真珠を噛む竜

るりさん

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第十二章 白いオリーブ

ぱいたんスープ

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 ジーノは、ナリアの提案を快諾した。
 彼は、すぐさま窯に火を入れると、白湯スープを温めなおした。そして、その中に練った粉で作った固めの塊をナイフで削いで入れていった。その麺全てに火が通ると、火を消して人数分に分けて盛り付けていった。すでに塩やほかの調味料での味付けは終わっていた。
 そして、皆、その麺を食べて、スープをすすって歓声を上げた。
「こんなにおいしいもの、今までどうして知らなかったんだ?」
 クロヴィスが、感動のあまり涙を流す。
「これ、いくら食べても飽きないのに、なんで飽きられちゃったの?」
 感動するクロヴィスを尻目に、ジャンヌが訊くと、ジーノは暗い顔をして、黙ってしまった。しかし、それを代弁する者がいた。
 エステルだ。
 彼女は、ジーノの作った刀削麺を一口食べ、スープをひとさじ飲んだだけで、食器をテーブルに置いた。
「ジーノ、あなたは修行を途中でやめてしまったのね」
ジーノは、その言葉にびくりとして、こちらを見る全員の視線をまともに受け止めた。そして、少しうなだれて寂しそうに笑うと、面目ない、と、一言言って、こう続けた。
「先が見えなくて怖くなったんです。中華料理の修業には終わりがない。だから途中で切り上げてしまった」
 だが、その様子を見て、だれもが同情するのをやめてしまった。皆が手を止めて、目の前のスープを見る。アースが、そんな皆の様子を見て、ため息をついた。
「料理の修業に終わりなどあるものか」
 アースは、立ち上がって、全く手をつけていない自分のスープをジーノに手渡した。
「貧乏舌の俺だって、このスープの未熟さは分かる。料理は正直だ。作り手がどういう人間なのか、きっちり答えを出してくれる」
「貧乏舌?」
 聞き返したのは、セリーヌだった。彼女は今のセリフに違和感を覚えていた。
「孤児院で育った私ならともかく、あなたが貧乏舌なんて、信じられないわ」
 すると、バツの悪そうな顔をしたアースの代わりに、ジーノが答えた。
「この人はずっと前、幼少期と少年期を、両親から引き離されて過ごした。それが極貧だったんだ。家もない廃材置き場で、風雪にさらされながら育っていた。その国の王子だということが判明して、のちに国王になるのはかなり後のことだったんだよ」
 ジーノは、そう言って、今度は何かが吹っ切れたように笑った。
「でも、これでスッキリしました。料理も人生も冒険も同じ。終わりなんて見えなくて当然でした。このスープが答えを出してくれたんですね」
 エステルとアースが、頷いた。
 すると、笑いながら涙を流すジーノを見て、ナリアが立ち上がった。彼女は、流れ出る涙が止まらず困っているジーノの所へ行き、ハンカチを差し出した。
「ジーノ、もう一度冒険旅行をなさい」
 すると、ジーノは声を立てて泣きながら、こう言った。
「寂しいんです。もう一人で旅するのは寂しいし、怖いし。だから冒険へは出られません」
 そう言って、ジーノは走って去って行ってしまった。
 取り残された皆は、そのジーノが奥の部屋で泣いているのを、ただ聞くしかなかった。
「白湯スープ、ジーノが作ってこんなにおいしいのでもダメなんだ。僕らが作ってうまくいくはずがないよ」
 エリクが、肩を落とした。すると、エステルが立ち上がってアースのもとへ行き、ポン、と肩を叩いた。
「地球のシリンですから、できますよね」
「知らない」
 アースは焦ったような顔をして、視線をエステルやエリクたちから逸らした。すると、その場にいた全員の視線が集まってきたので、余計焦った顔をした。
「なんだよ、知らないものは知らないんだ。放っておいてくれ」
「ジーノがああいうふうになった責任は、あなたにもあるんです」
「責任のなすりつけか」
「そんなところですが、責任の半分は私が負います。ジーノのことは私が何とかします。だからあなたは、エリクさんたちの手助けをしてあげてください。鶏がらを使ったスープは、ここで飼育されている鶏で十分美味しいものが作れるはずです」
 エステルは、そう言って、ジーノが走って去っていった部屋のほうに行ってしまった。
 すると、エリクが不安そうに皆を見渡した。
「鶏を、殺すの?」
 エリクの問いに、答える者は誰もいなかった。
「ここの鶏、どの子も人に慣れているんだ。野生のキジやウサギとは違う。親しいって思わせて騙して、慣れてから殺すの?」
 皆は、黙ってしまった。ナリアは泣きそうな顔をしているし、リゼットやセリーヌは目を逸らしている。その中で、唯一、ため息をついて少し笑いながら、アースが、こう言った。
「ここのオーナー次第だ。エリクの言うことは理想だが、それでは物事は成り立たないし、腹も膨れない。だが、交渉次第では飼いならされた鶏以外も使えるだろうな」
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