真珠を噛む竜

るりさん

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第三章 銀の百合

銀の村

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 カフェで花屋の店主と落ち合うと、皆はそれぞれ好きな飲み物を選んで話を始めた。
「まず、この銀の花のことなんだが」
 店主が真っ先に口を開く。
「この町の街道を挟んで西側に村があるのは知っているだろう?」
ジャンヌが、頷いた。
「地図で見たよ。その村がどうかしたの?」
 すると、店主は顔を暗くして事情を話し始めた。
「これは最近のことなんだが、その村に旅行に来ていた月の花小人が、その村をいたく気に入ってね、長期滞在することになったんだ。そうしたら、村にある日大きなクマが襲ってきた。その年は近くにある森の木の実が不作で、クマは郷に出てこなければならなくなっていた。そのクマから村の人々を守ろうと、その月の花小人は自分の命を懸けてクマを抑え込んだ。クマは命からがら山へ帰って、それ以来郷を襲うことはなくなった。しかし、花小人は大きな錬術を使ってしまったために命を失ってしまった。その花小人が死んだあと、村は銀の森に呑み込まれて銀の村になった。それからというもの、その村の住人は年を取ることがなくなったが、銀の村から出ることができなくなってしまったのだ」
 話の途中でリゼットの紅茶とジャンヌのコーヒーが来た。二人はある程度飲み物が冷めるまで店主の話に耳を傾けた。
「銀の村の住人のほとんどは、隣町であるこの宿場町に出てきて働いていた。だから、村を出られなくなってしまってからは何も買うこともできず、稼ぐこともできなくなっていた。だが一つ、彼らに稼ぐための手段があった。それが、銀の細工物だ。銀に変わってしまったあらゆるものを、我々町の人間が村から預かってきてはここで売る。そして、町で買い物をして、それを村に届けているんだよ。食料や、衣料品なんかをね」
「そういうことだったのか。だが、銀の森の伝承を知る人間は少なくない。銀の森の花は、売れているのか?」
 クロヴィスが問いかけると、店主はすこし寂しそうに笑いながら答えた。
「悲しいことに、売れていくんですよ。銀細工って標榜すればね」
「たしかに、僕は初めて見た時、すごくきれいな花だなって思って、欲しくなった」
 エリクは、そう言って店主に向かって笑いかけた。
「その、月の花小人さんは、大好きな村を守れてうれしかったんだと思う。きっと、あの花がきれいなのはそのせいだよ。僕は、あの花を売ってもいいと思う。あの村の花ならば。だって、花小人さんが守った村の花なんだから」
「私もね」
 店主は、そう言って、エリクの手を握った。
「そう思ったから店頭に置いた。少しでも心のある花屋なら、普通は銀の花など置かない。でも、あの村のことを知ってここにくるお客さんもいる。だから、ここに置いているんだよ」
 その二人のやり取りを見て、やれやれ、と、他の三人は肩をすくめた。
「話は分かった。だが、あんたの話がどこまで本当かはまだ分からない。村に行かせてもらってもいいか?」
 クロヴィスが提案すると、店主は了解した。
 三人は、クロヴィスとエリクの飲み物が来るのを待って、飲み終わると店を出た。そして、村に行くのは明日にすることにして、今日のうちは予約した宿で休むことに決めた。
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