【完結】婚約破棄する?しない?~我は弟の婚約者がお気に入り

みなわなみ

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賭けをしよう

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 それにしても、10日ヤアへ行くとは……。

「その孤児院にそなたが託しているものはなんだ」

 ロランダが、黙ってティーカップを持ち上げる。

「わざわざ10日も出向くのだ。ただの慈善事業ではなかろう?」

「フフ、さすが殿下ですわ。
出来る子ども達には、ヤアの技術を継いでもらおうと思っています。一人立ちのためにも」

「以前、遺したいと言った技術だな」

「そうです。祖母に言われたのです。『思っている形で叶わないのなら、違う形で叶う方法を考えなさい。ゴールが同じになればいいのよ』と」

「策士だな……」

「そうですね。祖母にそう言われたとき、私が一番守りたいのはヤアの技術だと気づいたのです。それを祖母に伝えたのですわ」

 わずかにでも自分の夢が叶ったからか、ロランダは満ち足りた笑顔を見せる。
 長く見せなかった笑顔だ。

 我の胸がズクンと痛む。

「ロランダ、そなたはヤアの地が大切か?」
「もちろんですわ」

 愚問とばかりに、ロランダに即答された。

「ヤアを治めたいと思うか?」
「それは叶いません。クプス様の婚約者ですから」

 これもそう言い聞かせているためか、即答した。
 即答できるのに、何故最近夜会に出かけぬ?

 ロランダ、クプスとでは祖父母殿のような関係になれぬのではないか?
 そなたは……。

 チョコレートを一粒食べ、我はゆっくりと口を開いた。

「そなたはそれでよいのか?」

「「殿下?」」

 ロランダだけでなく、近くにいたエドも声を上げた。
 ロランダが見たこともないほど目を見張っている。不思議なものを見るように。
 今一度、我はゆっくりと問うた。
 
「そなたはそれでよいのか?」

「私はクプス様の婚約者でございます……そのように生きてまいりました」

 じっと見つめる我に、ロランダは微笑みを作って繰り返す。

「ふむ。確かにそなたがクプスの妃になってくれるのを我は楽しみにしているがな」

「……」

「クプスの婚約者でなければ、ヤアを治めたいか?」

「そのようなこと、考えたことはございませんわ」

 ほんのり微笑みながらも、ロランダの栗色の瞳はわずかに潤んでいる。
 ジッと見る我から目を逸らすように、ロランダはナッツクッキーを手にして一口かじり、「おいしい」と微笑んだ。

 まったく、困ったときに食べ物で解決しようとするのは、小さな時から変わらぬ。
 ほっそりしているが、美味しいものには目がないのがロランダだ。
 まぁ、我も人のことは言えぬがな。



「ロランダ、賭けをせぬか」

「賭け?」

 我の言葉に、ロランダがまた眉根を寄せる。

「そうだ。クプスがそなたとの婚約破棄を宣言するかどうか」

 ロランダとエドの動きがピタリと止まった。
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