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祖母殿の秘密
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貴族の庶子は、貴族の男子と使用人の女子などの間に生まれることが多い。
考えるのも苛立つが、貴族の男子が身分を嵩に着て、手近な女性を性欲の捌け口にすることがあると聞く。
そのような子どもばかりなのかと思っていたが……。
マダムが言うには、
「貴族の男子と使用人の女子が心を通わせることもあるの。もちろん、許嫁以外の異性と心を通わせることも。
望んで産んでも、育てられなかったり、また元のように過ごすために子どもを預けるしかなかったり……。
まぁ、望んだと言っても、壁を越えられなかったのなら、子どもにとっては、いい迷惑だわね。
だから、せめて私たちが望んだ子どもだと伝えるの。『私たちのお手伝いのためにあなたたちは遣わされたの』って」
政略結婚の弊害か……。
「政略結婚にも良い点はあるわ。早くから心構えができるし、婚姻は家同士の結びつきでもありますからね。特に身分の高い貴族ほど」
祖父殿がクスッと笑った。
「ローゼ、君がそれを言うのかい?」
「ヴィー…」
祖母殿はほんのり顔を赤らめて、それを見た祖父殿はまた「フフフ」と笑った。
◇◆◇
祖父殿の「君がそれを言うのかい?」という言葉に引っ掛かりながらも、その夜は客間でぐっすり寝た。
普段使っているものに劣らない、質の良いベッドだった。
朝日の光で目覚められるなど、いつ振りだろう。
そして、驚いた。
朝日に照らされた部屋の優雅さを。
豪奢な飾りはなく、落ち着いた調度品ばかりだが、どれも一級品だ。
我が皇宮並み……いや、こちらの方が上かもしれぬ。これが工芸が盛んなスピース国の力か。
羨ましいな。
感心しながら調度を観ていると、調度品の一つ一つに模様が組み込まれているのに気づいた。
これは……、確かスピース王家の……。
なぜだ?
まさか……。
それが確信に変わったのは、視察先でだった。
マダムよりさらに年上の女性たちが作り出す糸も布も素晴らしく、皺だらけの手が魔法の手に見えた。
感激のあまり、女性たちに握手を求めたのだ。
最初の女性と握手をしたら、
「まぁまぁ、姫様が王子様を連れてきてくれた。これはまた寿命が延びそうだよ、みんな」
と満面の笑みを返してくれた。
帰りの馬車の中で、
「いろいろと勉強になりました。マダム」
と声をかけると、マダムは扇子で口許を隠し、ほんのりと笑った。
ただ、その瞳はいたずらを見つけられた子どものようにチャーミングだった。
何もかも包み込むような方だ。
考えるのも苛立つが、貴族の男子が身分を嵩に着て、手近な女性を性欲の捌け口にすることがあると聞く。
そのような子どもばかりなのかと思っていたが……。
マダムが言うには、
「貴族の男子と使用人の女子が心を通わせることもあるの。もちろん、許嫁以外の異性と心を通わせることも。
望んで産んでも、育てられなかったり、また元のように過ごすために子どもを預けるしかなかったり……。
まぁ、望んだと言っても、壁を越えられなかったのなら、子どもにとっては、いい迷惑だわね。
だから、せめて私たちが望んだ子どもだと伝えるの。『私たちのお手伝いのためにあなたたちは遣わされたの』って」
政略結婚の弊害か……。
「政略結婚にも良い点はあるわ。早くから心構えができるし、婚姻は家同士の結びつきでもありますからね。特に身分の高い貴族ほど」
祖父殿がクスッと笑った。
「ローゼ、君がそれを言うのかい?」
「ヴィー…」
祖母殿はほんのり顔を赤らめて、それを見た祖父殿はまた「フフフ」と笑った。
◇◆◇
祖父殿の「君がそれを言うのかい?」という言葉に引っ掛かりながらも、その夜は客間でぐっすり寝た。
普段使っているものに劣らない、質の良いベッドだった。
朝日の光で目覚められるなど、いつ振りだろう。
そして、驚いた。
朝日に照らされた部屋の優雅さを。
豪奢な飾りはなく、落ち着いた調度品ばかりだが、どれも一級品だ。
我が皇宮並み……いや、こちらの方が上かもしれぬ。これが工芸が盛んなスピース国の力か。
羨ましいな。
感心しながら調度を観ていると、調度品の一つ一つに模様が組み込まれているのに気づいた。
これは……、確かスピース王家の……。
なぜだ?
まさか……。
それが確信に変わったのは、視察先でだった。
マダムよりさらに年上の女性たちが作り出す糸も布も素晴らしく、皺だらけの手が魔法の手に見えた。
感激のあまり、女性たちに握手を求めたのだ。
最初の女性と握手をしたら、
「まぁまぁ、姫様が王子様を連れてきてくれた。これはまた寿命が延びそうだよ、みんな」
と満面の笑みを返してくれた。
帰りの馬車の中で、
「いろいろと勉強になりました。マダム」
と声をかけると、マダムは扇子で口許を隠し、ほんのりと笑った。
ただ、その瞳はいたずらを見つけられた子どものようにチャーミングだった。
何もかも包み込むような方だ。
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