【R18・完結】鳳凰鳴けり~関白秀吉と茶々

みなわなみ

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日は昇る

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 翌朝、いや、まだ夜の続きの太陽が昇る随分前に、ふすまがそっと開いた。 
 寝所の中央にある大きな褥では、男と女が抱き合って眠っている。 
 二人を起こさぬように息を殺し、三方さんぽうを捧げた女が枕元へと進んだ。 

 そっと枕元へ三方を置いた女の目に、脱ぎ散らかされた男と女の夜着が映る。 
 (おまえさま…) 
 おねの頭の中に、布団の中で抱き合っている秀吉と茶々の姿が浮かんだ。 
 やれやれと言う思いと、茶々へのいくらかの嫉妬が胸を突く。 
 溜め息が出そうなのをグッとこらえ、おねは二人の夜着をソッと畳み、布団のそばに寄せた。 
 天を仰いで立ち上がったおねは、再び足音も立てず部屋から出、静かに静かに襖を閉めた。 

 襖の外で平伏した宿直とのいの侍女に、おねが小さく声をかける。 
「ご苦労じゃな。殿下はようお休みになっておるゆえ、いつものようには起こさず寝かせてやっておくれ。」 
「承知いたしました。」 
 頭を下げる侍女に女主人はゆっくり頷く。 
 (あのような格好をしておられるとは…茶々殿がそしられるではないか…。) 
 茶々を思いやるような感情が、おねは悋気りんきであるとすぐに自覚した。 
 秀吉にとって茶々が特別な女子なのを目の当たりにして、心がざわついている。 
 (よいことではないか…子を生んでもらわねば…) 
 しばらく襖を見つめていたおねが、フッと息をつき、打掛をひるがえした。 
「よろしく頼むぞ。」 
 小さな声で侍女に言い残し、部屋をあとにした。 

 ふすまの外で聞こえるかすかな気配に、秀吉の目が気づいた。 
 茶々の安らいだ寝息が身にかかってくる。 
 その向こうに、茶々の夜着がふんわりと畳まれて置かれていた。 
 (おねか……) 
 秀吉の目が、一瞬、はっとしたように開き、ぐるりと瞳が回る。 
 (…まぁ…よい……) 
 秀吉はそう思うと、再び眠りへと落ちた。 

◇◆◇

 日も上がった頃、秀吉は朝餉あさげを取る部屋へと姿を表した。 
「おっかぁ、来とりゃーしたか。」 
 久しぶりに朝から訪れてきているなかの顔を見、秀吉がにこやかに笑う。 
「あら、おまえさま。」 
 トストスと歩いてきた秀吉に、おねが驚いた。 
「お早いお戻りでございますね。」 
「約束であるからの。」 
 秀吉がほのかに微笑んだ。この城にいるときは、おねと朝餉を共にする。それが秀吉のけじめであった。 
「今日ぐらい茶々殿のもとで過ごされればようございましたのに……」 
 昔と同じようにご飯をよそいながら、のんびりとおねが言う。同時になかの大声がとんだ。
日吉ひよしっ!」 
「ひ・・よ・しじゃ」 
 秀吉が膳を前に座り、「またか」とばかりに顔をしかめ、母に向かって教えるように言う。 
「そんなことはどっちゃでもええぎゃ。おみゃぁ、ええ年からげて、まーた女子おなごに手をつけただか。おねのことも考えてみゃー。」 
 なかが皺だらけの顔で目を剥き、息をもつかず秀吉を責めた。しかし、息子は動じることもなく、汁に箸をつけ、ズズッとすする。 
「大名のたしなみじゃ。」 
 特に言い返すでもなく、秀吉はそれだけ言うと飯碗を受け取り、飯を掻き込んだ。 
「おみゃーは近頃、二言ふたこと目にはそれじゃ。どんだけえろうなったか知りゃーせんが、おねがいるおかげじゃにゃーか。」 
 ガツガツと飯を食う秀吉に、なかがパンパンと畳を叩きながら、にじり寄る。 
「わかっとる。」 
 秀吉は、ポリポリと漬け物を噛みながら、そっけない返事をした。 
「いーや、解っておりゃーせん。わしは心苦しい気がずつねーがや。おねー、すまんのう。」 
「いいえ、おかかさま。私もこの人の子を見てみちょーございますゆえ。」 
 心底申し訳なさそうな老義母なかに、おねは優しい微笑みを返す。 
 すかさず、秀吉が言葉を継いだ。 
「ほれ、おねがいいと言うちょーがね。」 
「こんたわけタァケが!」 
 なかの拳骨げんこつがコツンと秀吉の頭に落ちた。 
「いってぇ!」 
 秀吉が小さな子供のように頭を押さえる。 
 なかは、とがった唇の秀吉の頬をグイと摘まんで続けた。 
「開き直ってどうにゃーするがや。おねを大事でゃーじにせんと、わしゃー百姓に戻るでね。」 
いてぇいひょぃおっかぁおっひゃぁわかったわひゃったじゃからひゃから朝餉にあひゃげに戻ってもひょっちぇ来たんきひゃんだがね。」 
 秀吉が情けなさそうな顔で母に許しを乞い、おねに目で助けを求める。 

「おかかさま、許してあげてつかぁさい。この人から女子をとったら病気になります。」 
 おねがにっこりと真面目くさった顔を作り、なかにとりなした。 
「おねが言うなら、まぁええがや。」 
 息子の頬から手を離し、なかは膳の前へと戻った。 
「お~イテテ。おね~、そなたは儂の女神様じゃ。」 
 頬をさすりながら、秀吉はおねを拝んだ。 
「まぁ、調子のよい。」 
 あきれたようなおねの微笑みに、三人の笑い声が響く。 
「日吉。」 
「ひでよし、じゃ。」 
「おねを泣かせたら、わしが許さんでね。」 
「わかっちょーよ。おっかぁ。」 
 秀吉はおねを見て微笑み、またゆっくりと箸を進めた。 


*****
【三方】お供えなどに使われる台。
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