15 / 147
第三章 銀の百合
銀の村
しおりを挟む
カフェで花屋の店主と落ち合うと、皆はそれぞれ好きな飲み物を選んで話を始めた。
「まず、この銀の花のことなんだが」
店主が真っ先に口を開く。
「この町の街道を挟んで西側に村があるのは知っているだろう?」
ジャンヌが、頷いた。
「地図で見たよ。その村がどうかしたの?」
すると、店主は顔を暗くして事情を話し始めた。
「これは最近のことなんだが、その村に旅行に来ていた月の花小人が、その村をいたく気に入ってね、長期滞在することになったんだ。そうしたら、村にある日大きなクマが襲ってきた。その年は近くにある森の木の実が不作で、クマは郷に出てこなければならなくなっていた。そのクマから村の人々を守ろうと、その月の花小人は自分の命を懸けてクマを抑え込んだ。クマは命からがら山へ帰って、それ以来郷を襲うことはなくなった。しかし、花小人は大きな錬術を使ってしまったために命を失ってしまった。その花小人が死んだあと、村は銀の森に呑み込まれて銀の村になった。それからというもの、その村の住人は年を取ることがなくなったが、銀の村から出ることができなくなってしまったのだ」
話の途中でリゼットの紅茶とジャンヌのコーヒーが来た。二人はある程度飲み物が冷めるまで店主の話に耳を傾けた。
「銀の村の住人のほとんどは、隣町であるこの宿場町に出てきて働いていた。だから、村を出られなくなってしまってからは何も買うこともできず、稼ぐこともできなくなっていた。だが一つ、彼らに稼ぐための手段があった。それが、銀の細工物だ。銀に変わってしまったあらゆるものを、我々町の人間が村から預かってきてはここで売る。そして、町で買い物をして、それを村に届けているんだよ。食料や、衣料品なんかをね」
「そういうことだったのか。だが、銀の森の伝承を知る人間は少なくない。銀の森の花は、売れているのか?」
クロヴィスが問いかけると、店主はすこし寂しそうに笑いながら答えた。
「悲しいことに、売れていくんですよ。銀細工って標榜すればね」
「たしかに、僕は初めて見た時、すごくきれいな花だなって思って、欲しくなった」
エリクは、そう言って店主に向かって笑いかけた。
「その、月の花小人さんは、大好きな村を守れてうれしかったんだと思う。きっと、あの花がきれいなのはそのせいだよ。僕は、あの花を売ってもいいと思う。あの村の花ならば。だって、花小人さんが守った村の花なんだから」
「私もね」
店主は、そう言って、エリクの手を握った。
「そう思ったから店頭に置いた。少しでも心のある花屋なら、普通は銀の花など置かない。でも、あの村のことを知ってここにくるお客さんもいる。だから、ここに置いているんだよ」
その二人のやり取りを見て、やれやれ、と、他の三人は肩をすくめた。
「話は分かった。だが、あんたの話がどこまで本当かはまだ分からない。村に行かせてもらってもいいか?」
クロヴィスが提案すると、店主は了解した。
三人は、クロヴィスとエリクの飲み物が来るのを待って、飲み終わると店を出た。そして、村に行くのは明日にすることにして、今日のうちは予約した宿で休むことに決めた。
「まず、この銀の花のことなんだが」
店主が真っ先に口を開く。
「この町の街道を挟んで西側に村があるのは知っているだろう?」
ジャンヌが、頷いた。
「地図で見たよ。その村がどうかしたの?」
すると、店主は顔を暗くして事情を話し始めた。
「これは最近のことなんだが、その村に旅行に来ていた月の花小人が、その村をいたく気に入ってね、長期滞在することになったんだ。そうしたら、村にある日大きなクマが襲ってきた。その年は近くにある森の木の実が不作で、クマは郷に出てこなければならなくなっていた。そのクマから村の人々を守ろうと、その月の花小人は自分の命を懸けてクマを抑え込んだ。クマは命からがら山へ帰って、それ以来郷を襲うことはなくなった。しかし、花小人は大きな錬術を使ってしまったために命を失ってしまった。その花小人が死んだあと、村は銀の森に呑み込まれて銀の村になった。それからというもの、その村の住人は年を取ることがなくなったが、銀の村から出ることができなくなってしまったのだ」
話の途中でリゼットの紅茶とジャンヌのコーヒーが来た。二人はある程度飲み物が冷めるまで店主の話に耳を傾けた。
「銀の村の住人のほとんどは、隣町であるこの宿場町に出てきて働いていた。だから、村を出られなくなってしまってからは何も買うこともできず、稼ぐこともできなくなっていた。だが一つ、彼らに稼ぐための手段があった。それが、銀の細工物だ。銀に変わってしまったあらゆるものを、我々町の人間が村から預かってきてはここで売る。そして、町で買い物をして、それを村に届けているんだよ。食料や、衣料品なんかをね」
「そういうことだったのか。だが、銀の森の伝承を知る人間は少なくない。銀の森の花は、売れているのか?」
クロヴィスが問いかけると、店主はすこし寂しそうに笑いながら答えた。
「悲しいことに、売れていくんですよ。銀細工って標榜すればね」
「たしかに、僕は初めて見た時、すごくきれいな花だなって思って、欲しくなった」
エリクは、そう言って店主に向かって笑いかけた。
「その、月の花小人さんは、大好きな村を守れてうれしかったんだと思う。きっと、あの花がきれいなのはそのせいだよ。僕は、あの花を売ってもいいと思う。あの村の花ならば。だって、花小人さんが守った村の花なんだから」
「私もね」
店主は、そう言って、エリクの手を握った。
「そう思ったから店頭に置いた。少しでも心のある花屋なら、普通は銀の花など置かない。でも、あの村のことを知ってここにくるお客さんもいる。だから、ここに置いているんだよ」
その二人のやり取りを見て、やれやれ、と、他の三人は肩をすくめた。
「話は分かった。だが、あんたの話がどこまで本当かはまだ分からない。村に行かせてもらってもいいか?」
クロヴィスが提案すると、店主は了解した。
三人は、クロヴィスとエリクの飲み物が来るのを待って、飲み終わると店を出た。そして、村に行くのは明日にすることにして、今日のうちは予約した宿で休むことに決めた。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】小さな元大賢者の幸せ騎士団大作戦〜ひとりは寂しいからみんなで幸せ目指します〜
るあか
ファンタジー
僕はフィル・ガーネット5歳。田舎のガーネット領の領主の息子だ。
でも、ただの5歳児ではない。前世は別の世界で“大賢者”という称号を持つ大魔道士。そのまた前世は日本という島国で“独身貴族”の称号を持つ者だった。
どちらも決して不自由な生活ではなかったのだが、特に大賢者はその力が強すぎたために側に寄る者は誰もおらず、寂しく孤独死をした。
そんな僕はメイドのレベッカと近所の森を散歩中に“根無し草の鬼族のおじさん”を拾う。彼との出会いをきっかけに、ガーネット領にはなかった“騎士団”の結成を目指す事に。
家族や領民のみんなで幸せになる事を夢見て、元大賢者の5歳の僕の幸せ騎士団大作戦が幕を開ける。
黒豚辺境伯令息の婚約者
ツノゼミ
ファンタジー
デイビッド・デュロックは自他ともに認める醜男。
ついたあだ名は“黒豚”で、王都中の貴族子女に嫌われていた。
そんな彼がある日しぶしぶ参加した夜会にて、王族の理不尽な断崖劇に巻き込まれ、ひとりの令嬢と婚約することになってしまう。
始めは同情から保護するだけのつもりが、いつの間にか令嬢にも慕われ始め…
ゆるゆるなファンタジー設定のお話を書きました。
誤字脱字お許しください。
【完結】過保護な竜王による未来の魔王の育て方
綾雅(りょうが)今年は7冊!
ファンタジー
魔族の幼子ルンは、突然両親と引き離されてしまった。掴まった先で暴行され、殺されかけたところを救われる。圧倒的な強さを持つが、見た目の恐ろしい竜王は保護した子の両親を探す。その先にある不幸な現実を受け入れ、幼子は竜王の養子となった。が、子育て経験のない竜王は混乱しまくり。日常が騒動続きで、配下を含めて大騒ぎが始まる。幼子は魔族としか分からなかったが、実は将来の魔王で?!
異種族同士の親子が紡ぐ絆の物語――ハッピーエンド確定。
#日常系、ほのぼの、ハッピーエンド
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/08/13……完結
2024/07/02……エブリスタ、ファンタジー1位
2024/07/02……アルファポリス、女性向けHOT 63位
2024/07/01……連載開始
【完結】私は聖女の代用品だったらしい
雨雲レーダー
恋愛
異世界に聖女として召喚された紗月。
元の世界に帰る方法を探してくれるというリュミナス王国の王であるアレクの言葉を信じて、聖女として頑張ろうと決意するが、ある日大学の後輩でもあった天音が真の聖女として召喚されてから全てが変わりはじめ、ついには身に覚えのない罪で荒野に置き去りにされてしまう。
絶望の中で手を差し伸べたのは、隣国グランツ帝国の冷酷な皇帝マティアスだった。
「俺のものになれ」
突然の言葉に唖然とするものの、行く場所も帰る場所もない紗月はしぶしぶ着いて行くことに。
だけど帝国での生活は意外と楽しくて、マティアスもそんなにイヤなやつじゃないのかも?
捨てられた聖女と孤高の皇帝が絆を深めていく一方で、リュミナス王国では次々と異変がおこっていた。
・完結まで予約投稿済みです。
・1日3回更新(7時・12時・18時)
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
出来損ないと追放された俺、神様から貰った『絶対農域』スキルで農業始めたら、奇跡の作物が育ちすぎて聖女様や女騎士、王族まで押しかけてきた
黒崎隼人
ファンタジー
★☆★完結保証★☆☆
毎日朝7時更新!
「お前のような魔力無しの出来損ないは、もはや我が家の者ではない!」
過労死した俺が転生したのは、魔力が全ての貴族社会で『出来損ない』と蔑まれる三男、カイ。実家から追放され、与えられたのは魔物も寄り付かない不毛の荒れ地だった。
絶望の淵で手にしたのは、神様からの贈り物『絶対農域(ゴッド・フィールド)』というチートスキル! どんな作物も一瞬で育ち、その実は奇跡の効果を発揮する!?
伝説のもふもふ聖獣を相棒に、気ままな農業スローライフを始めようとしただけなのに…「このトマト、聖水以上の治癒効果が!?」「彼の作る小麦を食べたらレベルが上がった!」なんて噂が広まって、聖女様や女騎士、果ては王族までが俺の畑に押しかけてきて――!?
追放した実家が手のひらを返してきても、もう遅い! 最強農業スキルで辺境から世界を救う!? 爽快成り上がりファンタジー、ここに開幕!
結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください
シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。
国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。
溺愛する女性がいるとの噂も!
それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。
それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから!
そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー
最後まで書きあがっていますので、随時更新します。
表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる