残月(耀く銀の木がかなえる願い)

るりさん

文字の大きさ
57 / 67
第3章 命

新しい生命

三、命


 テルストラ都市国家連合の復活からわずか四日。
 その日の夜は、満天の星が輝く夜だった。空には雲一つなく、宇宙をそのまま見ているかのような壮大な星空が見えていた。
 雨季であるこの時期には珍しい天気だ。外は雪が積もっている。
 その晩、夜勤で病院にいて、ナース・ステーションでカルテの整理をしていたケンは、突然かかってきた内線電話に急いで出た。
 救急外来の事務員からだった。前期破水を起こして、急いでこちらに向かっている妊婦がいるのだという。それなら産科に連絡がいくはずなのだが、なぜこちらに連絡が来たのだろう。
「産科の先生が帝王切開でとられちゃって。助産師回すから、そっちで対応してほしいの」
 そう言われ、ケンは当直の医師を確認した。アースは手術に手を取られていない。外科の医師で産科を見られる医師は他に、研修医二人だけだ。
「先生が見ている研修医だから、大丈夫だと思うけど」
 ケンは、内線を切って、ため息をついた。当直の研修医に連絡を取るために小型の通信機を立ち上げる。
 研修医は、ケンの連絡を受けるとすぐに準備を始めた。何人かの新人の助産師が、広い個室を借りて、お産のできる部屋に改造してゆく。
 そこへ、産婦が到着した。ケンは驚いて声をあげた。
「リーアさん!」
 ケンは急いでカロンに電話をした。病院からの電話を受け、カロンは急いで駆けつけてきた。出産は命懸けだ。それを知ってか知らずか、必死の形相で、冬であるにもかかわらず汗をびっしょりとかいていた。
「リーアは、リーアと赤ちゃんは、無事なのか?」
 カロンは息を切らしてケンにそう聞いてきた。
 ケンはよくわからなかったので、すぐそばにいた看護師が落ち着くように言い、分娩室になっている病室の前に椅子を出してカロンを座らせた。
「今はあなたが落ち着いてください。奥さんは相当な痛みに耐えているんです。自分と赤ちゃんのことで精いっぱいなんですよ。必要なのは彼女を支える手、いえ、腕です。ぜひ、出産に立ち会ってください。あまりの苦しさに奥さんが弱音を吐くこともあるかもしれません。それを受け止めてあげてください」
 カロンは、助産師にそう言われてようやく落ち着いた。
 しかしまだ興奮した状態は直っていない。きちんとリーアと向き合えるようになってから部屋の中に入ってもらう、看護師はそう言い、陣痛に耐えるリーアの声を外から聞いていた。医師の出番が来るのはもっと後だ。リーアの陣痛はまだおさまらない。カロンがそわそわし始めると、看護師は中に入るように促した。
「カロンさん、気を強く持ってくださいね」
 ケンがそう言って、カロンを見送った。
 しばらくして、リーアの苦しみの声の質が変わってくると、ようやく研修医が部屋に入った。
 それから二時間。誰も部屋から出てくることなく、出産は終わった。赤ん坊の泣き声が病室に響き、取り上げた助産師がすぐに産湯に赤ちゃんをつける。
「女の子ですよ」
 助産師が笑って言うと、リーアは涙を流して喜んだ。カロンはリーアと同様に必死だったらしく、赤ちゃんが女の子だと聞くと、安心してその場にへたり込んだ。
 出産時に血を見たというのもあった。少年時代から戦争に巻き込まれて血を見慣れているはずのカロンが、赤ちゃんが出てくるときに出る血に失神しそうになっているのは、ケンには皮肉に思えた。
 リーアは、その後一週間病院に入院した。
 経過は順調で、一週間後の退院の時には笑顔で皆に挨拶をしていった。出生届はカロンが役所に出していた。
 名前は、女の子の場合と男の子の場合と二つ考えてあったため、すぐ決まった。
『シャロン』
 女の子は、そう名付けられた。
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

身体交換

廣瀬純七
SF
大富豪の老人の男性と若い女性が身体を交換する話

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科 空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する 高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体 それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった 至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する 意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク” 消える教師 山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

M性に目覚めた若かりしころの思い出 その2

kazu106
青春
わたし自身が生涯の性癖として持ち合わせるM性について、終活的に少しづつ綴らせていただいてます。 荒れていた地域での、高校時代の体験になります。このような、古き良き(?)時代があったことを、理解いただけましたらうれしいです。 一部、フィクションも交えながら、述べさせていただいてます。フィクション/ノンフィクションの境界は、読んでくださった方の想像におまかせいたします。