ出て走り出すと、子どもたちが面白がってついてくる。

「ミサばぁんところに行って、足止めしてちょうだい」

 エレンの声に、足の速い子が駆けていった。



 ミサばぁの隣で、先に行った子供が手を振っている。

「なんだい、そろそろ森へ行かないといけないんだけどねぇ」

 ミサばぁが迷惑そうな顔を向けた。

「ごめんね、ミサばぁ」
「ミサばぁ、その籠をちょっとリヒトに渡して」

 僕の謝る声と、エレンの催促する声が重なる。

 僕はミサばぁの籠に魔道具をセットし、少し模様を書き加えた。

「背負ってみて」

 魔道板一枚分重くなっているが、ミサばぁはそれくらい関係ないようで、いつも通りに背負う。
 変わらない籠に、ミサばぁは、ますます迷惑そうな顔になった。

「ちょっと待って、ミサばぁ」

 エレンが小さな子を抱き上げ、靴を脱がせると、籠の中に子供を入れる。

「え?」

 ミサばぁの目が丸くなる。

「ミサばぁ!」

 籠に入った子が、ミサばぁの首に手を回す。

「…嘘だろ、入ってんのかい…」
「入ってるよ~」
「重くないよ…どうなってんだい…」

 ミサばぁは僕を見つめたまま、固まってしまった。

「僕は力が弱いからさ…魔道具作ってみた」

 普段はいつもと変わらない籠。だけど、中に何かが入ると起動して、周りの魔力を集める。
 そして、中に入るものが多くなっても、元の籠程度の重さにしかならないように調節した。

「これなら、あと百年は山に通えるよ! リヒト、ありがとう!本当にありがとうね!」

 ミサばぁの顔に心からの笑顔が咲く。
 僕の魔道具が、誰かの重荷を本当に軽くできたんだ。
 みんなの笑顔に僕の心にも、ふわりと温かい羽根が生えたような感覚がした。


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