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第3章 戦い
【父視点】なんだ…あれは…
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王都の城壁の上。
肌を刺すような冷たい風が吹き荒れる中、私は信じられない光景を目の当たりにしていた。
目の前には、黒い波のように押し寄せる魔物の大群。
そのおぞましい咆哮が、耳を劈くような轟音となって響き渡り、大地を震わせる。
その中に、あの男がいた。
かつて私が「出来損ない」「家の恥」と罵り、我が家から追放した息子、リヒトである。
彼が、巨大な魔導砲台の前に一人立っていた。
「馬鹿な……なぜ、あやつがそこに……」
私は思わず呟いた。
隣に立つ父、ギュンターの顔も血の気が失せ、白い。
深手を負い、兵に支えられたカイは、血まみれの顔で、ただ呆然とリヒトを見つめていた。
彼の目に、私や父と同じ、信じがたい感情が渦巻いているのが見て取れる。
リヒトは静かに、一本のタガーを掲げた。
それは、かつて彼が屋敷を追われた時に持っていた、あのボロタガー。
(まさか、あんなもので……? 無理だろう!)
しかし、次の瞬間、我々の常識は音を立てて崩れ去った。
リヒトが短剣を掲げると、その刀身から、微かに琥珀色の光が放たれた。
その光は次第に力強くなり、魔物たちの放つ凶悪な魔力を、まるで嵐の渦のように吸い上げ始める。
黒い瘴気が、みるみるうちに短剣の中へと消えていく。
それは、美しさすら感じるほどに異様であった。
「な……なんだ、あれは……⁉」
カイが、か細い声で呟く。
彼の顔は、我々の目の前で起きている現実を理解できず、恐怖に歪んでいた。
「うっ?魔力が……吸い取られていく……⁉」
父が、老いた顔に動揺を浮かべ、喉を鳴らす。
私も同じ感覚であった。
体中の魔力が、肌を這うように、リヒトの短剣へと吸い寄せられていくのを感じる。
それは、まるで自身の血が抜き取られるかのような、ぞっとする感覚。
魔導師としての生命線ともいえる魔力が、この身から離れていく。
こんなことは、生まれて初めての経験であった。
同時に、我々が信じてきた「魔力こそが全て」という絶対的な真理も吸い取られていく気がした。
魔力を持たないはずの、あの出来損ないが、我々の何倍もの魔力を、軽々と操っているのである。
いや、操っているのではない。
それはまるで、魔力そのものを「喰らって」いるかのようであった。
リヒトの全身から、凄まじい魔力の奔流が放たれる。
彼自身の魔力など、砂利一粒ほどなのに…。
今、リヒトの体から溢れ出す力は、我々が束になってかかっても及ばない。
(どうなっているんだ…)
彼の肌が、琥珀色の光を帯びて輝いてくる。それは、まさに「人智を超えた」光景であった。
「僕が、この国を守る」
リヒトの言葉が響き渡った。
その声は、かつての弱々しいものではなく、確固たる決意と、自信に満ち溢れていた。
短剣が砲台に突き刺された瞬間、さらに途方もない魔力が、巨大魔導砲台へと、滝のように流れ込んでいく。
砲台が、眩い閃光を放ち始める。
太陽よりも強いのに、どこか優しい光であった。
砲身が赤く染まり、空気がビリビリと震えるような音が響き渡る。
その圧力は、我々の鼓膜を破りそうになるほどである。
そして、巨大魔導砲台の光が一層強くなったその瞬間。
「虚無の光弾」
眩い光が王都の空を切り裂いた。
その光は、闇を切り裂き、魔力を根こそぎ取られた魔物の大群へとまっすぐ向かう。
「な、なんだ、あれは……!」
アルバス家の兵士たちが、恐怖と驚愕に震えながら叫ぶ。
光弾は、唸りを上げて一直線に魔物の大群へと向かい、そして、魔物たちの群れに激突した。
一瞬、全てが止まったかのような静寂。
その直後にあったのは、途方もない破壊。
魔物たちは、悲鳴を上げる間もなく、一瞬にして広範囲にわたって塵と化し、まるで最初から存在しなかったかのように、虚空へと消え去ったのだ。
その威力は、アルバス家がこれまで見てきたどんな魔道具も及ばないものであった。
それは我々の常識を、存在そのものを否定する、畏怖すべき力。
「…あれを……リヒトが……」
我々は、ただ呆然と立ち尽くしていた。
私が、父が、そして息子であるカイが、人生の全てを賭けて信じてきた「魔力の絶対性」が、目の前で、あの出来損ないの手によって、完全に打ち砕かれたのである。
私の心には、驚きを通り越し、言いようのない畏怖の念が広がっていた。
そして、それは、深い後悔を呼び覚ましていた。
肌を刺すような冷たい風が吹き荒れる中、私は信じられない光景を目の当たりにしていた。
目の前には、黒い波のように押し寄せる魔物の大群。
そのおぞましい咆哮が、耳を劈くような轟音となって響き渡り、大地を震わせる。
その中に、あの男がいた。
かつて私が「出来損ない」「家の恥」と罵り、我が家から追放した息子、リヒトである。
彼が、巨大な魔導砲台の前に一人立っていた。
「馬鹿な……なぜ、あやつがそこに……」
私は思わず呟いた。
隣に立つ父、ギュンターの顔も血の気が失せ、白い。
深手を負い、兵に支えられたカイは、血まみれの顔で、ただ呆然とリヒトを見つめていた。
彼の目に、私や父と同じ、信じがたい感情が渦巻いているのが見て取れる。
リヒトは静かに、一本のタガーを掲げた。
それは、かつて彼が屋敷を追われた時に持っていた、あのボロタガー。
(まさか、あんなもので……? 無理だろう!)
しかし、次の瞬間、我々の常識は音を立てて崩れ去った。
リヒトが短剣を掲げると、その刀身から、微かに琥珀色の光が放たれた。
その光は次第に力強くなり、魔物たちの放つ凶悪な魔力を、まるで嵐の渦のように吸い上げ始める。
黒い瘴気が、みるみるうちに短剣の中へと消えていく。
それは、美しさすら感じるほどに異様であった。
「な……なんだ、あれは……⁉」
カイが、か細い声で呟く。
彼の顔は、我々の目の前で起きている現実を理解できず、恐怖に歪んでいた。
「うっ?魔力が……吸い取られていく……⁉」
父が、老いた顔に動揺を浮かべ、喉を鳴らす。
私も同じ感覚であった。
体中の魔力が、肌を這うように、リヒトの短剣へと吸い寄せられていくのを感じる。
それは、まるで自身の血が抜き取られるかのような、ぞっとする感覚。
魔導師としての生命線ともいえる魔力が、この身から離れていく。
こんなことは、生まれて初めての経験であった。
同時に、我々が信じてきた「魔力こそが全て」という絶対的な真理も吸い取られていく気がした。
魔力を持たないはずの、あの出来損ないが、我々の何倍もの魔力を、軽々と操っているのである。
いや、操っているのではない。
それはまるで、魔力そのものを「喰らって」いるかのようであった。
リヒトの全身から、凄まじい魔力の奔流が放たれる。
彼自身の魔力など、砂利一粒ほどなのに…。
今、リヒトの体から溢れ出す力は、我々が束になってかかっても及ばない。
(どうなっているんだ…)
彼の肌が、琥珀色の光を帯びて輝いてくる。それは、まさに「人智を超えた」光景であった。
「僕が、この国を守る」
リヒトの言葉が響き渡った。
その声は、かつての弱々しいものではなく、確固たる決意と、自信に満ち溢れていた。
短剣が砲台に突き刺された瞬間、さらに途方もない魔力が、巨大魔導砲台へと、滝のように流れ込んでいく。
砲台が、眩い閃光を放ち始める。
太陽よりも強いのに、どこか優しい光であった。
砲身が赤く染まり、空気がビリビリと震えるような音が響き渡る。
その圧力は、我々の鼓膜を破りそうになるほどである。
そして、巨大魔導砲台の光が一層強くなったその瞬間。
「虚無の光弾」
眩い光が王都の空を切り裂いた。
その光は、闇を切り裂き、魔力を根こそぎ取られた魔物の大群へとまっすぐ向かう。
「な、なんだ、あれは……!」
アルバス家の兵士たちが、恐怖と驚愕に震えながら叫ぶ。
光弾は、唸りを上げて一直線に魔物の大群へと向かい、そして、魔物たちの群れに激突した。
一瞬、全てが止まったかのような静寂。
その直後にあったのは、途方もない破壊。
魔物たちは、悲鳴を上げる間もなく、一瞬にして広範囲にわたって塵と化し、まるで最初から存在しなかったかのように、虚空へと消え去ったのだ。
その威力は、アルバス家がこれまで見てきたどんな魔道具も及ばないものであった。
それは我々の常識を、存在そのものを否定する、畏怖すべき力。
「…あれを……リヒトが……」
我々は、ただ呆然と立ち尽くしていた。
私が、父が、そして息子であるカイが、人生の全てを賭けて信じてきた「魔力の絶対性」が、目の前で、あの出来損ないの手によって、完全に打ち砕かれたのである。
私の心には、驚きを通り越し、言いようのない畏怖の念が広がっていた。
そして、それは、深い後悔を呼び覚ましていた。
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