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第一部【蠢く敵】
焦らし焦らされ沸騰し
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《ファルスの街》
…何となく西洋を思わせるような街並みのファルスの街に着いた時には、既にリックとライムはくたびれ果てていた。
シグマを含めた三人の傍らに、いつの間にかひとりの青年が居ることすら、その時点まで尋ねる気力もなかった。
すっかり疲れ果てて…それでも堪り兼ねたようにリックが問いかける。
「あの森から、もう20キロは歩いたぜ。…おまけに街になんかとっくに着いてるってのに…
もういい加減、目的くらいは教えてくれてもいいんじゃねぇか…?」
するとそれに便乗し、ライムも頷いた。
「そーよぉ…それにその人一体…誰なのよ? おまけにクレアも何処か行ってるし…ちょっとシグマ、聞いてるの?
聞いてるなら、頼むから…返事くらいしてよね…」
20キロの道程を歩きながらも、後方でへたばっている二人とは対称的に、けろりとした表情で歩いていたシグマは、振り返ることもなく答えた。
「聞いてる。…ここに来たのは、この街に用があるからだ。それからクレアは、別に何処にも行っていない。ここにいる」
「え…? …ここって…何処よ?」
ライムが当然のように首を傾げる。
「お前が不思議がってる奴だ。俺の隣にいるだろう?」
「へ…?」
ライムは一瞬立ち止まり、そのまま、顔を見合わせたリックと共に、シグマと青年の隣まで走った。
並び寄ることで、青年の容姿を上から下まで眺めることが可能になったリックが、驚いて目を見開く。
「ひょっとして、この…水色を混ぜたような、銀の瞳を持ったこの兄ちゃんが…、あの…ちびドラゴン…なのか!?」
するとそれを聞き付けた青年は、ちらりとリックの方を見やった。
「──おいリック、“ちび”は余計だ。…お前が小さい頃、シグマとお前と、一緒に遊んでいた俺を忘れたのか?」
「へ? …って、もしかして…あん時のもう一人の幼なじみって…」
リックの表情に、青年は一転して不敵に笑い、頷いてみせる。
「そう。俺だ」
「!げっ…マジか!? でも…確か、あん時の奴の名前は、“リジェス”だったような…?」
「ああ、それは──」
言いかけたクレアに代わって、シグマが変わらず前方を見ながら呟いた。
「今更になるけどな。こいつの正式名は、“クレア・ドラゴン=リジェス”っていうからだ」
…その長々しい名前に疑問を覚え、なおかつ理解不可能なライムの眉が自然、寄せられる。
話を知らない人間の反応からすれば、まあこれはまさしく妥当であると言えるのだが。
それでもこの性格のライムが、そのまま大人しく頷き引っ込むはずもなかった。
「ちょっとシグマ…一体どれが名前なのよっ!?」
噛みついて、答えを待つように上目遣いでシグマを見る。
一方のシグマはこれを予測していたのか、眉根を寄せて憮然としたまま答えた。
「だから、本当はそれ自体が名前なんだ。ドラゴンの前に付く名…つまりこの場合は“クレア”だが、これは種族を意味しているからな」
「だから、昔はリジェスって呼ばれていたんだが、シグマが…」
「そう。俺が、“クレア”の方が、呼びやすいって言ったんだ」
シグマとクレアの二人は、顔を見合わせて笑った。
屈託なく笑うその様子には、他者が到底踏み込めない、共有した年月という名の空気が存在する。
しかしライムは、それを漠然と感じながらも、知らぬ間に率直な感想を口にしていた。
「なんか…ただ、ややこしいだけのような気がするけど…」
ライムの言葉はもっともだったが、それ自体に更に釈然としない者が他にいた。
その憤りをぶつけるかの如く、ライムが言い終わるか終わらないかのうちに、リックが苛立った口調で溜め息混じりに喚く。
「だーっ! んなこたどうでもいいぜ! ──目的だ! 目的! 何でここに来たんだよ。下らねぇ事なら、俺はさっさと帰るぜ…って、おい、シグマ! 何を…」
「いや、これって…やっぱり、あいつらだなと思ってな」
シグマはいつの間にか話の輪から離れ、近くの建物の壁に貼られていた人相書きを眺めていた。
…どこかで見たような顔が、そこに並んでいた。
シグマは更に下に目を落とした。
首に掛けられた賞金は、意外にもなかなかに高額だ。
不意にリックが、背後から覗き込むようにそれを確認し、初めて気付いたように肩を竦める。
「ああ、壁に貼られた人相書きか。そりゃあいつらだって、ああ見えても幹部クラスだし、色々やるからな…って、そうじゃない! 話を逸らすな、話を! もう今度という今度は正直に言えよ! シグマ!」
「…まるで俺が嘘つきみたいな言い方だな」
「そうじゃないのか?」
クレアがさらりとした口調を伴い、笑む。
それにシグマは、細めた目をクレアに走らせた。
「煩いぞ。余計な事は言うな」
「ちょっとシグマ、早く言わないと、リックの頭から湯気出てるじゃないの!」
ライムが口を挟む。
言われてシグマがそちらに目をやると、なるほどリックの頭からは、湯気という表現が至極適切な、怒りの煙が出ていた。
「沸騰したのか…なら仕方がない」
シグマが軽率な言葉を落とす。
「!あのな…普通は沸騰する前に言うんだよ! そこんとこ分かってんのか!?」
リックが詰め寄ると、シグマはふと一転して真顔になり、リックの言うことに素直に頷いた。
「勿論。…俺がファルスに来た理由は、ひとつだけだ。簡単に言えば、人探しだな」
「人探し?」
ライムが興味津々に尋ねる。
それにシグマは、また頷いた。
「ああ。もう少し分かりやすく言うと、魔法剣士だ。それもえらく凶悪な奴」
「おい…まさかと思うが、それってひょっとして──名前はルーファスってんじゃないだろうな!?」
…何となく西洋を思わせるような街並みのファルスの街に着いた時には、既にリックとライムはくたびれ果てていた。
シグマを含めた三人の傍らに、いつの間にかひとりの青年が居ることすら、その時点まで尋ねる気力もなかった。
すっかり疲れ果てて…それでも堪り兼ねたようにリックが問いかける。
「あの森から、もう20キロは歩いたぜ。…おまけに街になんかとっくに着いてるってのに…
もういい加減、目的くらいは教えてくれてもいいんじゃねぇか…?」
するとそれに便乗し、ライムも頷いた。
「そーよぉ…それにその人一体…誰なのよ? おまけにクレアも何処か行ってるし…ちょっとシグマ、聞いてるの?
聞いてるなら、頼むから…返事くらいしてよね…」
20キロの道程を歩きながらも、後方でへたばっている二人とは対称的に、けろりとした表情で歩いていたシグマは、振り返ることもなく答えた。
「聞いてる。…ここに来たのは、この街に用があるからだ。それからクレアは、別に何処にも行っていない。ここにいる」
「え…? …ここって…何処よ?」
ライムが当然のように首を傾げる。
「お前が不思議がってる奴だ。俺の隣にいるだろう?」
「へ…?」
ライムは一瞬立ち止まり、そのまま、顔を見合わせたリックと共に、シグマと青年の隣まで走った。
並び寄ることで、青年の容姿を上から下まで眺めることが可能になったリックが、驚いて目を見開く。
「ひょっとして、この…水色を混ぜたような、銀の瞳を持ったこの兄ちゃんが…、あの…ちびドラゴン…なのか!?」
するとそれを聞き付けた青年は、ちらりとリックの方を見やった。
「──おいリック、“ちび”は余計だ。…お前が小さい頃、シグマとお前と、一緒に遊んでいた俺を忘れたのか?」
「へ? …って、もしかして…あん時のもう一人の幼なじみって…」
リックの表情に、青年は一転して不敵に笑い、頷いてみせる。
「そう。俺だ」
「!げっ…マジか!? でも…確か、あん時の奴の名前は、“リジェス”だったような…?」
「ああ、それは──」
言いかけたクレアに代わって、シグマが変わらず前方を見ながら呟いた。
「今更になるけどな。こいつの正式名は、“クレア・ドラゴン=リジェス”っていうからだ」
…その長々しい名前に疑問を覚え、なおかつ理解不可能なライムの眉が自然、寄せられる。
話を知らない人間の反応からすれば、まあこれはまさしく妥当であると言えるのだが。
それでもこの性格のライムが、そのまま大人しく頷き引っ込むはずもなかった。
「ちょっとシグマ…一体どれが名前なのよっ!?」
噛みついて、答えを待つように上目遣いでシグマを見る。
一方のシグマはこれを予測していたのか、眉根を寄せて憮然としたまま答えた。
「だから、本当はそれ自体が名前なんだ。ドラゴンの前に付く名…つまりこの場合は“クレア”だが、これは種族を意味しているからな」
「だから、昔はリジェスって呼ばれていたんだが、シグマが…」
「そう。俺が、“クレア”の方が、呼びやすいって言ったんだ」
シグマとクレアの二人は、顔を見合わせて笑った。
屈託なく笑うその様子には、他者が到底踏み込めない、共有した年月という名の空気が存在する。
しかしライムは、それを漠然と感じながらも、知らぬ間に率直な感想を口にしていた。
「なんか…ただ、ややこしいだけのような気がするけど…」
ライムの言葉はもっともだったが、それ自体に更に釈然としない者が他にいた。
その憤りをぶつけるかの如く、ライムが言い終わるか終わらないかのうちに、リックが苛立った口調で溜め息混じりに喚く。
「だーっ! んなこたどうでもいいぜ! ──目的だ! 目的! 何でここに来たんだよ。下らねぇ事なら、俺はさっさと帰るぜ…って、おい、シグマ! 何を…」
「いや、これって…やっぱり、あいつらだなと思ってな」
シグマはいつの間にか話の輪から離れ、近くの建物の壁に貼られていた人相書きを眺めていた。
…どこかで見たような顔が、そこに並んでいた。
シグマは更に下に目を落とした。
首に掛けられた賞金は、意外にもなかなかに高額だ。
不意にリックが、背後から覗き込むようにそれを確認し、初めて気付いたように肩を竦める。
「ああ、壁に貼られた人相書きか。そりゃあいつらだって、ああ見えても幹部クラスだし、色々やるからな…って、そうじゃない! 話を逸らすな、話を! もう今度という今度は正直に言えよ! シグマ!」
「…まるで俺が嘘つきみたいな言い方だな」
「そうじゃないのか?」
クレアがさらりとした口調を伴い、笑む。
それにシグマは、細めた目をクレアに走らせた。
「煩いぞ。余計な事は言うな」
「ちょっとシグマ、早く言わないと、リックの頭から湯気出てるじゃないの!」
ライムが口を挟む。
言われてシグマがそちらに目をやると、なるほどリックの頭からは、湯気という表現が至極適切な、怒りの煙が出ていた。
「沸騰したのか…なら仕方がない」
シグマが軽率な言葉を落とす。
「!あのな…普通は沸騰する前に言うんだよ! そこんとこ分かってんのか!?」
リックが詰め寄ると、シグマはふと一転して真顔になり、リックの言うことに素直に頷いた。
「勿論。…俺がファルスに来た理由は、ひとつだけだ。簡単に言えば、人探しだな」
「人探し?」
ライムが興味津々に尋ねる。
それにシグマは、また頷いた。
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