田舎のスーパーマギカハイスクール!

タケノコタンク

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田舎のスーパーマギカハイスクール!

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 この世界では魔力を消費して起こす化学現象、魔法と呼ばれる技術が発達していて、理科や数学国語英語に社会と同じ様に、学生は評価されることになる。
 俺、矢満田豹は、そんな世界の進学校の老樹高校、その中でも魔法に特科したクラス、魔法科の1年に通っていた。
 部活は魔法部で、つまりは魔法漬けの日々を送っていたわけだが、俺には所謂問題児気質があって、クラスメートの石田、清霜と共にある悪ふざけを実行しようとしていた。
「フゥーハハハ! 遂にこの日がきたぁぁぁ!」
 滅多に使われない講義室で白衣をはためかせた。
「おう!」
 相槌を打ったのは石田龍介だった。
「サキュバスの召喚だな!」
「おうよ! 召喚魔法はマルチバースから特定の生物を呼び出すパターンと、魔力で生物を編むものの2パターンがあるけど、前者でサキュバスを召喚しようという寸法よ!」
「おっぱい! おっぱい!」
 石田は乗り気である。がしかし
「やめといた方がいいんじゃないか?」
 と真面目な清霜彩人は日よっていた。
「そんなこと言って清さんも興味があるからここにいるんだろ?」
「学術的な意味でな」
 清さんとは清霜のあだ名である。
 学校で習うのは、異世界のトカゲを召喚したりする程度。清霜はサキュバスという学校の授業ではまずお目にかかれないものを召喚する魔法に興味があるのだ。
「しっかし3人しか集まらないとはなぁ。ウチの連中にはガッカリだぜ」
 総勢40人なのだが。
「召喚するのが、サキュバスじゃなぁ。空想に寄りすぎて現実的に映らなかったんだろ?」
 清霜の言うことは最もだが、明らかに異世界から召喚したもので面白みがあり、尚且つ俺達の手に余らないものとして思いついたのがサキュバスだったのだから仕方ない。
「じゃあドラゴンにしとけばよかったのかよ? 軍用魔法だぜ? 成功した暁には凄いだろうけど警察と自衛隊が押し寄せてジエンドだぜ」
 そんなわけで、集まったのは俺という馬鹿1と石田という馬鹿2に、清霜という真面目1だった。

 パソコンで印刷した魔法陣を用意する。昔は水銀や血で書いていたらしいのだが、現代ではこれがメジャーだ。大掛かりな魔法実験では
「汗とか垂らすなよー」
「へいへい」
「石田ぁ! 余計な私語も禁止! 唾が飛んだら!」
「お前のがうるさいわ」
 むぅ。兎に角、実験開始である。
 清霜と石田の役割は魔法陣の作図と配置補助のみ。ここからは俺だけの仕事だ。
 なぜなら、召喚魔法は高度なものに分類され、今の魔法科で召喚魔法を成功させられるのは俺だけだから。
「いくぞ」
 教壇から離れた2人が頷いた。魔法には詠唱はいらない。ただ集中し計算するだけだ。
 魔法陣が煌めく。煌めきに反比例して集中するから、どんどん心が冷徹になっていく。
 そして、極光の中に確かな人影を俺は見た。

 私、渡辺小春は高校の放課後に自転車で帰宅していた。
 1人の帰り道はこの春先に友達作りに失敗した結果だった。
 本当なら、今頃はハンバーガーショップで友人と駄弁っているはず。
 しかし、現実はこれである。
「はぁ」
 息を吐いた。
 所謂、魔法陣が私を包んだのはそんな時だった。

「逃がすかぁ!」
 走り出したその影に、すかさず隷属魔法をかけた。
 目が慣れてきて、まず見たのは、石田と清霜の啞然とした表情だった。
 へ?
「お、おい矢満田。それ」
「サキュバス……じゃないぞ?」
 はぁ?
 そして、ようやっと、俺は隷属魔法を掛けてしまった何者かを見た。
「じょ、女子高生?」

 生徒指導室。
「全く。お前たちは!」
 とは担任の美人教師山口千秋。
「ありがとうございます!」
 石田は大喜びだ。流石である。
「あのー。隷属魔法ってどうやったら」
「解除などできないわ! 阿保! お前意外に!」
「そ、そうっすよねぇ」
「え!? じゃあ私どうなるんですか!? てか隷属魔法って!?」
 とは仮称サキュバスちゃんだった。
「隷属魔法というのは、対象を奴隷にする魔法で、コイツはセンスでそれを掛けてみせた!」
「ど、奴隷!?」
「あー! あんな命令やこんな命令も意のままにだぜ!」
 石田ぁ! 余計なことをぉ!
「サキュバス用に超強力な奴掛けちゃった。ごめん」
「そもそも魔法があるからってサキュバス捕獲しようとかどういう神経してるわけ!?」
 いや、だってぇ。綺麗なお姉さんにあんなことやこんなことしたいじゃん!
 何某ちゃんは魔法の無い世界の女子高生のようだった。
「ごめんなさい! 計算違いだったんです!」
「早く隷属魔法を解除して! 私を元の世界へ返して!」
 そ、そんなこと言われても!
「呼び出すことはできても、返す魔法なんてないし……。隷属魔法も1から研究始めるレベル……」
「は? はぁ!?!?!?」
 何某ちゃんは俺を殴ろうとした。けれど、隷属魔法のせいで、途中で手が止まった。
「本当に申し訳ない!」

 隷属魔法のせいで、何某ちゃんとは距離が開けられない。
 宿直室で一夜を明かすことになった。
 親に事の経緯を話すと
「産むんじゃなかった……」
 との始末でもう大変。宿直室の端に何某ちゃんは布団を抱いて固まっていた。
「なぁ。いい加減名前くらい教えてくれよ」
「いや」
「いやって。じゃあなんて呼べばいいの? ジョセフィーヌ?」
 彼女は枕を投げつけようとした。したが、やはり途中で中断されてしまう。
「俺は、矢満田豹っていうの」
「……小春。渡辺小春」
「渡辺さんね」
「手を出したら許さないから」
「出さない出さない」
 俺は、お姉さんがタイプだからね。
 改めて月光に移された渡辺さんを見た。
 なんというか。美少女に分類できるんだろうが、普通。普通の女子高生だった。
「はぁ……」
 今頃はボンキュッボンのサキュバスお姉さんとイチャイチャしてたはずだったのに……。
 強く睨みつけられたのは、まぁそうだよね。俺は、彼女の日常と自由を奪ったからね。

 翌朝。阿部祥子というクラスメートがいる。
 数学と物理に優れる彼女を俺はよく揶揄っている。彼女がこの片田舎出身であること、よく鼻血を出すこと、丸眼鏡なんか、気になるのだ。
 翌朝。そんな彼女に俺は、事の顛末を伝えた。すると、
「この魔法陣の座標設定をしたのは?」
「清さんだね」
「こことここの計算が甘いからこうなったのよ」
「計算は苦手だからなぁ。俺は、呼び出すのは得意だけど。だから清さんに計算を任せたんだけどね」
「そうね。それだけなら貴方は大学生レベルだわ」
 数学と物理、英語は底辺であるが。
「隷属魔法はどうにかならないかね」
「教科書通りに掛けたわけでないのでしょう? 無理よ」
 かー。つまり、俺は、同年代の女性の人生を縛ってしまったわけだ。
「どう責任取るべきか……」
「私に言わないで! 先生にでも相談なさい!」
 全くその通りである。

「で、僕は、どうなるんですかね」
 職員室で山口先生に質問していた。
「休学。と、言いたいところだが。職員会議でお前の召喚魔法の技量を高く評価する声が多くてな。そうはならんよ」
「つまり?」
「厳重注意。勝手にマルチバース干渉型の召喚魔法を使わないこと」
「……はい。俺も同世代の女の子の人生を滅茶苦茶にしたことはその……」
「反省しているか。隷属魔法まで掛けたのは問題なんだよなぁ」
「彼女。渡辺さんはこれからどうなるんですか?」
「お前と300メートル程度離れられないのだから、同棲という形になるだろう」
「な!?」

「というわけだ」
 とは迷惑な召喚者。空き教室でのことだった。
「同棲って……」
「いや、悪いと思ってる。せめて、君の隷属魔法の解除には全力を尽くすよ」
「あ、当たり前! いきなり同年代の男の子と同棲しろとか!」
「わ、悪いことだけじゃない!」
「は?」
「見たところ君は中層の公立高校の出身のようだが」
「そうだけど……」
「なら、よかった」
「は?」
「ウチは進学校だから、仮編入という形で進学校の授業が受けられるよ! タダで!」
「そんなの望んでない!」
 彼は、ポカンとした。
「え? なんで」
「ここの偏差値っていくつ?」
「60後半」
「私の偏差値はよくて53なの! ついていけるわけない!」
「だ、大丈夫だよ! 先生たちの授業わかりやすいよ!」
「あなたたち優秀な生徒と一緒にしないで! なんなの!? 突然異世界へ召喚されて、同年代の男子生徒の奴隷にされる挙げ句に、ついていけない授業に参加させられるって! 早く私を元の生活に返して!」
「だから、それには数年単位の研究が必要で」
「ふざけないで!」
 
 そんなこと言われたって、帰るものは帰るしかない。
 俺の家は都会にあって、電車で1時間程揺られて帰路についた。
「ここが俺の家」
「ぼろい……」
 仕方ないじゃん。ローンが残っているんだから。俺達はぼろい一軒家へと入った。
 そんな俺を出迎えたのは父親からの鉄拳制裁だったわけだが。
「馬鹿野郎! どう責任を取るんだ!」
「う、うるさい! 事故だ事故!」
「そんな言い訳をする子供に育てた覚えはない!」
 その日から俺の寝室は渡辺さんに明け渡された。俺は、居間で寝ることになる。

 俺の父親は朝の6時には出勤してしまう。だから、朝ごはんは俺と母さんと渡辺さんで食べることになった。と言ってもトーストだが。
「異世界のご飯もそんなに変わらない」
「どうやら、渡辺さんの世界はそれほど俺達の世界と変わらないようだね」
「そうかも……。魔法はないけどね」
「魔法なんて、大人になったら殆ど使わない技能よ」
 とは母さん。
「研究者や自衛隊員、アスリートくらいしか使わないわよ」
「そうなんですか?」
「魔法で火を起こすよりもコンロで火を起こす方が簡単なの」
 そりゃそうだ。魔法の方が安上がりだけどね。魔力の多い俺みたいな人間からしたなら。

 行きの満員電車を降りると渡辺さんは距離を置いてしまった。
 少し残念に思う。そんな俺の肩を叩いたのは
「よ!」
 悪友石田であった。石田は人脈があって、後ろから数人の魔法科の男子生徒が付いてくる。
「どうだった? 初めての夜は」
「変な言い方をするな!」
「この度胸なしめ!」
「う、うるさい! つか隷属魔法をそんな使い方したらクズじゃん!」
「そんなってどんなだよ」
 くっ! こいつぅ!
「「「「「ぎゃははははははは」」」」」
 とクラスメートの連中。許さん。絶対にいつか復讐してやる!

 私は、一昨日の制服と同じ制服のまま老樹高校という進学校へ足を進めているのだが。
 私は、彼、矢満田豹を睨んだ。人の人生無茶苦茶にしておいて、楽しそうにお喋りしている彼が許せなかった。
 今頃、お母さん達はどうしているんだろう? 突然の娘の失踪だ。大事に違いない。
 そんなことを考えていると足が止まってしまった。止まっていたのだが
「うわ!?」
 見えない鎖のようなもので引っ張られる。
 私は、やはり談笑している矢満田を睨むのだった。

「えー。本来魔法科には有り得ないことだが、転入生を紹介する!」
 とはホームルームでの山口先生だ。彼女は俺を軽く睨んだ後に
「入れ!」
 と声を張った。
 入ってきた渡辺さん。
 男子連中が少し声を出したのは、一般目線で彼女は美人に入るからだろう。
「あれが異世界人?」
「結構可愛いじゃん」
「元の世界に戻れないんだってかわいそー」
 と反応は様々。
 女性陣からの俺や、石田への視線は冷たかった。
 清霜だけは素知らぬ雰囲気なのは酷くない?

 昼休み。俺は、阿部祥子のところで購買のパンを齧っていた。
「ね? 頼むよぉ! あの子と仲良くしてやって!」
 渡辺さんは孤立していた。現実の転校生なんてこんなもんだ。
 変人の多い傾向の魔法科だから、転校生へ群がるという普通の傾向も現れない。
「嫌よ。貴方と石田君と清霜君で責任を取りなさい」
「そこをなんとか! 俺は、嫌われちゃったし、石田は馬鹿だし、清霜は魔法にしか興味ないから!」
「貴方! 私と仲がいいと思っていて!?」
 違うの?
「私は、はっきり言って貴方が嫌いです! 鼻血を出すのをよくからかうし」
「ごめんて」
 
 仕方ないので清霜と渡辺さんの元へ。
「何?」
「改めてごめん」
「俺も」
 石田がいないのはお調子者のアイツはクラスメートとふざけているからだ。
「……。いいよ。とは言えない。けど、悪いと思っていることは伝わった」
「そ、そう? ならさ! 俺と清さんで精一杯サポートするからなんでも言ってよ!」
「あ、そう。なら、早く隷属魔法を解いて」
「そ、それはぁ」
「はぁ……」
 
 そんなわけで
「じゃーん! 今日の魔法部の活動は題して! 隷属魔法の解除です!」
 この部活、2、3年生の出席率が高くない。だから、実質的に俺達1年生の独壇場である。
 部室のホワイトボードに隷属魔法! と書いた。
「しつもーん! どうして急に?」
 とは普通科の藤田春日からだった。
「それは、はい」
 俺はちょこんと座った他校の制服を着た渡辺さんを指差した。
「俺と清さんと石田でサキュバス召喚しようとしたら、その魔法の使えない女子高生を召喚してしまったからだからです!」
「なにそれウケる」
「ウケない。笑えない」
 と冷静なツッコミが渡辺さんから飛んできた。
「れ、隷属魔法なんて高等魔法どこで」
 恐る恐る手を挙げたのは、真田咲というクラスメートだった。
「ネットの論文」
「なるほど……」
 そこで俺は、フィンガースナップを効かせた。
 魔法で皆の手元に論文を転送する。
「ちょ!? 転送魔法なんてどこで!?」
 春日さんのツッコミである。
「ネット。各自その論文を読み込んでヒントを探してくれ」

 収穫は無かった。
「「……」」
 午後6時を回った車内での気まずさ。
 田舎なのもあって、人気の薄さも拍車をかける。
「ごめん……」
「……どうしたら」
「多分、数年かけて解決するレベルだと思う」
「じゃあそうしてよ! なんで私がこんな目に!」
「……」
 数年経って元の世界に戻っても……とは言えない。
 俺だって、もしも急に異世界に召喚されたら同じ様に嘆くのだろうから。
 ……いや。そうかな?
「あきらめろなんて言えないから、俺もやれることはやる。けどさ」
「けどじゃない! 今すぐ元の世界に返して!」
 電車が停車した。田舎と都会の中間地点の住宅区。彼女は走り出して電車を後にした。

 私は、矢満田豹を車内に於いて駆けだした。
 道なんて知りやしない。ただ、走った。そして、
「なんで! どうして!」
 公園のブランコに座って泣いていた。
 今頃は、家でシチューでも食べているはずだった。
 大好きな少女漫画の続きを読んでいたはずだ。
 お父さんを迎えていたはず。
 それなのに、どうして魔法がある世界で何も持たずに放り出されて、知らない男の子に拘束されなきゃいけないの!?

 俺は、そんな彼女を飛行魔法で監視していた。
 くそ! せめて召喚されたのが化け物だったらサクッと殺して終わりだったのに!
 なんで人間の女の子なんかが!
 俺にはやらなきゃいけないことがあるのに! 苛立ちながら、申し訳なさと葛藤していた。
 母さんが心配する。俺は、フィンガースナップを効かせた。

 ぱちん。そんな音がした。すると。いつの間にか座っている場所が変わっていた。
 そこには見覚えがあった。矢満田豹の家だ。
 いつの間にか、彼が目の前にいた。
「悪い。全部見てた」
「い、今の何!?」
「転送魔法だよ。プリントにやったのと同じ」
 私は、途端に彼が恐ろしく思えた。
「人を物みたいに!」
「あれも駄目なのか。めんどくさい女」
 なっ!?
「いいじゃん。別に死んだわけでもなくて、特別な才能が失われたわけでもない。ただうざったい両親や友人と離れただけなんだからさ」
「う、うざったい!?」
 親や友達を!?
「あぁ。確かに楽しい側面もあるけどうざったいのも事実さ。本音で話そうか。俺には母さんも親父も清さんも石田も皆がうざいよ。そして、君も。いや、君が今人生で一番うざい」
「は? はぁ!?」
「俺は! 君についてなんの責任も負いたくない!」
 
 なんなの!? この男は!
「責任を取りたくない!? ふざけないでよ!」
「だってさ。お前ってどこまでも普通じゃん。普通に魔法の使えない偏差値40くらいの落ちこぼれ」
「偏差値53!」
「それは、魔法がなければの話だろう? 魔法が絶対に0点なんだからさ。いいところでも偏差値45だよ。そんな奴召喚してなんの迷惑があるのさ。お前の世界に」
「それは……」
「それに、普通な印象で多少顔がいいのは認めるけども。どれだけ友人がいたわけ? 大した数じゃないだろ? リーダー気質でもないし」
 うっ! そうよ! その通りよ! 私は、所詮高校デビューに失敗した普通の女子高生よ!
「でも! 家族が!」
「その家族だってどうせ」
 私は、大きく手を振りかぶった。
 けれど
「……」
「殴らせなさい!」
 私の手は見えない壁に阻まれてしまった。
 そして、軽く弾かれてしまう。
「やなこった」
 私たちの最悪な日常はこのときに始まった。

「ねぇ! 起きなさいよ!」
 うるさいなぁ。
「遅刻するわよ!?」
 とは俺の奴隷さん。
「転送魔法使えば一瞬だって」
「なっ!? じゃあ昨日までわざわざ満員電車を使ってたのは!?」
「転送魔法って酔う奴もいるんだよ。だから、昨日君が酔わない体質だって確認が取れたから。ふぁあ!」
「吞気に欠伸なんかすんな! 一刻も早く私の隷属魔法を解除しなさいよ」
「嫌だって。めんどくさい」
 少しいたずらしてやろう。俺は、フィンガースナップを効かせた。
「な!?」
 すると渡辺さんもとい、小春の制服が転送されるのだった。
「おお! おお! 可愛い下着付けてんじゃん!」
「さ、最低! 覚えときなさい!?」
「制服ならお前の部屋にあるから取っておいでぇ」
 くく。いい気味。

 魔法科の授業には模擬戦闘というものがあるらしい。
 なんでも、魔法は元々戦争の中で産まれた技術だから、魔法戦闘は技能向上に役立つのだとか。魔法の使えない私にとっては実感のできない感覚だった。
「この世界にも魔力が少なくて魔法を上手く扱えない人間は存在する。そういった人間でも他の教科を頑張って大成した人間はいる。渡辺だって頑張ればアイツらに追いつけるさ」
「はぁ」
 山口先生はそう言うけど。私、立派な人間になりたいとかいう欲求ないんですけど。
 普通に生きたい。普通の専門学校に行きたいんですけどね。
「2人の戦闘をレポートに纏めてみてくれ。いい勉強になるはずだ」
 私はその2人を見た。阿部祥子さんとにっくき召喚者の矢満田豹だ。
「はじめ!」
 合図と共に阿部さんが飛び上がった。
「飛行魔法。高等魔法の1つだな。物理演算に優れる阿部だからこそ使える魔法だ」
 一方の矢満田豹はというと。
「紙をばらまいた?」
「魔力形成式コカトリスの召喚魔法か。3年生の教科書に一応載ってるとはいえ、軍用魔法だぞ。あれが成功したならその時点で矢満田の勝ちにしなくては……。まったく」
「なんで」
「この授業、本来は魔力の塊をぶつけ合うものだからな。致死性の魔法など発動の間際で発動者の勝利とせざるを得ない。コカトリスは、巨大な蛇の尻尾を持つニワトリだな」
「禁止すればいいじゃないですか」
「それでは高難度の魔法を扱う機会が減るだろうが」
 なるほど?
「まぁ。あんな大掛かりな魔法、阿部が発動を許さんよ」

 まぁ。その通り。コカトリスの召喚魔法は阿部さんの水流魔法によって意味消失した。
 だがね。土煙はたったからここからが本番よ。
 俺は、土煙の中で懐から魔法陣をプリントしておいたカードを取り出し魔力を通した。

「そういうことか」
 山口先生の呟きだ。
「え?」
「コカトリスは見せ札だということだ」
「じゃあ何が彼の狙いなんですか?」
「わからん。が、アイツの得意とするのは召喚魔法。空を飛ぶ幻獣でも召喚するのか? いや、問題児気質のアイツがそんな定石を打つとは……」
 土煙が消える。そこには……。
「何もいない?」
 そう。私の召喚者さえも。

 召喚魔法で決めに出る? そう考えるだろう? 阿部さん。
 だからな。今日用意したのはそんなものじゃない。もっとえげつない魔法だ!

 かつん。その音は阿部さんの背後から聞こえた。
「光学迷彩!?」
 驚きの声は先生から。
「自衛隊のレンジャーしか使わないような高等魔法だぞ!」
 
 光学迷彩を施し、俺は、魔力で作った階段を駆け上がる。
 そして、阿部さんの後ろを完璧に取った。つもりだったが。
「計算が甘いわよ」
 彼女は、読んでいた。
「だろうよ!」
 俺と彼女の魔力塊がぶつかる。

「先生!?」
 私は大爆発を前に先生を見た。
「大丈夫だ」
 吹き飛んだのは矢満田豹の方だった。
 しかし、
「よっと」
 彼は、魔法でクッションを召喚して着地した。
 ゆっくりと勝者が彼の下に降りてくる。
 勝ったのは阿部さんだった。
「矢満田にはこれ以上の魔力は残っていない。阿部の勝ちだ」

「まさか2つも戦術級の魔法を使うなんて大胆だったわ」
 阿部さんからのまさかのお褒めの言葉だ。
「いやぁ! ネットの光学迷彩魔法なんか当てにならないわ~」
「またネット知識? いい加減にしなさいよね」
「だってさ。学校の授業詰まんないじゃん」
「詰まるとか詰まんないとかそういう問題? 受験に使える魔法を磨きなさいな」
「阿部さん。鼻血出しながらだと格好が付かないぜ」
「ちょっ!? ティッシュ!」
 まぁ、俺と阿部さんの関係はこんな感じ。ライバルみたいで、からかう友人といったね。

 その後も魔法戦は続く。一番興味深かったのは、清霜くんと石田くんの戦闘だった。
 アレは、素人の私でも実力差というのがわかる瞬殺だった。
「石田君何も出来なかったですね」
「アイツは補習だな」
 私は、体育座りで皆の戦闘の感想を述べあっている。矢満田豹と阿部さんが少し羨ましかった。この世界でも私はまだ友達を作れていないから。

「この学校には天才と呼べる奴なんていないんだぜ?」
 とは帰り道の矢満田豹だった。
「貴方には先生も驚いていたけど」
「でもここは公立高校だからね。一芸入学ってものはないし、才能はみんな同じくらいだよ。佐野姉妹の実力はずば抜けているけど」
「佐野?」
「ウチのクラスに双子の姉妹がいるだろう? アイツら」
「彼女たちも天才じゃない?」
「偏差値70くらいはあるけど全然。アレは積み重ねの成果さ」
「ふーん」
 って何を打ち解けた雰囲気を出しているんだ!? 私は!

 佐野詩音、佐野久遠は老樹高校よりも更に田舎の方から登校している双子の姉妹である。
 どちらも学園トップクラスの実力者で医学部志望だ。
 俺は、そんな彼女たちに俺は小春を紹介した。
「君が小春ちゃんだねぇ!」
「可愛い!」
 と、初見は高評価ではある。彼女たちの人となりを簡単に言えば、クソガキである。
 将来的にコイツらにだけは診察されたくない。
「今失礼なことを考えただろ!」
「絶対にそうだー!」
「お前らが俺よりも勉強できる事実を認めたくないよ」
 発言に併せて、見た目も小柄なチビどもめ。
「あの……よろしく」
 小春が頭を下げた。
「「よろしく!!!」」
 なんとか。小春の友達を見つけることに成功した。
「あー悪いんだけど。コイツの勉強の面倒見てやってくんない?」
「あー魔法と生物以外カスだもんね! 豹は!」
「洋子も魔法と数学物理以外はからっきし!」
「お、俺の悪口は構わんが、阿部さんへの悪口は許さん!」
「えーもしかしてー?」
「好きなのー?」
 ちゃうわい!

 ハンバーガーショップ。
「そこはね! こうするんだよ!」
「ここの意味はこう!」
 矢満田豹の積み重ねという意味がわかった。彼女たち、非常に勉強を教えるのが上手い。
 センスじゃない。勉強の成果で彼女たちは魔法科のトップに君臨しているんだ。
「なんだか一気に頭が良くなった気分」
「頭の中がまさっらだからね!」
「サルからヒトへ変身中!」
 酷い言い草だが、偏差値70台から見た偏差値45なんてこんなものなんだろう。
「俺の成績も上がらんかなぁ」
 とは隷属魔法の関係で同席している矢満田豹だ。
「豹は馬鹿だから無理無理!」
「偶に私たちにも理解できないことを言うし!」
「ははは。殺すぞ」

 俺は、久遠に小春を任せて、詩音と密談を始めた。
「これ。俺が小春に掛けちゃった魔法の構成なんだけど解除の仕方わかんないかな?」
「うげ!? こんなの掛けちゃったの!? 無理だよ」
 さっすが俺偏差値70台に無理とか言わせちゃったよ。
「いや、解決方法は一応考えているんだが、実行にはお前らの協力が絶対いるんだ」
「やけに乗り気じゃん?」
「考えてもみろよ! このままじゃ俺は、一生あの子の面倒を見なきゃならないんだ! 必死にもなるぜ」
「そりゃそうだ」
「問題はこの魔法が精神のどの部分に作用しているかだ! それがわかれば同じ威力の意味のない魔法をぶつければ魔法は効力を失うはずだ」
「精神というか脳だね。あ、そうか!」
「そう! お前さんの親父さんは脳外科医だろ? ヒントもらえないかなあ?」
「いいよー! でも対価が欲しいなぁ!」
「対価?」
「君の地元を案内してよ」
「地元? なんで?」
「ほら。私たちの地元ってど田舎じゃん?」
「都会で遊びたいってこと?」
「そういうこと!」

「ななななななななんでこんなことにぃぃぃ!?!?」
 私は、病院へ検査入院することになった。
「いやぁ、佐野姉妹のお父さんに論文見せたら精密検査だー! って」
 矢満田豹はいつもの調子で飄々としている。
「異世界人の脳みそをいじれるぞー!」
「「イェーイ!!!」」
 佐野父、佐野姉妹はこの調子である。
「ちょ私は、モルモットじゃ!?」
「ならサルってことで」
「ちょっ!? 矢満田ぁ!?」
 ガラガラとMRIを受ける羽目になった。

「大脳皮質に魔法の作用を確認した」
 大脳皮質?
「脳みその一番外側だね」
 とは矢満田豹。
「一月ほど時間をもらえないかね」
 佐野父は真剣な面持ちだった。
「大脳皮質は人間の精神活動の基礎を支えている。ここに無意味な魔法を投射するのは学生レベルでは無理だろう。というかやめてくれ。というかよく脳に損傷が無かった。奇跡だよ。最悪廃人になっていた」
「人になんてものにかけてくれてんだテメェはよぉ!」
 私は、矢満田豹を締め上げた。
「ぐぇぇぇぇぇ。意外に力強いぃ!?」

「なんか言うことは」
「さーせん」
「ふざけんな! テメェ!」
「ひぃぃぃ! キャラが完全に壊れたぁ!」
 俺は、完全に逃げ腰になって両親に結果を報告した。
「「産むんじゃなかった」」
 あー! また言ったぁ!
「ごめんねぇ~小春ちゃん! 豹が本当に馬鹿で」
「いえ叔母様全てはコイツの責任ですので!」
 あるぇ? 魔法で支配下に置いてるはずなのに。そういえば絞め落とされかけたし、魔法の効力落ちてね?
「もしかしてーボケとツッコミの範囲内なら暴力が通じるのか???」
「あぁん?」

 ふむ。俺は、廊下兼寝床で悩んだ。もしかして、怒りが頂点に達すると隷属魔法の効果が解ける? 
 ならなんであの時……。家族について侮辱した時には殴れなかった?
 廃人化には頂点の怒りが沸き上がったのに。
 ただ、それを本人に問いただす気は無かった。
 自分の秘密を知られたくなかったから。

 
「はぁ……」
 俺は、息を吐いた。
「何柄にもなく、悩んでいるのよ」
 とは阿部さん。
「いや、あの隷属魔法なんだけど、一歩間違えば小春は廃人になってたって、指摘されたもんだから」
「まぁ、サキュバスにかけるつもりだったんだしそれくらい強力に仕込むのは分からなくもないわね」
「そ、そう」
「サキュバスを召喚しようとする神経が有り得ないんだけど」
「そっすよねぇ」
 だってさ! エロいお姉さんにあんなことやこんなことをしたいじゃん!
 しかも人権ない!
「くそ! 一ヶ月早く経たないかなあ」
「一ヶ月したら何があるのよ」
「佐野姉妹のお父さんが隷属魔法の無効化魔法を開発してくれるんだよ」
 まぁ、サキュバスを召喚しようとしたのには別の目的もあったわけだが。
 それは伏せておこう。

 あの日から豹の様子が可笑しい。私は、矢満田豹の呼び方を豹に変えていた。
 一々フルネームで呼ぶのも可笑しいし、矢満田くんと呼ぶにはアイツはふてぶてしく、矢満田と呼ぶのははしたない気がするからだ。
「ねぇねぇ! 今日は何を勉強しようか!」
 佐野姉妹の妹の久遠に私は、気に入られていた。
「数学かな? 昨日のここがわからなくて」
「うん! いいよー!」
 豹はこの子たちをクソガキ呼ばわりしているが、勉強しかしてこなかった反面情緒が幼いのかもしれないというのが私の見立てだった。
「小春は魔法に興味ないの?」
 と、何気ない質問が飛んできた。
「魔法?」
「うん!」
「でも私、魔力が無いから……」
「でも魔法って実技半分知識半分で評価されるから全く勉強しない理由はないんじゃない?」
「……でも今からみんなに追いつけるかな」
「ウチのクラスの底辺くらいなら余裕で抜かせるよ!」
 それなら、ちょっと学んでみてもいいかも……。

 放課後。
「「じゃん!」」
「詩音と!」
「久遠の!」
「「魔法講座ぁ!」」
 など双子の姉妹がふざけ始めた。みんな啞然として教壇を見る。
「これは先生から許可を貰った正式な講義なのです!」
 ふんす!
「魔法初心者の小春ちゃんとおバカなみんなへの補講なのです! 学活です!」
 ふんす!
「はいでは、石田君!」
「へ?」
「返事ははい!」
「はい!?」
「魔法とはなんでしょう!?」
「えー、えーっと。魔力を使用して発動する化学現象全般です!」
「正解!」
 まぁ。一般常識だし石田も答えられるわな。
 俺は、肘をついて見守ることにした。
「このように魔力を使って何もないところから火を起こしたり出来ます!」
 久遠の開いた手のひらから青白い炎が上がった。
 流石だ。一瞬で完全燃焼させやがった。
「では、魔力とはなんでしょうか!?」
 手を挙げたのは清霜だった。
「人間の持つエネルギー価でありその保有量には個人差があるもの」
「正解! けど正確には生命が持つかな! 哺乳類にも若干の魔力が確認されています!」
 ヒトに近しいほど多いんだよな。
「魔力を持っている人ほど、魔法を強く行使でき、他人の魔法への抵抗が大きくなります!」
「例えばこんな風に!」
 詩音が石田を指差した。すると、石田がロボットダンスを始める。
 クラスが笑いに包まれた。
 今度は詩音が俺を指差す。しかし、何も起こらない。
「この様に自分よりも魔力が多い人には魔法は行使できないのです!」
 俺の魔力は学年トップの量だからな。
「小春ちゃんが隷属魔法に掛かったのはこのせいですね!」

 そんなわけで、講義はつつがなく終了した。
「非常に興味深いおさらいだった」
 と詩音に称賛を送る。
「別にー、久遠がやりたいって言ったから」
「それでも、教師顔負けのわかりやすさ! 流石、魔法科トップ」
「ま、まあ! 感謝はしておく!」
 可愛いところあんじゃん。
「でも何気に悔しいかなぁ」
「何が?」
「アンタに魔法掛けられないこと」
「仕方ない。魔力量は生まれ持った資質に左右されるから」
「私も地元では1番の魔力量だったのに」
「それは、多分石田もだと思うよ」
 腐ってもここは進学校。皆魔法の素養はそれなり以上にあって、特に魔法科の連中はその素養に誇りを持っていたことだろう。
「そうね……」
 都会から来た本物の才能持ち。それが俺のクラス内での評価だった。
 俺なんかの才能は底が知れているのにね。

「ねぇ。アンタさどこか可笑しいよ」
 都会での帰り道の小春だった。
「……。例えば悩み事があったとする。でも家から300メートル離れられないとしたら? よしんば離れられたとして、女の子がついてきて1人になれないとしたら? 可笑しくもなるよね?」
「私が邪魔?」
「端的に言って」
「本当にそれだけ?」
「何が言いたい?」
 思わず睨みつけてしまった。
 でも小春は萎縮しなかった。
 暫く睨み合いが続いて、負けたのは俺だった。
「あぁそうだよ。俺には、悩み事があってそれを解決したいんだ。けど、君がいるとそれができない。君の隷属魔法を解除することと君を異世界にいち早く返すことでいっぱいなんだ!」
「悩み事?」
「まだ。君には話したくないな」
 俺は背を向けて、家へと歩き出す。

 私は、元々は彼の部屋で悩んだ。
 悩み事って何? そういえばどうして豹はわざわざ田舎の高校に通っているんだろう?
 等々。疑問が尽きない。
 サキュバスを召喚しようとしたのも本当にエロ目的だけだろうか?
 私には、彼がそこまでサキュバスに拘っているようには思えなかった。

 翌日。私は、久遠に尋ねてみた。
「豹ってどんな人?」
「豹? 魔法と生物学しかできない馬鹿?」
「そういう表面的な評価じゃなくて」
「不思議な奴かなぁ」
「不思議?」
「本当ならもっといい高校にいけるポテンシャルはあるんだよね。でもそのポテンシャルを抑えているような」
「もっといい高校?」
「市立千羽高校とか、都会の高校。本人は内申点が悪いからここに来るしか無かったって言うけどさ。ほんの少し頑張るだけで、入れたと思うよ」
 なのに、敢えて老樹高校に入学した?
「頑張る気力が無かった?」
「まぁね。あの子だけは田舎に住んでる他の生徒と違って、選択肢があったのは確かだよ」
「なるほど」
「豹については私よりも詩音や洋子の方が詳しいよ」

 そんなわけで阿部さんに聞いてみた。
「嫌な奴!」
 との開口一番。
「それ以外には」
「魔法馬鹿!」
「他には」
「認めたくないけど話の合う奴」
「……。他に」
「なんか一線引いてる」
 なるほど。

 そして、詩音だ。
「豹? 面白い奴だよ! 発想が突飛で!」
 久遠の、詩音の方が仲がいいというのは本当のことのようだ。
「何か隠していることがあるように感じてるの」
「……。あー、気が付いたかー。一緒に暮らしてるもんね」
「不本意ながら」
「私は、知っているよ。豹の秘密」
「お、教えて!」
「うーん。教えるのは簡単だけど。嫌かな」
「どうして?」
「だってさ。それを話さないから豹と詩音の交友は持続しているんだもん。突然現れた君に話したいことじゃない」
「それほど重要な秘密?」
「豹にとっては」
 
 何やら嗅ぎまわれてる。
 詩音はいいんだ、才能があるから。話してもしっかりと他人事だと割り切ってくれる。
 けど。小春。お前はダメだ。
 才能のない。俺の全てを理解できないお前は。
 意を決して、俺は教室でそっと首に手をかけるように頭に手のひらを置いた。

「おい豹!」
 とは石田くんの叫びだった。見れば、石田くんに抱きかかえられた豹が血を口と鼻から流している。
 まさか自殺を!? 私が彼を探ったから!?
「誰か! 先生を!」
 石田くんの叫びにいち早く反応したのは清霜くんだった。
 何が起こったの!?
 間もなく救急車がやってきて彼が運ばれていく。
 その時、私からあの引っ張られる感覚は消えていた。

「いやぁ。死ぬかと思った!」
 矢満田家の面々と共に病院へ向かうと入院服の彼はピンピンしていた。
「豹!」
 矢満田母が彼を抱く。
「何をしたの!?」
 割り込んだのは彼の主治医だった。
「豹君は自らの大脳皮質に魔法をかけたんです」
「そしたら余波で毛細血管が切れちゃった」
「なんでそんなことしたのよ!」
 矢満田の叔母様が彼を問いただす。
「いや、佐野姉妹のお父さんによれば、俺の隷属魔法は小春の大脳皮質に掛かっているんだろう? けどさ。俺の方にも契約に縛られている感覚があったわけ。つまり、俺の大脳皮質にも魔法が掛かっているだろうから打ち込んだわけ。魔法を」
「一ヶ月待てばよかったじゃない!」
「そうよ!」
 私は、便乗した。
「だってさ。小春と縁切りしたかったからさ」
「「「はぁ???」」」
「小春? 消えているだろう? 拘束されている感覚が」
「うん……」
「じゃあ後は確認だ! 俺を思い切り引っぱたけ!」
「え?」
「いいから」
 私は、振りかぶった。
 軽い音が響いた。

 はぁ。いってぇ。医者からは2週間の安静の為入院を言い渡された。ついでに親父からげんこつ食らった。頬も頭も痛い。
 これで、小春との隷属魔法による因縁は消えた。
 取り敢えず、共同生活が無くなればアイツも深入りすることもないだろう。
 アイツのレベルに合った学校に編入になるはずだ。
 俺は、また召喚魔法の研究に専念できる。悪魔の召喚魔法の。
 
 そして、2週間が経った。
 久しぶりに家に帰る。母さんが笑顔で迎えた。そして、俺は、午後から学校に向かう。
「え?」
 そこには、老樹高校の制服を纏った転入生がいた。
「私。編入試験に合格して、魔法科の一員になったから! 貴方の家へも正式に養子に入ったから! よろしくね! お兄ちゃん!」
 小春だった。俺たちの新しい日常が今から始まる。

 俺は、放課後に部室でパソコンと睨めっこしていた。
「何してるの? お兄ちゃん?」
「その呼び方やめてくれませんかね?」
「で、何してるの? 豹?」
「作図だよ。魔法陣の」
「魔法陣って血で書いたりするものかと思ってた」
「昔はね。けどさ。手で書くよりも図形ソフト使った方が正確だろ?」
「確かに」
「てか距離が近い。離れろよ!」
 俺は、小春を押した。
「今! 妹の胸を触った!」
「意外にでっかいのな」
 という兄妹というのが、今の俺たちの距離感だった。
「何の魔法陣なの?」
「決まってる! 召喚魔法!」
「飽きないわね。また私みたいな被害者が出たらどうするの?」
「そんなの有り得ないから! 阿部さんや、詩音に指摘ももらったしな!」

 ハンバーガーショップ。私は、豹と佐野姉妹と一緒に食事をしていた。
「あんまり放課後に食べると太るぞお前ら」
「詩音は太りませーん!」
「久遠も!」
 私は、怪しいかなぁ。しかし、この友達とハンバーガーショップで駄弁る生活。以前の私が望んでいたものだ。うっかり
「ありがとね」
 と、漏れてしまったが
「「「え?」」」
 3人とも聞き流してくれたようだ。
 私は、この時には元の世界に帰りたくない。そう思うようになっていた。

 俺は、談笑する3人にはトイレと言って、その場を後にした。
 トイレに行ったのは本当だ。しかし、
「おえ」
 胃の中身をぶちまけていた。
 なぜなら
「璃々花」
 早く召喚しなくては、悪魔を。

 その日、豹は体調不良を訴えて学校を休んだ。
「もう! 移さないでよ!」
「わかってる……」
 どうやら、本気の風邪のようで、元気が無かった。
 私は、豹を置いて学校へ向かった。

 俺は、小春が家を出ていって家が空になったのを確認して運動場へ向かった。

 今日は晴天だった。
 満員電車に揺られて降りると後ろから
「小春♪」
 久遠が肩を叩いた。
「おはようございます」
 自転車で登校している阿部さんも合流する。
 詩音は?
「……」
 彼女は都会の方の空をただ、眺めていた。

 俺は、その魔法陣の断片がプリントされた紙をバックから取り出し並べていく。
「もう少し。もう少しで話せるよ。璃々花」
 誰もいない運動場に巨大な魔法陣が形成されていく。
 人払いの魔法も発動させているから完璧なはずだ。

 2限目の授業終わり。教室移動の際に私たちは都会の方から暗雲が立ち込めるのを見た。
「変ね。今日は県全域で晴れ模様だったはず」
 阿部さんが呟いた。
「なんだ? この感じ。覚えがあるぞ」
 とは清霜くんだった。
「そう。遂に君は……」
 詩音だけは戸惑っていなかった。
「詩音? 何か知っているの?」
 私は問いかけた。
「豹だよ。あれは、豹の魔法」
 豹? 今日は風邪で寝込んでいるはずじゃ?
「違うよ。小春。彼は、ずっと演技していたの。馬鹿な学生っていうね」
 詩音は歌うように語る。
「豹のお爺さんはこの国の最高学府の卒業生。その素養はしっかりと彼に受け継がれていたの。彼は、本当は、私たちとは違う才能を持っているのよ」
「豹は何をしようとしているの?」
「大悪魔の召喚。そして、もう1つの演技。とっくに彼の心は壊れていた」
 あどけなさの残る顔が人形のように恐ろしく見えた。
「彼は、悪魔に願おうとしている。死んでしまった妹さんの蘇生をね」

 現れた! 黒い髪と蛇の下半身、黒い翼を持つ巨大な女悪魔!
「汝か? 我を呼び出したのは?」
 あぁ! あぁ! あぁ!
「極上の魔力よのぉ! その魔力を対価にどんな願いも叶えてやろうぞ?」
 女悪魔は俺を六本の指の生えた手のひらの上に乗せた。
「魔力だけじゃない! 魂もくれてやる! だから!」
 璃々花を! 妹を!

「大悪魔って!? そんなものと契約して!?」
「無事じゃないでしょう。その魂も何もかもをしゃぶりつくされる」
「そ、そんなのって!?」
「そうか! アイツがサキュバスを召喚しようとしたのはマルチバース干渉召喚魔法の実証実験だったんだ」
 清霜くんだった。
「つまり、渡辺さんを召喚した時点で自分の才能に確信を持った!」
「そして、私と詩音の補正を加えて悪魔を召喚したんだわ!」
 阿部さんは今更ながらに何に加担したか悟ったらしい。
「おい! アイツやべーんじゃ」
 石田くんの叫びだ。
「ドラゴンなんか災害級の存在は無許可で行うことを禁止されている! 自衛隊の標的にされる可能性が」
「それでも妹さんが生き返ればいいんだよ」
 詩音は完全に豹の味方のようだ。
 クラスの他の皆は何が起こったか断片も理解していないようだった。
 は、早く助けに!
「行かせないよ!」
 詩音が立ちふさがる。
 
 ぱちん。フィンガースナップの音が聞こえた。
 これは!? 
「転送魔法。私も習得しておいたんだ」
 阿部さんの魔法によって、私、清霜くん、石田くんはどこかへ転送されたようだった。
 大雨が吹き荒れる運動場。
 目の前には翼を持つ巨大な女。
 ここってまさか!?
「あまりにも強大な魔力だからね。特定は容易かったよ」
「詩音は!?」
「きっと久遠が食い止めてる」
 私たちは、大悪魔と対峙した。

 俺は、いつの間にか寝ていたようだった。
 朝日が射す。
「お兄ちゃん!」
 その声ではっとした。
「璃々花!」
 俺は、その小学3年生くらいの女の子を精一杯抱きしめた。
「璃々花! よかった! 喋れるように! 歩けるようになったんだね!」
 璃々花は、重い障害のせいで、歩くことも喋ることもままならないまま5年の人生の幕を閉じた。俺が悪魔に願ったのは、そんな妹を普通の女の子として復活させてほしいというものだった。
「お兄ちゃん! 久しぶり!」
 俺は、その温かさを嚙み締めた。

「死者の蘇生など敵わぬよ」
 とは悪魔からの無慈悲な宣告だった。
「死後すぐであったり、契約で縛っているならともかく。5年も前に死んだ少女を、しかも障害持ちを完全な状態で蘇らせろ、など無理な話よ。以下に儂リーゼロッテ・グランド・シュバルツトイフェリンとてのぉ」
「ふっざけんな!」
 声を上げたのは意外にも石田くんだった。
「俺もアイツから聞かされてたからよぉ! その願いは知ってたが、ここまでのことをさせといてそれはないだろう!?」
 その通りだ。
「代わりに夢を見せるなんて卑怯よ! この蛇女!」
 私も追従する。
「ではどうすればいいのじゃ? 辛い現実を突きつけろとでも? 儂に魂まで差し出すと言った男に」
 それは……。

「璃々花学校へ行かなきゃ! お兄ちゃんのせいで遅刻しちゃう!」
 璃々花は可愛いお尻を振って翻った。
 俺も学校へ行かなきゃ! 老樹高校へ! あれ? でもさ。璃々花が生き返ったしもう魔法の勉強をする意味なんてなくない?
「璃々花、送ってくよ!」
「でもお兄ちゃんの学校……」
「いいんだよ。そんなものは」

「そうよ! あの馬鹿兄貴に現実を叩きつけるの!」
「「「なっ!?」」」
 阿部さん、石田くん、清霜くんの声が重なった。
「私は、アイツに日常を奪われた! だから! アイツの心地いい日常を奪ってやるわ!」
 そうこれは、私だけが抗議できる問題だ。妹さんの死によって精神の壊れたアイツには、アイツによって全てを一度奪われた私だけが反論できる!
 私は、女悪魔の下へと走り出した!
「よかろう! 我が契約者の精神に立ち入ることを許そう!」
 待っててね! 豹! 今殴りに行く!

 妹が校舎に向かうのを見送った。
 チャリンチャリン。
 音がしたのは側方だった。
 ごーーーーーー!!!
 その自転車が俺を轢く。
「ぎゃあああああああああああああ!?」
「起きろ! 馬鹿!」
 そこにいたのは小春だった。
「何すんだ阿保!」
「ふん! 私のことは解るみたいね!」
「当たり前だ!」
「じゃあここが現実じゃないことは?」
 はぁ?

 やった! あんにゃろに一泡吹かせた!
「ここが現実じゃない? 何言ってんだ? 滅茶苦茶痛いんだけど」
「じゃあ! 私が急に現れたことにはどう説明をつけるのよ!」
「くっ!?」
「心のどこかでは現実じゃないってわかってたんじゃない? ていうかアンタ魂まで差し出したんでしょ? 再会なんか有り得ないじゃない!」
「……。その通りだ」

 その通りだ。俺が生きているなら、妹との再会は有り得ない。魂まで差し出したのだから。
 妹が生きているなら、俺は、死んでなきゃいけない。
 俺が生きてて、璃々花が生きてる世界は有り得ないんだ……。
「詩音から、全部聞いたよ! 合点がいった! 妹さんの蘇りの研究に私は邪魔だったから、私を遠ざけようとしたんだ!」
「あぁ、そうだよ! お前の隷属魔法や帰還魔法に時間を盗られたくなかった!」
「でも、それは……! 私への責任から、逃げてる!」
「逃げちゃ悪いのか!」
「悪いし! それに、私が妹さんのように廃人になってたかもって聞いて引け目を感じたんでしょ!? だから、あんな強引な方法で隷属魔法を解除した!」
「うっ!」
「引け目を感じたなら責任取れ! 現実を生きろ!」

 私は、アイツに手を差し出した。
「アンタのせいで、私の人生滅茶苦茶になった。けど久遠や詩音が友達になってくれて、前の世界じゃ灰色だった青春が色づいた。それは、アンタのおかげ。認めてあげる」
 だから、
「アンタもアンタの現実を生きろ! 灰色じゃ済まない現実かもしれない! それでも! アンタの現実にもいつか転機がやって来る! 来ないなら! 私が転機になってやる! だから! 来い!」

 俺は、その手を取ろうとして一瞬躊躇した。元気に走る妹の後ろ姿が見えたからだ。
「もう!」
 俺の手は小春に引っ張られた。そして
「私の初めてあげる!」
 唇を奪われた。それで夢から覚めようなんて、なんて俺は、チョロいんだ。
 詩音は久遠に妥当され暗雲が引いていくのを見送った。
「久遠。私、フラれたみたい」
「献身的な愛って伝わらないよ」

 後日譚

「えー。これまた珍しいことなんだが転校生を紹介する!」
 山口先生だった。
「リーゼロッテ・シュバルツトイフェリンですわ! よろしくお願いいたします!」
「「「「「えー!?」」」」」
 俺の魂を解放してくれたけど魔界には帰らなかったんだよなぁ。大悪魔リーゼロッテ。
 彼女は少女の姿をとって、まんまと魔法科へ編入するのであった。
 騒がしい日常が始まることだろう。けれども、その裏にはもう妹の影はない。
 俺は、前を向いて魔法の研鑽をしていく。いつか人生に彩りが加わると信じて。
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