上 下
1 / 3

プロローグ1

しおりを挟む
今日は私、ティアナ・クリスタの17歳の誕生日だ。召使いの人達、お母様にお兄様と、たくさんの人達が私を祝福してくれた。

「ティアナ、おめでとう。これで貴女も立派な令嬢の仲間入りね。はい、これ。貴女が17になったら渡そうと思ってたの」

お母様は優しく微笑んで私に黄色いドレスを手渡して来た。『私のお下がりでごめんなさいね』だなんて言うけどとんでもない。全然綺麗だし元はと言えば私がこのドレスを欲しいと言ったのだ。お母様の大切にしてるものだからまさか17歳の誕生日に本当にくれるとは思わなかった。

「お母様、ありがとうございます!」

私はドレスを握り締めてお母様に感謝の言葉を告げた。

「ティアナ、僕からはこちらを」

お兄様は小さな箱を取り出し私に差し出してきた。一体中に何が入ってるのかと首を傾げる私に見せつける様にしてお兄様はゆっくりとその箱を開けた。

その中に入ってたのはキラキラと真ん中の宝石が輝くネックレスだった。宝石の中には小さな黄色の花が入っていた。

「・・・これはマリー、ゴールド?」
「ティアナにはこのお花が似合うと思ったんだ」

お兄様らしからぬ贈物に目が点になる私をお兄様はくすくすと笑っていた。

「僕が着けてあげるよ」

そう言うが早いかお兄様は後ろに回って私の首に鎖を通した。

「うん、凄く似合ってる。・・・おめでとうティアナ、本当に綺麗になったね」
「ふふっ、ありがとうございます」

真正面から言われると照れ臭い部分もあるけどお兄様に言われるのは心地が良くて好きだ。

「お嬢様、お誕生日おめでとうございます」

そう言うのはメイドのミワだ。手には苺と生クリームたっぷりのケーキがあった。

「ありがとう、ミワ。貴女がこの家に来てくれて良かったわ」

ミワがこの家のメイドになったのは私が8歳の頃だった。ミワはS級メイドと讃えられるくらいなんでもそつなくこなすが何も出来ない私に愛想を尽かすわけでもなく温かく見守ってくれた。今の私が居るのは間違いなく半分はミワと言う存在が居たからだろう。

「勿体ないくらいのお言葉です。ですが、感謝するのはこちらです。他所者の私に貴女は罵倒せず親切にして下さりました。その時から私は心に決めたのです。この命がある限り、お嬢様を側でお守りすると」

ミワは私の手を両手で包み込む様に握り締めた。

ミワがずっと居てくれるのは嬉しいけどミワは結婚とか考えてないのだろうか。昔は相手が居たみたいだけど今はそう言う方が居ないみたいだし。ミワには私の事なんか気にせず自分の幸せを考えて欲しい。だけどミワの真剣な眼差しを見てしまってはそんな事言うべきではないと思い知らされる。


私には生まれた頃から魔力が感じられなかった。お父様もお母様もお兄様も皆、魔法を使えるのに私だけが無能力者だった。そんな私の事を周りは『貴族の貧乏くじ』『不幸な御令嬢』と罵った。でもお父様、お母様、お兄様にミワを筆頭にするメイド達は無能の私にいつでも優しく接してくれた。『魔法を使えなくたってティアナはティアナだよ』って笑いかけてくれたのだ。だから私は自分の事を不幸な子と思ったことがない。

私は世界一幸せな子だって胸を張って言えた・・・・・今日までは。


「お父様は今日は帰って来られるんですか?」
「えぇ、勿論よ。あの人が愛する娘の誕生日に帰らない選択肢があるわけないでしょ?」

私のお父様は仕事で他国を回っており、家を空ける時が多々とある。だけど私の誕生日の時にはいつも家に帰って来てくれて一日中側に居てくれた。だけど今日は何だか帰りが遅い。仕事が立て込んでるのだろうか。帰って来たらお父様に私特製のハーブティーを淹れてあげよう。そう心に決めてお父様の帰りを待つ事にした。

暫くお母様やお兄様と談笑していると玄関の戸の開く音と共に深みのある声が聞こえてきた。

間違いなくお父様だ。

私は勢い良く椅子から立ち上がると呼び止める皆を押し切って玄関へと向かった。


私が玄関に猛ダッシュで向かうとやはりお父様がそこには居た。嬉しさのあまり抱き着きに行こうとしたとこで私はあるものに気付く。

「お父さっ・・・・・ま?」
「誕生日おめでとう、ティアナ。今年も素晴らしいプレゼントを用意したよ」

お父様の足元に転がってるもの・・・。


それは間違いなく人だった。










しおりを挟む

処理中です...