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第11話 ある下町の定食屋
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夕刻の定食屋は、いつものように静かな賑わいに包まれていた。
カウンターに座る客たちは、食事を楽しみながらも、壁に掛けられた小型テレビに時折視線を投げていた。
画面には、ニュースキャスターの冷静な声が流れている。
「次は、都内の住宅地で発生した放火事件についてです。」
「被害者は政府の経済財政諮問会議の委員も務めた著名な経済学者、文久大学教授の松平尚子さんとその夫である定征さん、長男の定頼さんです。」
「三名とも火傷を負い、意識不明の重体。加害者は無職、佐藤 弘子容疑者 24歳。警察の調べによると、佐藤容疑者は松平教授のテレビの討論番組での主張に腹を立てて犯行を思いたったとのことで、容疑者の身勝手な主張にネット上では非難が……。」
店内の客たちは顔をしかめ、言葉少なに黙ってニュースを聞いていた。
陰鬱なニュースだったためか、店主は別のチャンネルに切り替えるが、やはり時間の関係でニュース番組が放送されていた。
「次は、大学教授宅放火事件についてです。佐藤容疑者の足跡を取材したところ、次のようなことが判明しました。」
そこで次のようなことが語られた。
―DV被害にあって息子と共に夫から逃げ出し、パートをしながら幼い息子を育てていたこと。
―1か月前職場を解雇され、生活保護の申請も断られたこと。
―10日前事故で息子を亡くし絶望のあまり、町中を彷徨っていたとこと。
―たまたま町中のテレビで見かけた討論番組での松平教授の貧困は自己責任との発言に、自分は運命に理不尽な目に合わされているにも関わらず、お前の努力が足りなかったと言われたようで怒りと悲しみが沸き、どうせ息子もなくなって生きる意味もなくなったのだから、刺し違えて自分も死のうと思ったため犯行をおこなったこと。
店内の空気は一層重くなった。
しかし、カウンターに座っている草臥れた服を着た老人二人の顔には、あざ笑
うかのような笑みを浮かべ、楽しそうにつぶやいた。
「努力だの。自己責任だの。言ってやがったのだから、これも「自己責任」だわな。」
「そうだわな~。しかし、火傷の後遺症はかなりキツイというぞ。多分人様の世話になると思うが……。なんとまあ、皮肉だね~。」
別の席にいた近くの工場の事務職と思われる上半身に作業着、下半身に黒い制服のようなスカートを着た若い女性は、老人の言葉に感心がないのか、何の反応もせずスマートフォンを弄っていた。
店主は作業の手を一瞬止めたが、やがて何事も無かったかのようにまた作業に戻った。
―やがて、このセンセーショナル事件は検察が無期懲役を求刑したこと、松平一家が重い障害を負ったものの一命を取り留めたことなどが報道された後、情状酌量の余地が認められ懲役20年の判決が確定した頃には、松平尚子の名も聞かれなくなっていった。―
冬の乾いた風はまだ強く、クリスマスイルミネーションで輝く町中を駆け抜
けていく。
―――映像が終わる頃、彼女の表情が少しだけ変わっていた。
カウンターに座る客たちは、食事を楽しみながらも、壁に掛けられた小型テレビに時折視線を投げていた。
画面には、ニュースキャスターの冷静な声が流れている。
「次は、都内の住宅地で発生した放火事件についてです。」
「被害者は政府の経済財政諮問会議の委員も務めた著名な経済学者、文久大学教授の松平尚子さんとその夫である定征さん、長男の定頼さんです。」
「三名とも火傷を負い、意識不明の重体。加害者は無職、佐藤 弘子容疑者 24歳。警察の調べによると、佐藤容疑者は松平教授のテレビの討論番組での主張に腹を立てて犯行を思いたったとのことで、容疑者の身勝手な主張にネット上では非難が……。」
店内の客たちは顔をしかめ、言葉少なに黙ってニュースを聞いていた。
陰鬱なニュースだったためか、店主は別のチャンネルに切り替えるが、やはり時間の関係でニュース番組が放送されていた。
「次は、大学教授宅放火事件についてです。佐藤容疑者の足跡を取材したところ、次のようなことが判明しました。」
そこで次のようなことが語られた。
―DV被害にあって息子と共に夫から逃げ出し、パートをしながら幼い息子を育てていたこと。
―1か月前職場を解雇され、生活保護の申請も断られたこと。
―10日前事故で息子を亡くし絶望のあまり、町中を彷徨っていたとこと。
―たまたま町中のテレビで見かけた討論番組での松平教授の貧困は自己責任との発言に、自分は運命に理不尽な目に合わされているにも関わらず、お前の努力が足りなかったと言われたようで怒りと悲しみが沸き、どうせ息子もなくなって生きる意味もなくなったのだから、刺し違えて自分も死のうと思ったため犯行をおこなったこと。
店内の空気は一層重くなった。
しかし、カウンターに座っている草臥れた服を着た老人二人の顔には、あざ笑
うかのような笑みを浮かべ、楽しそうにつぶやいた。
「努力だの。自己責任だの。言ってやがったのだから、これも「自己責任」だわな。」
「そうだわな~。しかし、火傷の後遺症はかなりキツイというぞ。多分人様の世話になると思うが……。なんとまあ、皮肉だね~。」
別の席にいた近くの工場の事務職と思われる上半身に作業着、下半身に黒い制服のようなスカートを着た若い女性は、老人の言葉に感心がないのか、何の反応もせずスマートフォンを弄っていた。
店主は作業の手を一瞬止めたが、やがて何事も無かったかのようにまた作業に戻った。
―やがて、このセンセーショナル事件は検察が無期懲役を求刑したこと、松平一家が重い障害を負ったものの一命を取り留めたことなどが報道された後、情状酌量の余地が認められ懲役20年の判決が確定した頃には、松平尚子の名も聞かれなくなっていった。―
冬の乾いた風はまだ強く、クリスマスイルミネーションで輝く町中を駆け抜
けていく。
―――映像が終わる頃、彼女の表情が少しだけ変わっていた。
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