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美穂の章

2、編集者、美穂2

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「ショーマ先生、ここからここはだれが書いたんですか?」
「うん?」
「23ページから28ページあたり」
「なんか変?」
「…ここ、AIに書かせたんじゃない?」
「藤原君、失礼なことを!」「よーわかったねぇ」

 岩瀬室長と翔真の声が被る。

「さすがミポリンやわ。ちょっとうまく筆が進まんでねぇ」
「何年、あなたの文章を読んできてると思ってるんですか。この部分だけ少しもワクワクしなかったわ。編集者じゃなかったら読むのをやめてたわね」
「またそんな、きっついなぁ~」
「流れは悪くないのですけど、モブが弱い。人物をきちんと描き切るショーマ先生らしくないです」
「あぁ、なるほど!そうか。うんうん!ちょっと待って!書き直すわ!」
「時代が時代ですから、AI使うなとは言いませんが、自分の文にちゃんと変えてくださいね」

 翔真は軽く頭を縦に振りながら、ものすごいスピードでキーボードを叩く。

(このひらめきがないのよね…私には…)

「おっ時間だ。藤原くん、僕は先に失礼するね。後は任せます」
「はい」

 岩瀬室長が画面向うの翔真に会釈をしてそっと出ていく。私はパソコンに映し出される翔真の文章を目で追っていた。



「よっし!どない?」

 翔真が手を止めドヤ顔を上げる。私は紡がれながら読んでいた文章に改めて目を通していった。

「ほら、誤字!」
「へへ、堪忍かんにん。けど、吐き出してるときは止まられへんのや」
「吐き出す…せめて書き出すでしょ」
「いや、感覚的には吐き出すやな。頭の中に動いているシーンをそのまま打ち出すのやもん」
「そう」
「それがなかったんやわ。その近辺。なんぼ考えても動かへん」
「で、AIに頼ったのね」
「うん。すごいな。スラスラ書きよりましたえ。自信喪失や」
「けど、あなたの文ではなかったわ」
「今回も助かった! ミポリン、ほんまは”編集者”って能力持ちちゃう?」
「そんな能力は持っていません」
「いやいや、持ってはるて」
「はいはい。それでは、また続きをお願いしておきますね。2週間あれば残りは終わりますか?」
「え~、2週間!きっつ!ブラックやわ」
「もう吐き出すだけなんでしょう?」
「まぁな。きばるわ。ほな、2週間後に」
「はい。またご連絡いたします」

 翔真とのリモートを終え、一息つく。




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