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1章 シャルロッテ事件
6話 俺の未練
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パンを置いて、ニーナ邸を後にした。
別の邸宅の扉を開ける。
今度こそ、シュトラール家の別邸、我が家だった。
「お帰り! ティガー! ティガー・フォン・シュトラール! ご飯の準備はメイドのアンナがしたわ! お風呂の準備もメイドのアンナがしたわ! これはもう! アタシしかないわね!」
「だから嫌だったんだ。帰る」
ニーナのところに。
「いぃやぁぁぁぁぁ!!!」
ええい鬱陶しい! 俺は、年上のお姉さんや頭のいい落ち着いた女が好きなんだ!
この子は、エマ・フォン・フリードリヒ。俺の許嫁である。
同じく魔法学園に通い、幼馴染でもあるのだが。
「あなたとの子供が欲しいのぉぉぉ!」
「近所迷惑!」
まだ俺は16歳なんだぞ! 責任なんて取りたかない!
「帰るってどこに? ニーナって女のところ?」
「げ」
なんで知ってるの?
「香水の匂いがするわ! それに学園でも有名なんだから! トップ5のシュトラールとブラオステラは特に仲がいいって」
ぐぇ。
なんで俺が有名人扱いされにゃあ。俺はちょっと愛人作りたいだけなのにぃ!
「全部! 顔に書いてある! 大体結構本気じゃない!」
ぐぇ。
「だってね! 俺だって恋愛したいわけですよ! 相手の機嫌を伺ってですね! 何でもかんでも好感度アップに繋がったら面白くないんですよぉぉぉ!」
「アタシがつまんないって??? 最低! でもそこが好き!!!」
なんでこんな言葉で耳が熱くなるんだ!!!
エマと、一緒にご飯を食べて、一緒に風呂に入ったりして、一緒に布団に入ったりして寝室から抜け出した。
居間で毛布に包まっていると、灯りが灯る。
メイドのアンナだった。
「まだ寝てなかったのか」
「うるさいエマ様が眠られると、逆に目が覚めてしまうんですよ。それに何か悩まれているようでしたから」
「悩んでなんかいない。悩んでも仕方ないことなんだよ」
「……。膝枕でもして差し上げましょうか?」
「頼む」
アンナはフリードリヒ家のメイドで、この屋敷の家事全般を切り盛りしている。
昔から、エマの面倒を見ていて、俺も幼い頃からよく知っている仲だった。
「お辛いのは、わかりますわ。貴方の境遇を思えば」
「辛いなんて、これはとても恵まれたことなんだよ」
アンナは俺とエマの5つ年上で気立てがいい。これで平民でなければ……。
「貴族の御曹司の立場、一級の魔法使いの才能、素敵な婚約者。幸運以外の何者でもない」
「……えぇ。羨ましいですわ」
「でも、俺に魔法の才能がなかったなら、俺は……。お前と……。アンナお姉ちゃんと」
「そうですね。そうだったなら、私も貴方もギクシャクしないでいられたかもしれませんね。しれなかったかもね。ティガーちゃん」
俺には、もっとささやかな幸せがあったかもしれない。
「でも、そうだったなら、お嬢様は今よりもきっとつまらない人生を送っていたでしょうね」
「……どうだか」
いつの間にか夢を見ていた。
俺が子供の時、エマ様に連れられてお屋敷に上がった時のことだ。
「ティガーは将来、アタシの騎士になるのよ!」
エマ様はご当主さまや奥様の前でそう宣言した。
「それは素晴らしい! あの家の子ならきっと立派な騎士になるだろう!」
「それでね! ティガーは私アタシと結婚するのよ!」
お嬢様……、それはできません。僕は。
また別の子供の頃。
アンナお姉ちゃん。これあげる。
「シラツメクサの冠! いいの? ティガーちゃん」
いいの! でもこれは練習だから! おばちゃんが結婚式でしてたドレスをお姉ちゃんに着せてあげるから!
「あはは! じゃあそれまで待ってるから!」
また別の子供の頃。
アンナ様に連れられて
「紹介するわ! 私のナイトよ!」
「この子が?」
お嬢様は、お友達にも僕を紹介した。
その方は僕の顔を何度も見る。
一回り背の大きいその方は、余裕があってアンナお姉ちゃんと重なってしまって、僕はすぐに顔が熱くなってしまった。
「……ねぇ。貴方。私の言う言葉の真似をしてみてくれない?」
え?
「ねぇ。お願い♪」
あんまりにも眩しい笑顔だったから、僕はつい言うことを聞いてしまった。
「ジィルフィーデの奇跡をなぞる」
僕が、初めて才能を示してしまったあの日。
別の邸宅の扉を開ける。
今度こそ、シュトラール家の別邸、我が家だった。
「お帰り! ティガー! ティガー・フォン・シュトラール! ご飯の準備はメイドのアンナがしたわ! お風呂の準備もメイドのアンナがしたわ! これはもう! アタシしかないわね!」
「だから嫌だったんだ。帰る」
ニーナのところに。
「いぃやぁぁぁぁぁ!!!」
ええい鬱陶しい! 俺は、年上のお姉さんや頭のいい落ち着いた女が好きなんだ!
この子は、エマ・フォン・フリードリヒ。俺の許嫁である。
同じく魔法学園に通い、幼馴染でもあるのだが。
「あなたとの子供が欲しいのぉぉぉ!」
「近所迷惑!」
まだ俺は16歳なんだぞ! 責任なんて取りたかない!
「帰るってどこに? ニーナって女のところ?」
「げ」
なんで知ってるの?
「香水の匂いがするわ! それに学園でも有名なんだから! トップ5のシュトラールとブラオステラは特に仲がいいって」
ぐぇ。
なんで俺が有名人扱いされにゃあ。俺はちょっと愛人作りたいだけなのにぃ!
「全部! 顔に書いてある! 大体結構本気じゃない!」
ぐぇ。
「だってね! 俺だって恋愛したいわけですよ! 相手の機嫌を伺ってですね! 何でもかんでも好感度アップに繋がったら面白くないんですよぉぉぉ!」
「アタシがつまんないって??? 最低! でもそこが好き!!!」
なんでこんな言葉で耳が熱くなるんだ!!!
エマと、一緒にご飯を食べて、一緒に風呂に入ったりして、一緒に布団に入ったりして寝室から抜け出した。
居間で毛布に包まっていると、灯りが灯る。
メイドのアンナだった。
「まだ寝てなかったのか」
「うるさいエマ様が眠られると、逆に目が覚めてしまうんですよ。それに何か悩まれているようでしたから」
「悩んでなんかいない。悩んでも仕方ないことなんだよ」
「……。膝枕でもして差し上げましょうか?」
「頼む」
アンナはフリードリヒ家のメイドで、この屋敷の家事全般を切り盛りしている。
昔から、エマの面倒を見ていて、俺も幼い頃からよく知っている仲だった。
「お辛いのは、わかりますわ。貴方の境遇を思えば」
「辛いなんて、これはとても恵まれたことなんだよ」
アンナは俺とエマの5つ年上で気立てがいい。これで平民でなければ……。
「貴族の御曹司の立場、一級の魔法使いの才能、素敵な婚約者。幸運以外の何者でもない」
「……えぇ。羨ましいですわ」
「でも、俺に魔法の才能がなかったなら、俺は……。お前と……。アンナお姉ちゃんと」
「そうですね。そうだったなら、私も貴方もギクシャクしないでいられたかもしれませんね。しれなかったかもね。ティガーちゃん」
俺には、もっとささやかな幸せがあったかもしれない。
「でも、そうだったなら、お嬢様は今よりもきっとつまらない人生を送っていたでしょうね」
「……どうだか」
いつの間にか夢を見ていた。
俺が子供の時、エマ様に連れられてお屋敷に上がった時のことだ。
「ティガーは将来、アタシの騎士になるのよ!」
エマ様はご当主さまや奥様の前でそう宣言した。
「それは素晴らしい! あの家の子ならきっと立派な騎士になるだろう!」
「それでね! ティガーは私アタシと結婚するのよ!」
お嬢様……、それはできません。僕は。
また別の子供の頃。
アンナお姉ちゃん。これあげる。
「シラツメクサの冠! いいの? ティガーちゃん」
いいの! でもこれは練習だから! おばちゃんが結婚式でしてたドレスをお姉ちゃんに着せてあげるから!
「あはは! じゃあそれまで待ってるから!」
また別の子供の頃。
アンナ様に連れられて
「紹介するわ! 私のナイトよ!」
「この子が?」
お嬢様は、お友達にも僕を紹介した。
その方は僕の顔を何度も見る。
一回り背の大きいその方は、余裕があってアンナお姉ちゃんと重なってしまって、僕はすぐに顔が熱くなってしまった。
「……ねぇ。貴方。私の言う言葉の真似をしてみてくれない?」
え?
「ねぇ。お願い♪」
あんまりにも眩しい笑顔だったから、僕はつい言うことを聞いてしまった。
「ジィルフィーデの奇跡をなぞる」
僕が、初めて才能を示してしまったあの日。
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