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第十三話 微妙な空気
駅に到着し、牧田さんが車から降りた。少し歩くともう一度こちらを振り返り、僕たちに向かってブンブン手を振ってくれた。
にいちゃんが窓を開けて控えめに手を振り返す。すると牧田さんは、満面の笑みを浮かべてから駅の中に入っていった。
その後ろ姿を見ながら、にいちゃんは優しく微笑んだ。
「ふふ。美雨ちゃんって可愛いね」
僕はにいちゃんの言葉に同意せず、フンッと鼻を鳴らした。
にいちゃんが窓を閉めて車を発進させる。次に、ルームミラーで後部席に座る僕をチラリと見つめた。
「りっくん。このまま帰るのもなんだし、ドライブでもしていこうか?」
「……。やだ。おうち帰る」
「えー。隣町にあるジェラート屋さんに行こうよ。りっくん、チョコミント好きだろう?」
「やだ。食べたくない。おうち帰る」
「えー……」
にいちゃんがもう一度、ルームミラー越しに僕の顔を見つめた。目が合ったのでプンプンしながら睨み返す。
「りっくん。何怒ってるの?」
「怒ってないもん」
「怒ってるじゃん。ドーナツ食べてる時も不機嫌だったし」
「……」
にいちゃん……、気付いてたんだ……。
牧田さんも気が付いていたのかな? なるべく顔には出さないようにしてたんだけどな……。もし牧田さんも気付いていたら、不快に思っただろう。
どうしよう。牧田さんに悪いことしちゃったな。
僕は反省してしょんぼりとうつむいた。
「……だってにいちゃんが、牧田さんのこと名前で呼ぶから……」
「え?」
小さな声で話したので、にいちゃんには聞こえなかったようだ。
聞こえなくて良かった。こんな些細なことで不機嫌になったと知ったら、さすがのにいちゃんも呆れてしまうだろう。
「……。なんでもない」
なんで二人が名前で呼び合うのが、こんなに嫌なんだろう? 僕と違い二人は陽キャなんだ。名前で呼び合ったとしても、特に深い意味はないはずなのに。
それなのに僕は、ずっとそのことを不快に思いながらネチネチ考えてしまう……。
僕って性格悪いなぁ……。
自己嫌悪に陥っていたら、にいちゃんが再び話しかけきた。
「……りっくんさぁ、俺が美雨ちゃんと話すのが気に入らないんだろ。だから不機嫌になったんだ」
「……!」
図星を刺されて僕は動揺した。
キョロキョロと目を彷徨わせて、『ち、違うもん……!』と否定する。
そんな僕の表情を、にいちゃんはミラー越しにじぃっと見ていた。
「……むかつく……」
にいちゃんがぽそりとつぶやいた。
その言葉を聞いて、僕はビクッと体を震わせた。
え? え? なんでにいちゃんが腹を立てているんだろう? むかつくなんて、初めて言われた。
「りっくん子供っぽい」
「!」
僕はその言葉にカチンときた。
確かに子供っぽいかもしれない。だって僕は、牧田さんににいちゃんを取られたような気がしたから不機嫌になったのだ。
でもでも! しょうがないじゃないか!
だってにいちゃんを取られたくないんだもん! にいちゃんは、牧田さんのにいちゃんじゃないんだ! にいちゃんは、僕だけのにいちゃんなんだ!
その言葉をありのままにいちゃんにぶち撒けてやろうかと思ったが、流石に『りっくんブラコンじゃん。キモすぎ』と言われそうな気がしたので言えなかった。
でも、子供っぽいと言われてこのまま引き下がるのは癪だったので、僕は反撃した。
「どうせ僕は子供だよ! でも、にいちゃんはおっさんだよね! おっさんがピチピチの女子高生にデレデレ鼻の下伸ばしてて、見てるこっちが恥ずかしくなったよ!」
「お、おっさん……」
運転席に座るにいちゃんの声が震えていて、めちゃくちゃ傷付いてるのが分かった。
言ってしまったあと、僕は『わぁーー! 言い過ぎてしまったぁ!!』と焦った。
にいちゃんはどう見てもおっさんじゃないよね!! と言うか、大学生なんか社会に生きる人々から見ればまだまだひよっこだよね!? にいちゃんごめん……!!
僕が心の中で大反省していたら、にいちゃんが震える声でつぶやいた。
「り……、りっくんから見て、にいちゃんはおっさんだったんだね……」
「……ご、ごめん。言い過ぎた」
「いや、いいんだ……。それがりっくんの本音だって分かったから……」
「そ、そんなことないよ……」
にいちゃんは、『はは。まいったな……』と力無く笑い、その後は無言で自宅まで車を走らせた。
家に着くと、僕はなんだか気まずくてすぐに二階の自分の部屋に引っ込んでしまった。
夕飯の時間になったので恐る恐るリビングに行くと、にいちゃんはちゃんと僕の分の夕飯を作ってくれていた。いただきますと言って食べ始める。
だが、会話ははずまない。
にいちゃんは明らかに元気がなかった。だけど僕も子供っぽいと言われたことを根に持っていたので、なかなか素直に謝れなかった。
結局会話がはずまないままお風呂に入り、寝る支度を始める。おやすみと言って自分の部屋に行きベッドに入る。
あー……どうしよう。
明日もこんな空気だったらやだなぁ……。
僕はブルブル首を振って気分を変えた。
いや! 大丈夫だ!
一晩経ったらみんな忘れていつも通りの仲良し兄弟に戻るはず!
そんな期待を込めて、僕は明日になるのを待ったのだった。
にいちゃんが窓を開けて控えめに手を振り返す。すると牧田さんは、満面の笑みを浮かべてから駅の中に入っていった。
その後ろ姿を見ながら、にいちゃんは優しく微笑んだ。
「ふふ。美雨ちゃんって可愛いね」
僕はにいちゃんの言葉に同意せず、フンッと鼻を鳴らした。
にいちゃんが窓を閉めて車を発進させる。次に、ルームミラーで後部席に座る僕をチラリと見つめた。
「りっくん。このまま帰るのもなんだし、ドライブでもしていこうか?」
「……。やだ。おうち帰る」
「えー。隣町にあるジェラート屋さんに行こうよ。りっくん、チョコミント好きだろう?」
「やだ。食べたくない。おうち帰る」
「えー……」
にいちゃんがもう一度、ルームミラー越しに僕の顔を見つめた。目が合ったのでプンプンしながら睨み返す。
「りっくん。何怒ってるの?」
「怒ってないもん」
「怒ってるじゃん。ドーナツ食べてる時も不機嫌だったし」
「……」
にいちゃん……、気付いてたんだ……。
牧田さんも気が付いていたのかな? なるべく顔には出さないようにしてたんだけどな……。もし牧田さんも気付いていたら、不快に思っただろう。
どうしよう。牧田さんに悪いことしちゃったな。
僕は反省してしょんぼりとうつむいた。
「……だってにいちゃんが、牧田さんのこと名前で呼ぶから……」
「え?」
小さな声で話したので、にいちゃんには聞こえなかったようだ。
聞こえなくて良かった。こんな些細なことで不機嫌になったと知ったら、さすがのにいちゃんも呆れてしまうだろう。
「……。なんでもない」
なんで二人が名前で呼び合うのが、こんなに嫌なんだろう? 僕と違い二人は陽キャなんだ。名前で呼び合ったとしても、特に深い意味はないはずなのに。
それなのに僕は、ずっとそのことを不快に思いながらネチネチ考えてしまう……。
僕って性格悪いなぁ……。
自己嫌悪に陥っていたら、にいちゃんが再び話しかけきた。
「……りっくんさぁ、俺が美雨ちゃんと話すのが気に入らないんだろ。だから不機嫌になったんだ」
「……!」
図星を刺されて僕は動揺した。
キョロキョロと目を彷徨わせて、『ち、違うもん……!』と否定する。
そんな僕の表情を、にいちゃんはミラー越しにじぃっと見ていた。
「……むかつく……」
にいちゃんがぽそりとつぶやいた。
その言葉を聞いて、僕はビクッと体を震わせた。
え? え? なんでにいちゃんが腹を立てているんだろう? むかつくなんて、初めて言われた。
「りっくん子供っぽい」
「!」
僕はその言葉にカチンときた。
確かに子供っぽいかもしれない。だって僕は、牧田さんににいちゃんを取られたような気がしたから不機嫌になったのだ。
でもでも! しょうがないじゃないか!
だってにいちゃんを取られたくないんだもん! にいちゃんは、牧田さんのにいちゃんじゃないんだ! にいちゃんは、僕だけのにいちゃんなんだ!
その言葉をありのままにいちゃんにぶち撒けてやろうかと思ったが、流石に『りっくんブラコンじゃん。キモすぎ』と言われそうな気がしたので言えなかった。
でも、子供っぽいと言われてこのまま引き下がるのは癪だったので、僕は反撃した。
「どうせ僕は子供だよ! でも、にいちゃんはおっさんだよね! おっさんがピチピチの女子高生にデレデレ鼻の下伸ばしてて、見てるこっちが恥ずかしくなったよ!」
「お、おっさん……」
運転席に座るにいちゃんの声が震えていて、めちゃくちゃ傷付いてるのが分かった。
言ってしまったあと、僕は『わぁーー! 言い過ぎてしまったぁ!!』と焦った。
にいちゃんはどう見てもおっさんじゃないよね!! と言うか、大学生なんか社会に生きる人々から見ればまだまだひよっこだよね!? にいちゃんごめん……!!
僕が心の中で大反省していたら、にいちゃんが震える声でつぶやいた。
「り……、りっくんから見て、にいちゃんはおっさんだったんだね……」
「……ご、ごめん。言い過ぎた」
「いや、いいんだ……。それがりっくんの本音だって分かったから……」
「そ、そんなことないよ……」
にいちゃんは、『はは。まいったな……』と力無く笑い、その後は無言で自宅まで車を走らせた。
家に着くと、僕はなんだか気まずくてすぐに二階の自分の部屋に引っ込んでしまった。
夕飯の時間になったので恐る恐るリビングに行くと、にいちゃんはちゃんと僕の分の夕飯を作ってくれていた。いただきますと言って食べ始める。
だが、会話ははずまない。
にいちゃんは明らかに元気がなかった。だけど僕も子供っぽいと言われたことを根に持っていたので、なかなか素直に謝れなかった。
結局会話がはずまないままお風呂に入り、寝る支度を始める。おやすみと言って自分の部屋に行きベッドに入る。
あー……どうしよう。
明日もこんな空気だったらやだなぁ……。
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そんな期待を込めて、僕は明日になるのを待ったのだった。
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