乙女ゲームは始まらない〜闇魔法使いの私はヒロインを降ります〜

えんな

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不思議猫のクロちゃん(2)

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ジークさんは部屋を訪れた直後、直ぐに彼は討伐の地に向かって行ってしまったらしい。
朝、目が覚めるとクロが教えてくれた。
ジークさんにはもう少し詳しく話を聞きたかったのだけれど。
例えば、竜毒さんから生命力を奪われるのはどのくらいの周期なのかとか、一日のうちでどの時間帯に起こるのかとか。
こっちはジークさんの契約相手なのに、相談無くひとり勝手に色々されるのは困るのですけどね。

「竜毒さんから生命力を吸われる周期ってあるのかな?」

腕立て伏せをしながら、ソファーで寝ているクロに聞いてみた。

『決まってないね。ひと月無いこともあれば2日も空けず起こることもあったよ』

えー、決まってないの?
竜毒さんの気分で起こる現象なの?

「何かキッカケとかあるの?何か食べると起こるとか、睡眠不足だと起こるとか?」
『特に無いかな?でも、ルナが毒を吸ってからはひと月以上起きてないよ』

そっかー、私だって役に立っているじゃあないか。
身体張った甲斐があった、良か良か。
でも、先日、竜毒さんに生命力を吸われてからひと月は経っている。
やっぱり、そろそろマズイのではないだろうか?
ひとり悩んでいると、ソファーから降りたクロが膝上に登ってきた。

『じゃあ、そろそろ僕たちも出発しようか』

ピクニックにでも出かけるみたいに、クロは何だか楽しそうだ。

「嬉しそうだね、クロ」
『ご主人さまを驚かせるのって楽しいよね』

クロはご機嫌だが、こちらは気が重い。
この部屋の中以外でジークさんに会ったら最後、怒鳴られるだけでは済まないだろう。
先日、何処かのお屋敷を吹っ飛ばしたみたいに、私も何処かに吹っ飛ばされるかも知れない、泣。

『その格好で良いの?』

昨夜、ジークさんに呆れられた男の子の格好をする。
髪の毛は三つ編みをしてから帽子の中に突っ込み、フードを被った。
妖術師に出会っても、私だとバレなければ良いのだ。
お菓子と水筒、クセポで稼いだ現金を少し、背負い鞄に入れて準備完了だ。

「うん!さあ、ジークさんの元に連れて行って!」

さあ、何でも来い!
ジークさんに怒られる覚悟は出来た。
何処へなりと飛ばしておくれ。

『本当、ルナって面白いよね』

クロはそう言うと、足取り軽く私の左肩に飛び乗った。

『ルナ、こっち向いて?』

左肩のクロに言われ顔を向けると、左眼に向かってクロが頭突きをしてきた。

うげ。

次の瞬間、目の前が真っ暗になり、あの夢?の時みたいに方向感覚が分からなくなった。
足の裏にあった筈の硬い床が柔らかくなって立っていられず、バランスを崩してフラフラする。

「クロ?!これは何?」

慌てて探せば肩に居た筈のクロは消え、黒い靄の中に大きな青い眼がふたつ空間に浮いていた。

『ご主人さまを思い浮かべて。そこに連れていくから』

空間に落ち着いた声がこだました。
クロの少し濃い青の瞳に吸い込まれそうだ。
左眼の奥が熱をもったように熱く感じる。
視線を逸らせずに注視していると、その瞳の中にジークさんの横顔が浮かんで来た。
誰かと何か話しているようだ。

「・・・ジークさん?」

つい名前を呼んでしまった。
すると、ジークさんは両眼を見開いて私の方を振り返った。
ジークさんの口が私の名前を呼ぶように動いた。
けれども声は聞こえない。
視線を合わせようと覗き込んだけれど、ジークさんは周りを見回していて私が見えていないようだった。
そう言えば、以前、同じような事があったな。
何処かの神殿みたいな所で老人が斬りつけられて、襲った男は私の声が聞こえていたようだった。
あれは何だったのだろう?

「ジークさん、今からそこに行きますよ。あまり怒らないで下さいね」

聞こえているなら、早めに謝っておいて損はないだろう。
クロの青い瞳に手を伸ばす。
すると突然、以前夜会で見た魔法陣が左眼に浮かび上がり、眼の奥から背中を突き抜けるように伸びる何か強い力を感じた。
次の瞬間、見えざるその力で身体ごと勢いよく後ろへ引っ張られてしまった。
え? 
クロちゃん、前に居たのではないの?

『ルナ、ごめん。横槍が入ったよ。ちょっと寄り道になっちゃうね』

へ?
横槍?
寄り道って何?

焦る私とは対照的に、クロはとても楽しそうだ。
凄い速さで何かに吸われるように後ろ向きに引っ張られ、クロの瞳からどんどん引き離されていく。

『久し振りにワクワクするな。大丈夫だよ、ルナ。困ったら僕を呼んでね』

嬉しそうなクロの声も次第に遠退き、暗い空間の中ひとり後ろへ高速移動させられている私は、またもや何かの死亡フラグに吸い寄せられているのかと嘆くしかなかった。
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