双華 シンジ

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水分補給

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 コップに入った水道水を飲む、喉を鳴らして豪快に。俺は水が好きだ、何故かは解らない。カーテンを閉め切った薄暗い部屋で、昼間からただただ水を飲み続ける。これが俺の生き甲斐だ。因みに仕事はしてない、生活保護を受けている。働きたくなくなって三年が経ったが、未だにどうにも働く気になれない。その理由も解らない。ふと時計を見ると針は午後五時を指していた。昼間だと思っていたが、もう夕方だった訳だ。溜め息をつきながらソファーに横たわった自分の身体を起こすと、丁度インターホンが鳴った。せっかく起き上がったのだ、ついでに出てみるとしよう。そう思った俺は、コップと空になりそうな二リットルペットボトルが不躾に置かれたたソファー横の長机を横目に玄関に向かった。運動不足と水分の多量摂取により重い身体は、後悔する俺にのし掛かりソファーに戻る気力を失わせ、それと共に玄関へ向かう気力さえも失わせた。俺は観念して、玄関へ向かう事を選び、急いで汚れた革靴を履くとドアを開けた。夕日が眩しい、俺は思わず目を細め、夕日に手をかざした。眩しさに驚いた俺はすっかりインターホンの対応の為に玄関に来たことを忘れており、呼び掛けられるまで存在に気付けなかった。
「あの、関口タケルさんで間違いありませんでしょうか?」
「え?あ、はい。間違いありませんが、何かご用でしょうか。」
「実は貴方にお願いがあるのです、どうか話を聞いて下さいませんか。」
「別に構いませんが、立ち話もなんですし一先ず部屋へ入りましょう。少し待っていて下さい、生憎部屋が散らかっているもので。直ぐに片付けますから。」
ドアの前にいたのは俺と同じぐらいの年格好をした男性だった。その立ち振舞いには落ち着きがなく、それでいて元気があるわけでもない。寧ろ、顔色が悪いように見えた。彼が何者で何故顔色が悪いのかも気になるが、そもそも一体何故俺の事を知っているのだろう。俺が二十三で就職してから二年、二十五で会社を辞め生活保護を受け始めてから三年。俺と同じぐらいと考えると大体二十八歳になるわけだ。その間、彼にも彼に似た人物にも面識がなかった。しかしながら俺ももうアラサーか。俺は自分の年齢と時の流れの早さを再確認しながら、それでも物思いに耽ることなく彼の為に急いで部屋を片付けた。
「すいません、お待たせしました。どうぞお入り下さい。」
「ありがとうございます、お邪魔します。」
 彼は申し訳なさそうにドアを潜ると玄関で突然倒れてしまった。
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