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Ⅳ.追う者、追われる者
ユイと総統
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「──総統、失礼してもよろしいでしょうか」
…ユイとセレンの二人が、ヴィルザーク邸跡地で、無防備にも、そんなやり取りをしていた頃…
冷酷非道な組織で名高いBreak Guns側も、暗躍するかの如く、至極ゆるやかに…
その本腰を見せ始めていた。
総統の居る部屋に繋がる扉の前を塞いだままのエルダを、命令ひとつで下がらせ、彼女を嘲笑うケイオスとゼオンが中に吸い込まれるのを静観したロゼは、そのまま総統の部屋の前へと足を運んだ。
そして、再び問う。
「総統」
…程なくして中から、総統の低くも、澄んだ声が響いた。
「ロゼか。入るがいい」
「はい、失礼します」
ロゼは軽く会釈をすると、目の前の、固く閉ざされていた扉を開いた。
と同時に、何か凍りつくような恐怖が背中を支配する。
だがロゼは、その種の恐怖には慣れていた。
そして…知ってもいた。
これは総統の持つ、独特の空気と雰囲気が興す事象。
総統こそは、犯罪者集団で名高い暗殺組織・Break Gunsの最高実力者であり、同時に最高権力者でもある。
…故に本能がそれに怯え、そして怯まない訳がない。
部屋に足を踏み入れたロゼは、後ろ手に扉を閉めた。
その視線を窓側に向ければ、何の不自然もなく周りを高級な調度品に囲まれ、これまた見た目も高価そうな椅子に、ゆったりと腰を落ち着けた、総統がいる。
その傍らには、総統に呼び出され、入室を許された、ケイオスとゼオン。
彼らはロゼが入って来たことで、一瞬だけそちらに警戒げに目をやったが、やがて、部屋に入って来た者が自分たちより格上のロゼであると分かると、すぐにまた、総統の元へと視線を戻した。
程なく、ロゼの視線に気付いた総統は、その瞳を捉えて僅かに冷笑した。
「用件は何だ?」
「…先程の、エルダ=フォン=サミエルの報告の件ですが…」
「…やはりな」
音も立てずに、総統は椅子から上半身を起こす。
そしてその指を自らの腹の上で組むと、変わらず冷笑を浮かべながら、再び口を開いた。
「…先程の、この二人とエルダのやり取りからも窺えただろうが…
どうやら、ユイが例の娘と行動を共にしているらしい」
「!」
ロゼの顔色が目に見えて変わる。
「…ユイが…?」
「ああ」
…その冷たい笑みを潜めながら、それでも総統は苛立ちを露わにし、自問する。
(…何故だ、ユイ…
お前は何故、戻らない…?
組織に反し敵対する家の娘を庇い、あまつさえ、幹部クラスのエルダを退ける為だとはいえ、組織内でも完全に禁忌としたはずの、闇の魔術までもを使うとは…!)
だが、逆に考えればユイは、自分の正体が露見する危険性を省みる事なく、その少女を救いたかったという事になる。
その少女…セレンも、そうまでユイが動かなければならないほど、特別な何かがある訳でもない。
…ならば、何故あのユイが動いたのか。
たかが一介の、そんな少女の為に。
何故、闇の魔術を使ったのか…!
「…ケイオス、ゼオン」
我知らず、総統の口調には怒りが混じる。
それに敏感に気付いたケイオスとゼオンは、顔を見合わせると、すぐに総統に向かって頭を下げた。
それを苛立ちを含んだ瞳で見やりながら、総統が告げる。
「知っての通り、ユイはセレンという娘と共に行動している。
…セレンはあの、切れ者と謡われ、我々の組織に牙をむいた、忌々しいヴィルザーク侯爵の娘…
このまま生かしておく訳にはいかん」
総統の瞳に、一流の犯罪者と、稀なる魔力の持ち主こそが併せ持てるであろう、ぞっとするほど残虐な光が宿る。
「娘は殺せ。…貴様らの慰み物にした後に引き裂くも、屍を晒し者にし、腐るまで放置するも、好きにするがいい…」
その声にも、氷点下の息吹きを含んだ総統の言は、まさしく情け容赦もない。
周囲の者が、命令の内容というよりはその総統の雰囲気に呑まれ、息を呑む中、総統は続けて、こう付け加えた。
「…当然、娘に加担したユイにも、何らかの責め苦を味わわせなければならん。
貴様らの魔力はユイのそれにも及ばないだろうが、腐っても貴様らは幹部クラスのはずだ。
…抹消されたくなければ、どんな手を使ってでもユイを捕らえて俺の前に引き出せ。いいな」
最後は身の毛もよだつような鋭い目で睨まれて、組織の幹部クラスに名を連ねるはずのケイオスとゼオンが、びくりと身を竦ませた。
それなりの力ある者を、その力ではなく、ただのひと睨みで制圧する。
…それが暗殺組織の頂点に立つ総統の恐ろしさでもあり、同時に途方もないカリスマ性でもあった。
その総統の持つ独特の雰囲気に、肝を冷やしたまま、動きも取れずにいるケイオスとゼオンに、ロゼは見かねて助け舟を出した。
「…返事はどうした、貴様ら」
「!」
ロゼに言われて初めて、二人は我に返る。
…ユイとセレンの二人が、ヴィルザーク邸跡地で、無防備にも、そんなやり取りをしていた頃…
冷酷非道な組織で名高いBreak Guns側も、暗躍するかの如く、至極ゆるやかに…
その本腰を見せ始めていた。
総統の居る部屋に繋がる扉の前を塞いだままのエルダを、命令ひとつで下がらせ、彼女を嘲笑うケイオスとゼオンが中に吸い込まれるのを静観したロゼは、そのまま総統の部屋の前へと足を運んだ。
そして、再び問う。
「総統」
…程なくして中から、総統の低くも、澄んだ声が響いた。
「ロゼか。入るがいい」
「はい、失礼します」
ロゼは軽く会釈をすると、目の前の、固く閉ざされていた扉を開いた。
と同時に、何か凍りつくような恐怖が背中を支配する。
だがロゼは、その種の恐怖には慣れていた。
そして…知ってもいた。
これは総統の持つ、独特の空気と雰囲気が興す事象。
総統こそは、犯罪者集団で名高い暗殺組織・Break Gunsの最高実力者であり、同時に最高権力者でもある。
…故に本能がそれに怯え、そして怯まない訳がない。
部屋に足を踏み入れたロゼは、後ろ手に扉を閉めた。
その視線を窓側に向ければ、何の不自然もなく周りを高級な調度品に囲まれ、これまた見た目も高価そうな椅子に、ゆったりと腰を落ち着けた、総統がいる。
その傍らには、総統に呼び出され、入室を許された、ケイオスとゼオン。
彼らはロゼが入って来たことで、一瞬だけそちらに警戒げに目をやったが、やがて、部屋に入って来た者が自分たちより格上のロゼであると分かると、すぐにまた、総統の元へと視線を戻した。
程なく、ロゼの視線に気付いた総統は、その瞳を捉えて僅かに冷笑した。
「用件は何だ?」
「…先程の、エルダ=フォン=サミエルの報告の件ですが…」
「…やはりな」
音も立てずに、総統は椅子から上半身を起こす。
そしてその指を自らの腹の上で組むと、変わらず冷笑を浮かべながら、再び口を開いた。
「…先程の、この二人とエルダのやり取りからも窺えただろうが…
どうやら、ユイが例の娘と行動を共にしているらしい」
「!」
ロゼの顔色が目に見えて変わる。
「…ユイが…?」
「ああ」
…その冷たい笑みを潜めながら、それでも総統は苛立ちを露わにし、自問する。
(…何故だ、ユイ…
お前は何故、戻らない…?
組織に反し敵対する家の娘を庇い、あまつさえ、幹部クラスのエルダを退ける為だとはいえ、組織内でも完全に禁忌としたはずの、闇の魔術までもを使うとは…!)
だが、逆に考えればユイは、自分の正体が露見する危険性を省みる事なく、その少女を救いたかったという事になる。
その少女…セレンも、そうまでユイが動かなければならないほど、特別な何かがある訳でもない。
…ならば、何故あのユイが動いたのか。
たかが一介の、そんな少女の為に。
何故、闇の魔術を使ったのか…!
「…ケイオス、ゼオン」
我知らず、総統の口調には怒りが混じる。
それに敏感に気付いたケイオスとゼオンは、顔を見合わせると、すぐに総統に向かって頭を下げた。
それを苛立ちを含んだ瞳で見やりながら、総統が告げる。
「知っての通り、ユイはセレンという娘と共に行動している。
…セレンはあの、切れ者と謡われ、我々の組織に牙をむいた、忌々しいヴィルザーク侯爵の娘…
このまま生かしておく訳にはいかん」
総統の瞳に、一流の犯罪者と、稀なる魔力の持ち主こそが併せ持てるであろう、ぞっとするほど残虐な光が宿る。
「娘は殺せ。…貴様らの慰み物にした後に引き裂くも、屍を晒し者にし、腐るまで放置するも、好きにするがいい…」
その声にも、氷点下の息吹きを含んだ総統の言は、まさしく情け容赦もない。
周囲の者が、命令の内容というよりはその総統の雰囲気に呑まれ、息を呑む中、総統は続けて、こう付け加えた。
「…当然、娘に加担したユイにも、何らかの責め苦を味わわせなければならん。
貴様らの魔力はユイのそれにも及ばないだろうが、腐っても貴様らは幹部クラスのはずだ。
…抹消されたくなければ、どんな手を使ってでもユイを捕らえて俺の前に引き出せ。いいな」
最後は身の毛もよだつような鋭い目で睨まれて、組織の幹部クラスに名を連ねるはずのケイオスとゼオンが、びくりと身を竦ませた。
それなりの力ある者を、その力ではなく、ただのひと睨みで制圧する。
…それが暗殺組織の頂点に立つ総統の恐ろしさでもあり、同時に途方もないカリスマ性でもあった。
その総統の持つ独特の雰囲気に、肝を冷やしたまま、動きも取れずにいるケイオスとゼオンに、ロゼは見かねて助け舟を出した。
「…返事はどうした、貴様ら」
「!」
ロゼに言われて初めて、二人は我に返る。
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