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第一部

第九章 時雨うちそそぐ 其の四(R18)

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 (豊臣の男子おのこは優しい……か。どれ程優しいのじゃ?徳川の男子には真似ができぬのか?) 
 ほのかな灯りをともした静を、秀忠はとこの上の自分のそばへと引き寄せた。 
「あなたさまと呼んでみよ。」 
「…できませぬ……」 
 静は男の匂いにドキドキとしながら、やはりおそれ多いと、やんわり断る。 
ねやでまで将軍でいとうないのじゃ。」 
 秀忠の本音であった。ことに静を相手にするときは、豊臣も徳川もない、江をとった頃の自分に戻れるのだ。 
「……できませぬ。上様は上様でございますれば。」 
 江の声で、江のようにはっきりと言われると、秀忠は引き下がるしかなかった。 
「まぁよい。では、『上様』もなしじゃ。」 
 静が「そんな」と言い終わらないうちに、静は秀忠に引き寄せられ、秀忠に口を塞がれた。 
 (優しく……か……)
 秀忠は、反芻してみる。 
「どうして欲しい?言うてみよ。」 
御心みこころのままに……」 

 (女子おなごはわからぬ。)
 望み通りにしてやろうというのに、おまかせしますという。 
 秀忠はどうするか考えながら、とりあえず帯を解いた。
 ヒンヤリとした空気の中、着物は脱がせず、はだけた襟から手を滑らせると、豊かな膨らみを、いつもより優しくさわさわと触ってみる。 
「フフッ、くすぐっとうござりまする。」 
 羽で撫でられるような軽い手の動きに静が身をよじる。秀忠が首筋に唇をわせると、静はあえかになまめいた江の声と吐息を吐いた。 

 静に優しくしても、淀の方が心を開いてくれるわけではない。それは分かっているが、それでも己が豊臣の優しさに近づけば、なにか見えてくるかもしれないと秀忠は思った。 
 江の思いにこたえてやれるのではないかと。 
 ただ、先ほど静が言った「思い出して生きてまいりまする。」が秀忠の心を乱していた。
 わずかな灯りの中、江のなまめいた声を聴いていると、それは江自身が言ったように思われ、秀忠の心は千々ちぢに乱れた。
 
 江も秀勝殿を忘れていないのか……。

 荒ぶる気持ちに、手荒くなりそうなのを幾度も秀忠はこらえようとする。しかし、ねやでも優しかったであろう秀勝を思うと、己をぎょするのは難しかった。 
 (所詮、私は徳川の男じゃ。) 
 秀忠は諦めたように思うと、少し荒々しく静の体をまさぐり始めた。 
「……くっ……」
 静は、いつもの秀忠の力強さに心震わせた。着物の下、蜜壺が満ちてくるのがわかる。こらえても嬌声が漏れる。 
「よい。声を出せ。」 
 秀忠にとっては江の声を聴くための自分勝手なめいであるが、静にとっては自分の女を認めてくれる言葉であった。 
 体を震わせ、荒い息と共に、女の悦びの声が次第に大きくなっていく。 

 太閤殿下は一人一人の女子をみな愛しておられたと聞く。優しいとはそういうことではないのか。
 静といると和みはする。まつりごとも頭から離れる。
 しかし、私は静を愛おしいとは思うておらぬ。恋しいとも思うておらぬ。結局は江の声を乞い、我欲がよくを満たしておるだけじゃ。
 私は親父より情け知らずかもしれぬ……

 秀忠は静の豊かな膨らみに唇を這わせ、江の悦びの声を聞きながら、そんなことを考えていた。 

 静への後ろめたさが、静を充分に可愛がってやろうという思いになる。それが江の悦びの声を招く。そしてその声が、その声こそが己を猛々しくする。 
 秀忠は、その輪から抜け出せなくなりつつあると薄々感じていた。 

 女として花開いてきた静は、婚姻したばかりの江を思い出させる。 
 秀忠は、己を求める「あなたさま」という声が聴きたかった。はじめて夫婦になった夜のように。
 江と同じ声で言われれば、男として少し自信が取り戻せるだろう。それがとりあえずは、江に拒まれた傷を少し癒してくれるはずであった。

「あなたさまと呼べ。」 
 秀忠は再び命じ、溢れ返った蜜壺の近くにある花芯をもてあそぶ。静は、苦しそうに甲高い女の声をあげながらも、はっきりと首を振った。 
「呼べ。」 
 秀忠は一層激しく静の花芯をいたぶった。 
 ゾクゾクといきなり襲いかかる快感に、静が身をよじる。 
「うっ、ああっ、あーっ……お許し……くださいませ。」 
 泣くような声を上げ、軽く気を遣った静の息は、絶え絶えになっている。 
「もう……もう……おゆるしを……」 
 つつましやかに懇願する静に、秀忠は知らぬ顔をして、さらに花芯を責め立てた。
「……あうっ……ぁ……」
 静はあだめいた短い吐息を重ねながら、しとねを握りしめる。江の声がいつの間にか「……お慈悲を。」と哀願するようになった。

「…上…さ…」
 約束をたがえた静のぷっくりした花芯を、秀忠はキュッとつまみ上げる。
「ん、ああーっ!」
 静が大きく身を反らせ叫んだ。
「あっ、あっ、あなたさま、あなたさまっ、お慈悲をくださいませっ……」 
 江の声が、強く己を欲した。
 秀忠は裾を割るほどに雄々しくなっていたものが、より力をたぎらせたように感じた。
 静の両足を抱えると、たっぷりした蜜壺に己を差し込む。 
 すきま風が渡り、小さな灯りを消していった。 


[第九章 時雨しぐれうちそそぐ 了]
<第一部 終> 
 
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