魔女はいまわの際に夢をみる

砂田透

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第25話 僕はお茶じゃありません!

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「飛行船に乗って帰れば良かったのに」

 お土産の王都まんじゅうを温かいお茶で飲み込みながら、赤髪の少女が言う。

「せっかく沢山報酬をゲットしたんだからさ」

 それなら数日掛けて楽しめたのに、と二つ目のおまんじゅうを口に運んだ。

「それなりの苦労と好意で得た報酬なんだから、楽したいってだけで使わないよ!」

 賞味期限の短い物を選んでしまったのは僕のミスだ。それは申し訳ない。

「ちょっとは考えたけど……でも帰りの七日間だって有意義に過ごせたから」

 三谷さんご夫婦とは、十七日ぶりに戻ってきたギルドの前で別れた。
 帰り道ではお二人に連携戦について教えてもらっただけでなく、夜のプチ討伐では実践まで付き合ってくださった。
 王都での四日間について話したり、お二人の冒険譚を聞いたり。街に着くのが惜しいくらいに楽しい時間だった。

 帰りは王都で仕入れた品物や素材を店に届けて降ろすまでが依頼内容だったが、今度こそ報酬はお断りした。
 道中の討伐報酬や素材を受け取り拒否されてしまったので、僕も頑として譲らなかったのだ。

「良い経験になったなら良かったよ」

 三つ目も早々に飲み込み、再度お茶をすすっている。期限が遠くても消費スピードは変わらないのではないだろうか?

「コインの獲得方法も分かったし、これでダンジョンの奥まで行けるね」

 陽葵にはショップやコインの事を話しているので、今回の経緯も事細かに伝えた。ドリアンの件ではお腹を抱えて笑っていたので、今度食べてもらおうと決意する。

「ぴぃ……」

 僕の考えていることが分かったのか、先輩が小さく首を振る。止めてくれるな。男には引けない時もあるんだ。
 ちなみに、ギルド長にもショップの事は報告してあるが、「へぇ、そんなもんがあるのか便利だな」と棒読みで返されただけだった。

「陽葵はどうだったの、今回の依頼」

 僕よりも数日早く帰っていたが、王都目前のやり取り以来お互いに連絡を取っていなかった。

「それがさぁ」

 四つ……いや、五つ目か? のおまんじゅうの袋を破りながら話し出す。
 あの通話の後もオークキングの大量発生は続き、結局十三日間も討伐し続けたらしい。
 同時に召集されていた他のAランク冒険者が根を上げ始めた頃、ようやっと収まったらしい。
 発生場所は森の奥深くだったが、その討伐の影響で木々が無くなり巨大な広場になってしまったそうだ。強い人たちが集まって戦闘するのだから、その影響は計り知れない……。

「一旦解散にはなったけど、原因不明だからまたすぐお呼びがかかるかも~」
「大変だね……。でも、そんなに沢山討伐したら報酬もすごそう」

 Cランクの鉱物大鹿の素材だけであの金額になったのだ。Bランクのモンスターを何千と倒した報酬など、驚きで寝込んでしまいそうだ。

「んー、日当四万だから大したこと無いよ」
「嘘でしょ!?」

 十三日で五十二万。僕のダイヤモンドの依頼とほぼ同額じゃないか。

「オークは素材としての価値はあまりないし、討伐メインの報酬なんてそんなものだよ」

 曰く、素材はそれ自体に価値があるため高値が付くが、被害を出さないための討伐依頼は得る物がある訳ではないため報酬は最低限になる。
 ほぼボランティアだそう。

「陽葵って討伐依頼ばかり受けてたよね?」
「お金は自分とここの子たちが美味しい物食べられる分だけあったら良いからね」

 陽葵は稼いだお金を施設に直接振り込むことも多い。金額ばかり気にしている自分が恥ずかしくなる。

「それに、採取って苦手だし……」
「確かに」

 何かと豪快な彼女は解体も大雑把で、それに関しては僕の方が上手いくらいだ。

「強いのと戦う方が好きなんだよね」

 あぁ、それが本音な気がする。欲がないというより、戦闘欲が強いのか。
 こんなことも今更知るなんて。

 ―考えて、疑問を持って、調べて、聞いて、自分から進む努力をしなさい

 茉莉花の言っていたことを改めて思い出す。

「でも陽葵姉ちゃんさ、たまにすっげぇ報酬もらってくるよな」
「かず!? いつからいたの?」

 夜の食堂。
 陽葵と二人だけだと思ってショップの事を話していたが、もしや聞かれて……。

「太陽の『嘘だろ!?』辺りかなぁ」

 トイレに起きたら明かりがついてたから、と言って、おまんじゅうに手を伸ばす。
おかみさんに知られたら怒られそうだが、自分たちが(主に陽葵だが)食べているのに、子供は駄目だなんて言えない。

「たまにね。超簡単な内容なのに指名されて、しかも報酬が怖いくらい多いって依頼主はいるね」
「陽葵ちゃんはファンが沢山なのよ」

 続いて出てきたのは梓。

「かっこいいもんなぁ」

 続いて拓哉。

「可愛いしね」

 そしてハル。
 皆寝ていなかったのか。気が付けば四人とも席に着き、おまんじゅうに手を伸ばしている。結構な量を買ってきたつもりだったが、あっという間になくなりそうだ。

「「「「太陽、お茶~」」」」
「僕はお茶じゃありません!」

 小学校の先生が言いそうなセリフを吐きながら、お望み通りお茶の準備をする。ついでに陽葵と自分のコップにも継ぎ足す。

「でも……ファンなら良いけど、ストーカーだと心配よね……」

 ハルが心配そうに呟く。実際、見目の良い冒険者が金持ちの依頼主に執着されて困っている話もあるそうだ。大抵の場合はギルドが間に入りいさめてくれるらしいが、質が悪いと悪質な冒険者を雇って拉致することもあるらしい。

「でも、陽葵のストーカーだと相手の方が心配だよな……あ」

 つい思ったことを言ってしまい慌てて訂正しようとするが、先に他の男子二人も続いてしまった。

「確かに。陽葵に吹っ飛ばされてるのが想像できる……」
「姉ちゃん最恐だもんな! ストーカーのお見舞いしなきゃ」

 翌朝、施設の扉の前に一人の少年が転がっていた。
 頭に大きなこぶを作り、布団で簀巻きにされているその少年は、「なんで僕だけ……」と泣いていたそうだ。
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