稲妻の契り~生贄に出された娘は雷神様から一途な溺愛を受ける~

cheeery

文字の大きさ
4 / 24

生贄の先にあるもの

しおりを挟む


崖の上にある石段のひんやりとした感触が、私の裸足を包み込む。

私は、家族に連れられ薄い白布に身を包み、石段の上へと立っていた。

崖の周囲には、村人たちが集まって見世物になっている。

「雷神様……どうかこの犠牲で俺たちを救ってください」

「どうか、恵の雨を……雨を降らせてくれ」

村人たちの口から漏れる祈りの言葉が、空気に溶けていく。

ああ、本当にこれで私は役割を終えるんだ。 
雷神様の生贄になり、雨を降らせてもらう。

そうすれば村は助かる。
私が生まれてきた意味は、村に雨を降らせること──。
 
石段の上に立つと、麗羅が私の前までやってきた。

「お姉様、生まれてきてくれてありがとう。お姉様みたいな愚図がいてくれたお陰で私はここまで上り詰めることが出来たわ。後は村のためにお姉様が犠牲になれば、みーんなが幸せになれるわ」

星羅は私の手をぎゅっと包み込みながらも、薄ら笑いを浮かべている。
そしてお母様も私に声をかけた。

「今の衣装それから役割。全部あなたにピッタリよ。入ってきなさい美鈴。あちらのお母様にもよろしくお伝えしてね?」

心がぽっかりと空いたところに、棘を刺されているみたいな気持ちになる。

「さようなら、お姉様」

私の瞳からはぽたりと涙が零れた。

もう何も返すことは出来ない。
みんなが望んでいるんだもの……。

私が、生贄になることを──。
そしてお父様が天に向かって伝える。

「雷神様、彼女が雷神様に献上する生贄になります。どうか、この生贄と引き換えに雨を……雨を降らせてください」

これが最後……。
私は石段の上に横になると、そっと目を閉じた。

周囲の音が徐々に遠のき、静けさが私を包む。
そして強い風が吹き荒れた。

お母様……私、もうすぐお母様に会えるみたいです。

その瞬間。

──ゴロゴロゴロ!

天の彼方から強い稲妻が轟く音が響き渡り、空が裂けるような光が夜の闇を切り裂いた。

「ああ、これで私は……」

覚悟を決め、ぎゅっと目をつぶった。

ーーー。
 
「ここは、どこ……?」

 空気は澄みきり、ひんやりとした感触が肌を撫でる。

光がどこからともなく降り注ぎ、そこはまるで別の世界にいるかのように透き通っていた。

さっきまで村の人がいたのに誰もいない……。

ここは、天国!?

「起きたか?」

誰かにたずねられ声をする方を向くと、私は思わず息をのんだ。

透き通った金髪の髪に深い蒼色の瞳。
胸元には鋼鉄の鎧がはめ込まれていて、腰に巻かれた黄金の帯には、鋭い雷を模した剣が差し込まれている。

なんてキレイな人……。

その光景に目を奪われる私を彼は無言のまま、青い瞳で見下ろしていた。

この人が……雷神様……?

「あなたが雷神様ですか?」

震える声で尋ねると、彼は短く返した。

「いかにも」

天上の神。雷神様……。

私たちがしゃべることも敵わない天の上の存在の人。
今、私が死んでいないということは、私は今からこの人に殺されるのだ。

自分の使命をまっとうしなければならない。
そのためにここにやってきたのだから。

「生贄として、わたしの命を献上いたします。なので、村に雨を降らせてください」

膝をつき、頭を地面につけながら丁寧にお辞儀をして頼み込む。

雷神様はどのように私を殺すだろうか。

雷なのか、それとも人を食べると村人の人たちが言っていたのを聞いたことがある。

どちらでもいい。
もう私は生きていても仕方ないのだから。

きゅっと唇を噛み締めて、地面を見つめていると声が聞こえた。

「なんのために?」

「えっ」

私は思わず顔をあげた。

「なんのために人間の命などもらうのだ?」

なんのためにって……それは雷神様が望んでいるんじゃないの?

よく意味が分からなかった。

こうやって命を献上することで、雷神様の機嫌が守られると言っていたはずだ。

「私はこの村を守るために生まれてきました。そのためならどうなっても構いません。なので、どうか……村に雨を降らせてください」

もう一度頼みこむと、雷神様はさらにたずねた。

「それはお前にどんな利点がある?」

「利点……?」

しかも雷神様の利点でなくて、私に……?

そんなものない。
だけど、私は村のためになれたのなら死ぬ価値はある。

「仮にお前の命を俺がもらったとしたら、お前はここで命を奪われ死んでゆくだけだ。国に雨が降るか降らないかなんてどうでもいいだろう?」

「いえ……村のみんなが助かるのであれば私はそれで……私の生まれてきた意味があります」

必死で伝えると雷神様は言う。

「ちっぽけな人生だな」

ちっぽけな、人生……。

涙が頬を伝い、静かに落ちていく。

自分だって分かっていた。
私が生まれてきたことに、意味などないと。

母から任された神話守にもなれなくて、周りに厄介がられ、煙たがられ、でもそれだけのために生きてきたって思いたくなくて、何か意味を見出そうとした。

村に雨を降らすことが出来たら、私にだって生まれてきた意味があると思えるかもしれない。

でもそんなこと、意味のないことだって分かってたの。

村人はみな私を捨てた。

神様に拒否された人間として、災いを呼ぶ人間として村から排除されただけだ。

私、生まれて来る意味がないのに生まれてきてしまった。 

「ぅ、う……」

ぽたりと涙が流れる。
なんて惨めな人生なんだろう。

誰のために、何かを出来るわけでもなくて、出来損ないのまま死んでゆく。

わたしは、なんのためにここにいるの……。

すると、雷神様は厳格な口調で言った。

「そんなに誰かのために生きたいというのなら、お前……俺のために生きて見ろ」

私はばっと顔をあげる。

俺の、ために……?

「誰かのためにじゃないと生きられないのだろう?」

彼はゆっくりと腰につけていた刀を天に掲げた。

刀の刃先が空に向かって伸びると、周囲の風が渦を巻きはじめ、たちまち空は暗くなっていく。

「雷神、さま……?」

そして剣を持った右手を勢いよく振り下ろした。

その瞬間、大きな稲妻が空を裂き、落ちた。

「人のために生きるというのがどういうことか教えてやる」

一瞬の光とともに、雷神様は私に向かって手を伸ばす。

ああ、食べられる──。
今度こそ死んでしまう。

そこで私の記憶は途切れた。
 

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

家族に支度金目当てで売られた令嬢ですが、成り上がり伯爵に溺愛されました

日下奈緒
恋愛
そばかす令嬢クラリスは、家族に支度金目当てで成り上がり伯爵セドリックに嫁がされる。 だが彼に溺愛され家は再興。 見下していた美貌の妹リリアナは婚約破棄される。

【完結】氷狼魔術師長様と私の、甘い契約結婚~実は溺愛されていたなんて聞いていません!~

雨宮羽那
恋愛
 魔術国家アステリエで事務官として働くセレフィアは、義理の家族に給料を奪われ、婚期を逃した厄介者として扱われていた。  そんなある日、上司である魔術師長・シリウスが事務室へやってきて、「私と結婚してください」と言い放った!  詳しく話を聞けば、どうやらシリウスにも事情があるようで、契約結婚の話を持ちかけられる。  家から抜け出るきっかけだと、シリウスとの結婚を決意するセレフィア。  同居生活が始まるが、シリウスはなぜかしれっとセレフィアを甘やかしてくる!? 「これは契約結婚のはずですよね!?」  ……一方セレフィアがいなくなった義理の家族は、徐々に狂い始めて……? ◇◇◇◇  恋愛小説大賞に応募しています。  お気に入り登録、♡、感想などいただければ、作者が大変喜びます( . .)"  モチベになるので良ければ応援していただけると嬉しいです! ※この作品は「小説家になろう」様にも掲載しております。 ※表紙はAIイラストです。文字入れは「装丁カフェ」様を使用しております。 ※小説内容にはAI不使用です。

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

崖からポイ捨てされた不運令嬢ですが、銀髪イケメン竜王に『最愛の伴侶』としてスカウトされました!

有賀冬馬
恋愛
不作も天災も、全部わたしのせい!? 「不運な女」と虐げられ、生贄として崖から捨てられたわたし、ミラ。 でも、落ちた先で待っていたのは、まぶしいほど綺麗な銀髪の竜王・アルベルト様でした! 「君がいたから、この国は守られていたんだよ」 えっ、わたしって実はすごい聖女だったの!? 竜宮城で贅沢三昧&溺愛生活スタート! そんな中、わたしを捨てて大ピンチになった元婚約者が「ミラ、戻ってきて!」と泣きついてきて……。

見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”―― 今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。 そして隣国の国王まで参戦!? 史上最大の婿取り争奪戦が始まる。 リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。 理由はただひとつ。 > 「幼すぎて才能がない」 ――だが、それは歴史に残る大失策となる。 成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。 灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶…… 彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。 その名声を聞きつけ、王家はざわついた。 「セリカに婿を取らせる」 父であるディオール公爵がそう発表した瞬間―― なんと、三人の王子が同時に立候補。 ・冷静沈着な第一王子アコード ・誠実温和な第二王子セドリック ・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック 王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、 王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。 しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。 セリカの名声は国境を越え、 ついには隣国の―― 国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。 「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?  そんな逸材、逃す手はない!」 国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。 当の本人であるセリカはというと―― 「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」 王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。 しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。 これは―― 婚約破棄された天才令嬢が、 王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら 自由奔放に世界を変えてしまう物語。

「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。 お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。 当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。 彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。

婚約破棄された堅物令嬢ですが、鬼の騎士団長の娘として宮廷の陰謀を暴くのに忙しいので、美貌のカストラート(実は王子)に溺愛される暇はありません

綾森れん
恋愛
「お前のような真面目くさった女はいらない。婚約は破棄させてもらう!」 婚約者だった公爵令息に冷酷に言い放たれたリラ・プリマヴェーラ。 だが、彼女の心にあったのは悲しみではなく―― 十年前の王族暗殺事件を調査したいという情熱だった。 伯爵令嬢であるリラは、鉄の掟を守る『鬼の騎士団長』の娘。 彼女には恋よりも何よりも優先すべき使命があった。それは、十年前に幼い王子が暗殺された事件の真相を暴き、父を、そして王国を陰謀から救うこと。 婚約破棄直後、彼女の前に現れたのは、天使の歌声を持つ美貌のカストラート(去勢歌手)、アルカンジェロだった。 彼が十年前の事件について密かに調べていることを、リラは知ってしまう。 真相を探るため、リラは彼を自分の音楽教師として迎え入れ、距離を縮めていく。 事件解決の協力者として彼と接するうち、リラは謎めいたアルカンジェロに危機を救われることになる。 しかし、リラは知らない。 アルカンジェロの正体が、十年前に暗殺されたはずの第三王子であることを。 そして彼にとってリラこそが、初恋の女性であることを。 彼は十年間、密かにリラを想い続けていたのだ。 王位を狙う者たちから身を隠すため、声楽の技術を駆使して、教会歌手として大聖堂で生き延びてきたアルカンジェロだったが、王家を巡る不穏な陰謀が静かに動き始めていた。 捜査に猪突猛進な堅物令嬢と、彼女を影から支え執着を見せる、カストラート歌手のふりをした王子。 宮廷の闇を切り裂く二人の恋と事件の行方は――? ※本作は、過去に投稿していた『真面目くさった女はいらないと婚約破棄された伯爵令嬢ですが、王太子様に求婚されました。実はかわいい彼の溺愛っぷりに困っています』の設定・キャラクター・構成を大幅に改稿し、新作として再構成したものです。 物語の結末やキャラクターの掘り下げを強化しておりますので、初めての方も、以前お読みいただいた方もお楽しみいただけます。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処理中です...