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ラブレター
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× × × ×
これはある種のラブレターだ。
× × × ×
「もう藤村でいいんじゃね」
突然名前を呼ばれ、私はぽかんとしてしまう。
完全に不意打ちだった。
クラス中の視線が私に集まり、ぎょっとする。
「な、なんで私?」
「ほら、お前の名前って、アリスって読めるだろ」
教壇に立つ瀬川が、まるで普遍的な事実を述べるような口ぶりで言った。
自然と、彼の背後の黒板に目が行く。
演目 不思議の国のアリス
確かに、私の『有子』という名前は『アリス』と読むことができる。
でもそんなの役とはなんの関係もない。
こじつけもいいとこだ。
咄嗟に反論しようとしたけれど、瀬川に先を越されてしまう。
「藤村が主役がいいと思う人!」
その言葉に、クラスメイトのほとんどが手をあげた。
訓練された軍隊のような一体感だった。
きっと自分以外なら誰でもいいのだろう。
「ち、ちょっと待って」
「はい、けってーい」
瀬川は聞く耳を持たず、黒板に『藤村有子』と私の名前を書いた。
癖の強い字なのが、なんだか馬鹿にされているみたいで余計に腹が立った。
追い込むように教室のあちこちから拍手が起こる。
「いいぞ!」「アリス!」なんて茶化す声も聞こえてくる。
「まあ、悪く思うな」
瀬川は勝ち誇るように、にやりとした。
「一人はみんなのために、みんなは一人を犠牲にってよく言うだろ」
「いや、言わないから」
「でも実際、社会ってそういうものだろ。今のうちに慣れておいても損はない」
瀬川の言葉に、クラスメイトたちがなぜか盛り上がる。
どうしよう。
この雰囲気だと、無理に拒めば私が悪者になってしまう。
戸惑う私に救いの手を差し伸べてくれたのは、瀬川の隣に立つクラス委員長の波戸だった。
「ちょっと強引すぎるんじゃないかな」
「多数決で決まったことだろ」と瀬川がすぐに言い返した。
「なんで瀬川が多数決を採るんだよ」
波戸が苦笑する。
「そういうのは、委員長である俺の役目だろ」
「それはあれじゃん。えっと……」
続く反論は思い浮かばなかったようだ。
「確かに」と瀬川は頷く。変なところで素直だった。
どこか白けた空気が漂う。
その中心にいたのは間違いなく波戸だったけれど、彼は特に気にした様子もなく私に向き直った。
「それで、どうする」
こちらの意志を尊重してくれた上で問われると、余計に断りづらかった。
なにより、もしここで断れば、彼がクラスの反感を買ってしまうことになる。
逡巡してから、私は観念して言った。
「いいよ、やる」
波戸は一つ頷いた。
「そっか、じゃあアリス役は藤村だね」
おおっ、と歓声が上がり、拍手が起こった。
さっきとは違い、冷やかすような響きは感じられない。
なんだか照れくさくて、私は俯いた。
そして小さくため息を吐く。
半ば勢いで了承してしまったけれど、まあどうにかなるだろう。
頑なに断るほど嫌というわけでもないし。
それでもやはり倦怠感はあった。
軽率だったかな、と早くも後悔の念が湧いてくる。
もう一度、今度は少し大きめのため息を吐いた。
× × × ×
これはある種のラブレターだ。
× × × ×
「もう藤村でいいんじゃね」
突然名前を呼ばれ、私はぽかんとしてしまう。
完全に不意打ちだった。
クラス中の視線が私に集まり、ぎょっとする。
「な、なんで私?」
「ほら、お前の名前って、アリスって読めるだろ」
教壇に立つ瀬川が、まるで普遍的な事実を述べるような口ぶりで言った。
自然と、彼の背後の黒板に目が行く。
演目 不思議の国のアリス
確かに、私の『有子』という名前は『アリス』と読むことができる。
でもそんなの役とはなんの関係もない。
こじつけもいいとこだ。
咄嗟に反論しようとしたけれど、瀬川に先を越されてしまう。
「藤村が主役がいいと思う人!」
その言葉に、クラスメイトのほとんどが手をあげた。
訓練された軍隊のような一体感だった。
きっと自分以外なら誰でもいいのだろう。
「ち、ちょっと待って」
「はい、けってーい」
瀬川は聞く耳を持たず、黒板に『藤村有子』と私の名前を書いた。
癖の強い字なのが、なんだか馬鹿にされているみたいで余計に腹が立った。
追い込むように教室のあちこちから拍手が起こる。
「いいぞ!」「アリス!」なんて茶化す声も聞こえてくる。
「まあ、悪く思うな」
瀬川は勝ち誇るように、にやりとした。
「一人はみんなのために、みんなは一人を犠牲にってよく言うだろ」
「いや、言わないから」
「でも実際、社会ってそういうものだろ。今のうちに慣れておいても損はない」
瀬川の言葉に、クラスメイトたちがなぜか盛り上がる。
どうしよう。
この雰囲気だと、無理に拒めば私が悪者になってしまう。
戸惑う私に救いの手を差し伸べてくれたのは、瀬川の隣に立つクラス委員長の波戸だった。
「ちょっと強引すぎるんじゃないかな」
「多数決で決まったことだろ」と瀬川がすぐに言い返した。
「なんで瀬川が多数決を採るんだよ」
波戸が苦笑する。
「そういうのは、委員長である俺の役目だろ」
「それはあれじゃん。えっと……」
続く反論は思い浮かばなかったようだ。
「確かに」と瀬川は頷く。変なところで素直だった。
どこか白けた空気が漂う。
その中心にいたのは間違いなく波戸だったけれど、彼は特に気にした様子もなく私に向き直った。
「それで、どうする」
こちらの意志を尊重してくれた上で問われると、余計に断りづらかった。
なにより、もしここで断れば、彼がクラスの反感を買ってしまうことになる。
逡巡してから、私は観念して言った。
「いいよ、やる」
波戸は一つ頷いた。
「そっか、じゃあアリス役は藤村だね」
おおっ、と歓声が上がり、拍手が起こった。
さっきとは違い、冷やかすような響きは感じられない。
なんだか照れくさくて、私は俯いた。
そして小さくため息を吐く。
半ば勢いで了承してしまったけれど、まあどうにかなるだろう。
頑なに断るほど嫌というわけでもないし。
それでもやはり倦怠感はあった。
軽率だったかな、と早くも後悔の念が湧いてくる。
もう一度、今度は少し大きめのため息を吐いた。
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