召喚されたのは、最強の俺でした。~魔王の代理となって世界を支配します~

こへへい

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<三章:大切なモノを奪還せよ>

のんびり花見でもしましょうや

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 桜舞い散る中で食事をするというのは、とても乙なものだとは思う。レジャーシートでも持ってきたかったがそんなものは異世界にはなく、地べたに座って食を楽しむことになるだろう。

 しかし、その楽しく食というのが、なんだかイメージしづらかった。だって食糧難を救う種を植えた結果、でかい樹の実が実っただけかのだから。

 見た目的に、カカオ豆? あれかな、そういえば水ソムリエじゃなくても、この種そのものが副業の産物だと魔王が言っていたことを思い出した。そこで思いついたのが、蕎麦だ。蕎麦職人は水にもこだわると聞いたことがあるので、もしかしたらこれからクスノが蕎麦を打ってくれるのかもしれない。しかしそれならもう少し我慢が必要だと思った。そして蕎麦がこれからの主食になると思うとちょっと気が滅入ってしまいそうになった。その予想を表明してみたのだが。

「いえご心配なく、まずはこの実を手に取ってみてください。すぐに分かりますよ」

 やけに試すような言い草だ。だが試すというよりは、何が起こるのかは説明するよりも見てもらった方が早いというような感じだった。なので一つの実を手に取る。その実を取った瞬間、生まれたての卵のような、生暖かい感触があった。

 そこで、俺は閃く。そうか、これは、あれなんだな!?

 俺はこの実を見たことがあった。「見たことがあった」と断言すると、あたかも過去にこの異世界に足を踏み入れていた経験があるような伏線を張ってしまうので、今の内にその可能性をぶった切っておこう。どこで見たことがあるかと言われれば。
 
 金曜ロードショー。それも『ドラえもん のび太の大魔境』に登場するひみつ道具『植物改造エキス』である。
 注射器に込められたそのエキスを植物に注入することで、その植物が実らせる樹の実の中身がカレーライスやラーメンなどになるという、そういうひみつ道具である。

 思わずつばを飲み込んだ。確かに、備蓄とはいえ魔王城で食べた料理は美味かった。日本、いや地球で作られた食事というのは、基本的に色んな会社が食べ物を加工して、我々消費者の食卓に運ばれる。その過程では着色料だの保存料だの還元水あめだの果糖ぶどう糖液糖だの、余計なものが色々と盛り込まれていたが故に、それらは人体に悪影響を及ぼしていた。

 しかし、それでもラーメンやカレーライスは、旨い。この樹の実をパカッと開けばそれがあるのかもしれない。その期待が腹の虫をぐるるるる~と鳴らさせた。

 そして開く。俺は今日結構頑張った。だから大丈夫、今日一日くらいいっぱい食べたい! だってカレーライス大好きだもん!

 パカッと開いたが、中にカレーライスは入っていなかった。まぁ異世界だし、カレーライスとかは無いだろう。そうではなく。

「ええと、その」

 パカッと開いた樹の実が、まるで赤ん坊を入れたゆりかごを抱いている様な状態だなと思った。なので、丁寧にその樹の実を地面に置く。、樹の実から出た。そして手元の紙にペンの様なものを突き立てて、こちらを見上げた。ピンク色のアフロヘアーの上にちょこんと白いコック帽を載せた、小人の男が。
 ダンディな声を出す。

 
「……ご注文は?」


 ……ご注文? ご注文って何? 何か頼めばいいの? 頼めば何か出してくれるの? 逡巡しているとクスノが「さぁ早く、注文してください」と急かしてきた。メニューもないのに何を頼めばいいのか分からなかったので無理筋だと分かりつつ。

「か、カレーライスを」

 と注文した。さっき異世界だしカレーライスとか無いだろうとは思っていたのだが「カレーライスですね、ご注文、承りました」と小人はさも知っているかのように返事をし、踵を返して立ち去った。忍者かよって思うようなスピードで。

 なんか思ってたのと違う。

「ちょ、どっか行っちゃったけど」

 クスノにクレームのように言うが「ご心配なく、すぐに来ます」と落ち着いていた。
 束の間、本当にすぐに戻ってきた。恐ろしいほど速い。その小人の手には、袋に入った米や樹の実、何かの肉などが提げられている。買い物でもしてきたのだろうか? スピード決済にも程がある。

 小人は淡々と、まず米を研いで炊飯し(キャンプでご飯を炊くための飯盒も持ってきていた)、火は木を猛スピードで擦ることによる摩擦熱を発し(そこは魔法じゃねーのかよ)、何処かから取り出した出刃包丁で豚を鮮やかに捌き、フライパンで加熱。油はオリーブのような実を絞って抽出していた。

 その洗練された手さばきに、思わず見惚れてしまった。俺も料理は普段から良くするし、高い料亭とかの調理技術をパクっては試すことで、そんじょそこらの三ツ星レストランとは並ぶ技術がある自負はあるくらいには、極めたつもりだった。しかし、こいつには敵わないと思わされるほど、否、もう現実の世界に戻ったら是非とも専属のコックになって欲しいと思うほど、彼の動きには無駄がなかった。

 そして、あっという間に出来上がる。木の皿に盛られた、スパイス香るカレーライスが。ちなみにスプーンも木である。

「カレーライスでございます。ご賞味あれ」

 一口入れる。

「旨い!」

 もう、言葉は要らない。この旨いものを旨いと感じられるこの瞬間をできるだけ感じられるように、味わう。

 ぎゅるるるむぎょろろろろ~。

 人が舌鼓で幽玄ノ乱をフルコンボしているというのに、横から腹で無粋なBGMを鳴らす、よだれを垂らした神官の女子がいた。

「おいひほ~」

「これは俺のだ」

「やだ! 一口だけでいいから!」

 黒いテーブルクロス1枚をまとう彼女が、四つん這いで迫りよる。こいつ、もはや獣だ。飯を食うことしか考えてねぇ、色気もなく食欲のみが原動力になっていた。

「はぁ、分かったよ、ほら一口」

「ガブ!」

 差し出したスプーンの一口を無視し、皿のカレーライスにかぶりついた。「おわぁ!」と我ながら情けない声をあげ、その予想外の動きに思わず皿から離れる。そして眼下には、もっと情けなく皿にガツガツとカレーライスを貪る神官の女子がいた。

「おい! まだ一口しか食べてねぇんだよ!」

「うーはい! おいひーんらもん!」

 駄目だ聞きやしねぇ。大人しく、大人として別の注文をしようとする。小人に振り向くと、しかし小人は樹の実の中に戻ろうとしていた。

「おいちょっと、追加注文したいんだけど」

 しかし聞かず、ヴァンパイアが棺に入るように、樹の実の中に入った状態で自ら樹の実に蓋をする。そして樹の実はカラカラと枯れていってしまった。うっそぉ。
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