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第二章 テルストラ都市国家連合
期待
妖精の山帰り。
雪がずっと降り続く冬の間に現れる稀な晴天の日のことを、土地の者はそう呼んでいた。
原住民の間では、草原の先の山脈から冬をもたらす妖精がやってきて、雨季をコントロールすると言われている。
例外なくその日はきれいに雲が抜け、一面の青空が広がっていた。そんな中、長い間君主を欠いていた首都テルストラに、久々の国王が復帰した。
正式な名をアース・フェマルコート・メルディオネ・テルストラ。第十四代目のテルストラ国王だ。
就任式及び戴冠式は略式で行われた。出席者の衣装も王宮の正装ではなく、礼装である黒いスーツで行われた。新国王のスピーチも来賓の言葉もなく、ただ淡々と書類へのサインを、各都市の代表の見守る中行っただけだった。
そんな中でも、一部の者は感慨深げにそれを見守っていた。ハノイ元首アレクセイ・ゲイラーもその一人だった。
十五年前の解放戦争、その中心的役割を担っていた東マリンゴート・レジスタンス。
教会のブラウン神父と姉であるヘレンとともに、三人で築き上げてきた東マリンゴートのレジスタンス。それを勝利に導いたのが、アース・フェマルコートだったのだ。
ずっと、この日を待ちわびていた。
今はもう、昔と違ってテルストラに移民と原住民の軋轢はない。あったとしても中央マリンゴートが勝手にやっているだけだ。
テルストラ都市国家連合に差別政策は敷かれてはならない。そんな国の首都テルストラに、原住民と同じ特徴を持つ移民である、ある意味では新しい王が即位した。
アースは豪華な式典を嫌っていた。合理的で理性的なそのやり方は少し寂しかったが、世相を考えると仕方のないことなのだろう。
そんな式典の中、また新たな問題が浮上した。中央マリンゴートからは、北部新進党党首エドガー・オリンフェストと、南部保守党党首・イザール・カーランドが呼ばれていた。
彼ら同士も仲が悪かったが、彼らには彼らの、共通の敵がいた。
それが、東マリンゴートの神父メティスだ。メティスは、彼らからのプレッシャーから自分を守る必要があった。
また、それらの問題とは一線を画しているアルバートは、そんな彼らの動向を見て、この先どうなるのかと心配しなければならなかった。
クリーンスケアは核を持っている。もちろん、これからすべての国の元首となるアースはその立場上、この大陸から戦術核を撤廃する道に進むだろう。それは遥か昔からこの大陸に定められていた、戦術核撤廃の条約がまだ有効だからであった。
アースは、地球のシリンだ。
地球上の因果律を支配し、そこに生きるすべての命と、そこに存在するすべての物質を統括する、地球の意思が具現化した姿だ。
その力は素粒子にまで及び、すべての意識に介入することができるという。しかし、彼は今までその力を使ってこなかった。
この星のシリンであるメティスも、この星の移民の母星、地球のシリンであるアースも、それをやってこなかったのには、彼らもまた自然の一部であるという認識があるからだ。
人は、そう簡単に人や自然を操れるものではない。全ての「存在」の調和を乱さないために、彼らはただ因果律をもって全てを監視しているに過ぎないのだ。
彼らは強大な力を持っているからこそ、人々に恐れられてきた。だからこそ、原住民はそれを神話にした。銀の木から生まれる金の髪の子、と。
金の髪の原住民として、神話を体現したメティスはもうこの星に生まれている。だが、銀の木はまだ生まれていない。
残月の昼に現れるというその神話の大樹を、暁の星の民は待ちわびていた。
その大樹が、見つけた者の願いをなんでも叶える木だという言い伝え以上に、金の髪のシリンが生まれた事実が、その期待を現実のものにしたからだ。
銀の木、金の髪の原住民、そして、テルストラ国王。
その三つのキーワードが、この先何を引き起こすのか。
この時点で誰一人として、そのことについて知る者はいなかった。
雪がずっと降り続く冬の間に現れる稀な晴天の日のことを、土地の者はそう呼んでいた。
原住民の間では、草原の先の山脈から冬をもたらす妖精がやってきて、雨季をコントロールすると言われている。
例外なくその日はきれいに雲が抜け、一面の青空が広がっていた。そんな中、長い間君主を欠いていた首都テルストラに、久々の国王が復帰した。
正式な名をアース・フェマルコート・メルディオネ・テルストラ。第十四代目のテルストラ国王だ。
就任式及び戴冠式は略式で行われた。出席者の衣装も王宮の正装ではなく、礼装である黒いスーツで行われた。新国王のスピーチも来賓の言葉もなく、ただ淡々と書類へのサインを、各都市の代表の見守る中行っただけだった。
そんな中でも、一部の者は感慨深げにそれを見守っていた。ハノイ元首アレクセイ・ゲイラーもその一人だった。
十五年前の解放戦争、その中心的役割を担っていた東マリンゴート・レジスタンス。
教会のブラウン神父と姉であるヘレンとともに、三人で築き上げてきた東マリンゴートのレジスタンス。それを勝利に導いたのが、アース・フェマルコートだったのだ。
ずっと、この日を待ちわびていた。
今はもう、昔と違ってテルストラに移民と原住民の軋轢はない。あったとしても中央マリンゴートが勝手にやっているだけだ。
テルストラ都市国家連合に差別政策は敷かれてはならない。そんな国の首都テルストラに、原住民と同じ特徴を持つ移民である、ある意味では新しい王が即位した。
アースは豪華な式典を嫌っていた。合理的で理性的なそのやり方は少し寂しかったが、世相を考えると仕方のないことなのだろう。
そんな式典の中、また新たな問題が浮上した。中央マリンゴートからは、北部新進党党首エドガー・オリンフェストと、南部保守党党首・イザール・カーランドが呼ばれていた。
彼ら同士も仲が悪かったが、彼らには彼らの、共通の敵がいた。
それが、東マリンゴートの神父メティスだ。メティスは、彼らからのプレッシャーから自分を守る必要があった。
また、それらの問題とは一線を画しているアルバートは、そんな彼らの動向を見て、この先どうなるのかと心配しなければならなかった。
クリーンスケアは核を持っている。もちろん、これからすべての国の元首となるアースはその立場上、この大陸から戦術核を撤廃する道に進むだろう。それは遥か昔からこの大陸に定められていた、戦術核撤廃の条約がまだ有効だからであった。
アースは、地球のシリンだ。
地球上の因果律を支配し、そこに生きるすべての命と、そこに存在するすべての物質を統括する、地球の意思が具現化した姿だ。
その力は素粒子にまで及び、すべての意識に介入することができるという。しかし、彼は今までその力を使ってこなかった。
この星のシリンであるメティスも、この星の移民の母星、地球のシリンであるアースも、それをやってこなかったのには、彼らもまた自然の一部であるという認識があるからだ。
人は、そう簡単に人や自然を操れるものではない。全ての「存在」の調和を乱さないために、彼らはただ因果律をもって全てを監視しているに過ぎないのだ。
彼らは強大な力を持っているからこそ、人々に恐れられてきた。だからこそ、原住民はそれを神話にした。銀の木から生まれる金の髪の子、と。
金の髪の原住民として、神話を体現したメティスはもうこの星に生まれている。だが、銀の木はまだ生まれていない。
残月の昼に現れるというその神話の大樹を、暁の星の民は待ちわびていた。
その大樹が、見つけた者の願いをなんでも叶える木だという言い伝え以上に、金の髪のシリンが生まれた事実が、その期待を現実のものにしたからだ。
銀の木、金の髪の原住民、そして、テルストラ国王。
その三つのキーワードが、この先何を引き起こすのか。
この時点で誰一人として、そのことについて知る者はいなかった。
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