捨てられた魔法道具師は天才だった。究極の道具で国を救いますよ?

みなわなみ

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第3章 戦い

【カイ視点】なぜだ…

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 王都の南門、最前線。
アルバス家が総力を挙げた魔物の討伐戦は、悪夢のようだった。

 僕は、自らが開発した最新の魔道具「究極魔導増幅砲アーク・キャノン」を携えて、最前線に立っていた。
この砲台は、僕の強大な魔力を最大限に引き出し、集中させる。
魔力の強い兵士にも与えて砲台は3台。ほかの兵士にも、簡易式のを持たせえている。
これで、押し寄せる魔物の大群を一掃できるはずだった。

「撃て! ひるむな! アルバス家の誇りを見せろ!」

 僕は、喉が張り裂けんばかりに叫んだ。
兵士が食い止めている間に、僕も魔力を充分に込める。

 砲台がうなりを上げ、まばゆい光の束を放つ。
その一撃は、魔物の群れを瞬時に吹き飛ばし、巨大なクレーターを残した。

(見たか、これがアルバス家の力だ! 僕の魔力は、誰にも真似できない!)

 しかし、僕の視線の先で、吹き飛ばされたはずの魔物が、黒い瘴気を纏いながら、再び立ち上がった。
いや、それどころか、その数が倍増しているようにすら見える。
絶望が、じわりと胸に広がった。

「馬鹿な……!? なぜ、効かぬ……!?」

 僕は信じられない思いでつぶやいた。
少し小高い背後の陣では、父と祖父が、眉間に深い皺を刻み、戦況を見守っているだろう。
彼らの視線が、僕の肩に重くのしかかる。

「カイ様! 危険です! 一旦後退を!」

 兵が叫ぶが、僕は耳を貸さなかった。

(後退だと? そんなことができるわけないだろう。この僕が、このアルバス家のカイが、魔物の前で逃げ出すなど、あってはならない!)

 次々と押し寄せる魔物たちは、これまで遭遇そうぐうしたことのない異常な魔力を放っていた。

 僕の魔導砲台アーク・キャノンは、確かに強力だった。
だが、その数と異常なまでの魔力の奔流の前には、なすすべもない。
僕の放つ攻撃は、魔物を少し驚かせる程度で、ダメージを与えていないのだ。

「くそっ! なぜだ!? 僕の魔力が、この魔道具が、なぜ通用しない⁉」

 焦りが、僕の全身を支配した。
魔力はまだある。
だが、その魔力を込めた魔道具が、次々と魔物に破壊されていった。

「カイ様! 」

 僕と砲台を守るため、僕の目の前で、忠実な兵士たちが、次々と血を流して倒れていく。
彼らの命が、僕の無力さのせいで、失われていく。

(こんなはずでは……)

 横を向くと、目の端に、父と祖父が棒立ちになっているのが見える。

 彼らの目には、失望の色が浮かんでいるのだろうか。
彼らの期待に応えられていない。
その事実が、僕のプライドを粉々に打ち砕いていく。

 そして、その時、僕の脳裏に、あの出来損ないリヒトの顔がよぎった。

(あんな役立たずが、王都で「稀代の魔道具師」と持て囃されているだと? まがい物の魔道具で、人々を騙しているに過ぎないだろうが!)

 以前、王都でリヒトの噂を聞いた時、僕は嘲笑わらった。
魔力なしで魔道具など、あり得ない。
それは、僕が信じてきた「魔力こそが全て」という家訓への冒涜だ。
だからこそ、僕はリヒトを家から追い出した。
彼の存在は、アルバス家の名誉を汚すものだったからだ。
だが、今、僕の目の前で、僕が信じてきた「魔力の絶対性」が、音を立てて崩れていく。

「くそぉぉぉぉぉぉ‼‼‼‼‼‼‼」

 ギリッと奥歯を噛む。
僕の強大な魔力も、アルバス家が代々受け継いできた技術も、圧倒的な魔物の力の前では無力だという事実にまだあらがおうとしていた。

「カイ様! もうこれ以上は……!」

 兵士たちが、僕を庇うように次々と倒れていく。
彼らの悲鳴が、僕の耳に突き刺さる。
しかし、僕の、僕自身のプライドが、この戦況を認めることを拒絶していた。

「退がるな! 退がるなど、アルバス家の恥だ! 我々の魔道具は、最強なのだ!」

 僕はそう叫びながら、再び魔力を込める。

 喉の奥から血の味がした。
身体は限界を超え、魔力の酷使で全身が悲鳴を上げている。
だが、ここで引けば、僕の全てが否定される気がした。
リヒトに、そして世間に、笑われる。見下される。

(あんな出来損ないが、僕より優れているなど、断じて認めない! 認められるはずがない!)

 僕の心の奥底に眠っていたリヒトへの劣等感おもいが、今や明確な焦りへと変わっていた。
あの時、家を追われたのは、魔力のないリヒトだったはずだ。
なのに、なぜ、今、無力なのは僕なのだ? 
彼は、この状況を笑っているのだろうか。

「ぐっ……! 魔力が……」

 初めて全身の魔力が枯渇していく感覚に襲われる。
目の前が歪み、視界が霞んだ。

 魔物の咆哮ほうこうが、僕の耳元で嘲笑わらっているように聞こえる。
僕が信じてきたもの全てが、僕自身のプライドが、目の前で打ち砕かれていく。
その絶望の中で、僕の意識は闇へと落ちていった。
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