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第1章 曇天の大地
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ぺリメニ連邦共和国の学校―
青白く光る蛍光灯の下、古い教室の窓から冬の曇り空がのぞいていた。
雪は止んでいたが、分厚い雲は街を鈍い灰色に染めたまま動こうともしない。
その日の4時間目が終わった直後、教室の隅に据え付けられた薄型テレビが無音で点いていた。
ニュース番組の字幕が、力強いフォントで画面を横切る。
――「ボルシチ共和国への「特別軍事作戦」は順調に進行中。我らの部隊がさらに一都市を“解放”」――
「やった……!」
アーシャは声を潜めながらも、机を軽く叩いて小さく喜びを示した。
椅子の背にもたれ、青い瞳を輝かせながら画面を見つめる。
画面には兵士たちが笑顔で市民に食料を配る映像が流れていた。
「ねえ、またそのニュース? つまらない話題ばっかり」と斜め前の席のマーシャが眉をひそめる。
「“解放”って、いってもあっちじゃかなり死傷者が出ているって、SNSで見たけど」
「それ、嘘でしょ。敵国のプロパガンダに決まってる。見て、テレビではちゃんとみんな笑ってるじゃない。」
アーシャはむっとして言い返した。
「僕の従兄、先週徴兵されて音信不通なんだ」と後ろの席のパーヴェルがぽつりと呟いた。
「再来年まで続いたら、僕も徴兵されるかもしれない。うちの叔父さんも徴兵通知を受け取ったって言ってた……もう笑えないよ」
「それは……」
アーシャの言葉が一瞬止まる。
「やめようよ、そんな話」
マーシャが椅子をきぃと引き、パーヴェルの方へ向き直る。
「でも、やっぱり変だよね? 本当にこの戦争、正しいの?」
アーシャは唇をきつく結んだ。
「祖国のために戦ってる人たちを侮辱する気? 私たちの安全は、あの人たちが命を賭けて守ってるのよ」
「それは……違うとは言ってないけど」
「じゃあ、変な言い方しないで。国家の英雄に泥を塗るようなこと、しないでよ」
その瞬間、チャイムが鳴った。
ざわついていた教室が一拍置いて静まり返る。
黒板の前のドアが開き、教科書を抱えた教師が入ってきた。
「はーい、席について。さっさと教科書開いてー」
アーシャは何か言いたげにもう一度クラスメイトを見たが、結局何も言わず、黙って教科書を開いた。
窓の外、曇り空の向こうでは、何かがじっとこちらを見下ろしているような、不気味な静けさが広がっていた。
青白く光る蛍光灯の下、古い教室の窓から冬の曇り空がのぞいていた。
雪は止んでいたが、分厚い雲は街を鈍い灰色に染めたまま動こうともしない。
その日の4時間目が終わった直後、教室の隅に据え付けられた薄型テレビが無音で点いていた。
ニュース番組の字幕が、力強いフォントで画面を横切る。
――「ボルシチ共和国への「特別軍事作戦」は順調に進行中。我らの部隊がさらに一都市を“解放”」――
「やった……!」
アーシャは声を潜めながらも、机を軽く叩いて小さく喜びを示した。
椅子の背にもたれ、青い瞳を輝かせながら画面を見つめる。
画面には兵士たちが笑顔で市民に食料を配る映像が流れていた。
「ねえ、またそのニュース? つまらない話題ばっかり」と斜め前の席のマーシャが眉をひそめる。
「“解放”って、いってもあっちじゃかなり死傷者が出ているって、SNSで見たけど」
「それ、嘘でしょ。敵国のプロパガンダに決まってる。見て、テレビではちゃんとみんな笑ってるじゃない。」
アーシャはむっとして言い返した。
「僕の従兄、先週徴兵されて音信不通なんだ」と後ろの席のパーヴェルがぽつりと呟いた。
「再来年まで続いたら、僕も徴兵されるかもしれない。うちの叔父さんも徴兵通知を受け取ったって言ってた……もう笑えないよ」
「それは……」
アーシャの言葉が一瞬止まる。
「やめようよ、そんな話」
マーシャが椅子をきぃと引き、パーヴェルの方へ向き直る。
「でも、やっぱり変だよね? 本当にこの戦争、正しいの?」
アーシャは唇をきつく結んだ。
「祖国のために戦ってる人たちを侮辱する気? 私たちの安全は、あの人たちが命を賭けて守ってるのよ」
「それは……違うとは言ってないけど」
「じゃあ、変な言い方しないで。国家の英雄に泥を塗るようなこと、しないでよ」
その瞬間、チャイムが鳴った。
ざわついていた教室が一拍置いて静まり返る。
黒板の前のドアが開き、教科書を抱えた教師が入ってきた。
「はーい、席について。さっさと教科書開いてー」
アーシャは何か言いたげにもう一度クラスメイトを見たが、結局何も言わず、黙って教科書を開いた。
窓の外、曇り空の向こうでは、何かがじっとこちらを見下ろしているような、不気味な静けさが広がっていた。
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