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第一話 異界へと続く扉
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私は魔界を統べる魔王だ。
だが、豚とコウモリを混ぜ合わせたようなみにくい顔をしている。
私は魔王なので、面と向かってみにくいと罵る者はいない。だが、陰ではバケモノ魔王と呼ばれていることを知っている。
鏡を見るたびに死んでしまいたい気分になる。そしてこう思うのだ……。
――人間さえ……人間さえいれば……!
実はこの顔のみにくさには訳があるのだ。
私はインキュバスだ。インキュバスは人間の生気を性行為によって食する。だが、この国には人間がいないのだ。そのため魔族と性行為をして生気を食べる。だが、やはり魔族では波長が合わないのかうまく吸収できず、人型になれないのだ。人型になれないのなら、獣型でいるしかない。
つまり、今の姿はインキュバスの獣型の姿なのだ。
こんなみにくい姿で魔王などやりたくない。
私は自分の顔に悲観して、いつも魔王城に閉じこもっていた。
そんな私を気の毒に思っていたのが側近のミストだ。
ミストは私の顔をなんとかしてやりたいと思い、古い魔導書を読み漁った。
それで気付いたのだ。
魔界に人間がいないのなら、人間界から連れてくればいいのではないか――と。
それからミストは召喚についての魔導書を読み漁った。そしてついに目的の本を見つけたのだ。
ミストはその本を隅から隅までまで熟読した。それから召喚のやり方を理解し、更には極め、嬉々として私の前に跪いた。
「魔王様。これから人間を召喚します」
「召喚……。そんなことが出来るのか?」
「はい。方法は頭に入っています。人間を召喚し、魔王様に献上します。魔王様はその者の生気を食してください。そうすれば、魔王様は人型になれます。人型になれれば、魔王様の憂いも晴れるでしょう」
「……そうか。ならば、やってみよ」
「はっ!」
ミストは立ち上がり、私に背を向けた。
それからなにやら呪文のようなものを唱える。すると、ミストの目の前に重厚な扉が出現した。
私たちのやり取りを見ていた部下たちが、「おぉっ!」と感嘆の声を上げる。
「この扉は人間界に繋がっています。今から私がこの扉の向こうに行き、人間を攫って参ります」
人間を攫うなど、悪いことだ。だが、藁にもすがる思いだった私は、その行動を止めることは出来なかった。
「分かった……。あまり手荒なことはするなよ?」
「御意!」
そんな言葉と共に、ミストは扉を開こうとした。
だが、ミストが開く前に、ギィって音を立てて扉が開いたのだ。
どうやらこちらから出向く前に、人間が先に扉を見つけて開けてしまったようなのだ。
扉から出てきたのは人間の男だった。
男は黒い短髪に黒い瞳の背の高い男だ。目鼻立ちがハッキリしていて、女にモテそうな容姿をしていた。
私たちはこの異常事態に息を呑んだ。
男はなぜかパンツ一丁だ。こちらに気が付き目を丸くする。
「あれ? 便所どこ?」
キョロキョロ辺りを見回して、私と目が合う。すると、男はギョッとして後ろに飛び退いた。
「うぉー!! バケモノがいる! なんだここ!? 俺は便所行こうと思っただけなのに! これは夢か!?」
男の声にハッと我に返った部下たちは、急いで男を羽交締めにする。
「なんだテメーら! 離せよ!」
暴れる男の前に、ミストが急いで駆け寄る。
「落ち着いてください。どうか私たちの話を聞いてください!」
「誰だテメーは!」
「私は魔王様の側近のミストと申します。それと、混乱するといけないので先に申しておきますが、ここは魔界です」
「はぁ!?」
「あなたにお願いがあってここにお呼びしました」
「お願い!?」
暴れても拘束が解けないと悟った男は、諦めて動きを止めた。それからキッとミストを睨む。
「俺の命の保証はあるのか?」
「もちろんです。あなたには傷一つつけません」
「じゃあ……まぁ、聞いてやる」
ほぉ。肝の据わった男だな。私なら混乱して叫び出しそうになるだろう。
それからミストはなぜ男を魔界に呼んだのか説明した。
男はふむふむとうなずく。
「つまり、そこのバケモノに人間の生気を与えたいのか」
物分かりが良い。地頭がいいのだろう。
そんなことを思っていたら、男と目が合った。私は慌てて目を逸らす。こんなみにくいバケモノに見つめられたら不快に感じると思ったからだ。
そんな私と男を交互に見ながら、ミストはうなずいた。
「そうでございます」
絶対断るだろうな……と私は思った。
なぜなら生気を与えると言うことは、性行為をすることを意味するからだ。
この男は、こんなみにくい私を抱いてくれるわけがない。
こんなバケモノ気持ち悪い! と罵られるだけだ。
答えを聞くのが怖くて、私はうつむいた。
だが、男は予想外の言葉を口にした。
「別にいいぜ」
「!?」
私はうつむいていた顔を上げ、驚愕の眼差しで男を見つめた。
「ただし、褒美はたんまりくれるんだろうなぁ?」
男はゲヘゲヘ下劣な笑みを浮かべながら、そんなことを言った。
ミストもまさか了承するとは思わず呆然としていたが、ハッと我に返りコクコクとうなずいた。
「もちろんです! なにがお望みですか?」
「金!……と言いたいところだけど、魔界の金なんか貰ってもただの紙切れだ。宝石だ! 宝石をよこせ!! 山のような宝石を所望する!」
そんなものでいいのか……? 男を除く一同は驚愕した。
「いいでしょう。山のような宝石をご用意します! それならば、このみにくい……じゃなくて個性的なお顔をした魔王様を抱いてくださるのですね?」
「いいぞー。そいつオスだよな? オスはケツの穴使うんだろ? 余裕余裕!」
なんという男気のある男だ。
魔界の屈強な兵士ですら、私を抱くのは嫌がるのに。
私は感動して、涙をこぼしそうになるのを必死にこらえたのだった。
だが、豚とコウモリを混ぜ合わせたようなみにくい顔をしている。
私は魔王なので、面と向かってみにくいと罵る者はいない。だが、陰ではバケモノ魔王と呼ばれていることを知っている。
鏡を見るたびに死んでしまいたい気分になる。そしてこう思うのだ……。
――人間さえ……人間さえいれば……!
実はこの顔のみにくさには訳があるのだ。
私はインキュバスだ。インキュバスは人間の生気を性行為によって食する。だが、この国には人間がいないのだ。そのため魔族と性行為をして生気を食べる。だが、やはり魔族では波長が合わないのかうまく吸収できず、人型になれないのだ。人型になれないのなら、獣型でいるしかない。
つまり、今の姿はインキュバスの獣型の姿なのだ。
こんなみにくい姿で魔王などやりたくない。
私は自分の顔に悲観して、いつも魔王城に閉じこもっていた。
そんな私を気の毒に思っていたのが側近のミストだ。
ミストは私の顔をなんとかしてやりたいと思い、古い魔導書を読み漁った。
それで気付いたのだ。
魔界に人間がいないのなら、人間界から連れてくればいいのではないか――と。
それからミストは召喚についての魔導書を読み漁った。そしてついに目的の本を見つけたのだ。
ミストはその本を隅から隅までまで熟読した。それから召喚のやり方を理解し、更には極め、嬉々として私の前に跪いた。
「魔王様。これから人間を召喚します」
「召喚……。そんなことが出来るのか?」
「はい。方法は頭に入っています。人間を召喚し、魔王様に献上します。魔王様はその者の生気を食してください。そうすれば、魔王様は人型になれます。人型になれれば、魔王様の憂いも晴れるでしょう」
「……そうか。ならば、やってみよ」
「はっ!」
ミストは立ち上がり、私に背を向けた。
それからなにやら呪文のようなものを唱える。すると、ミストの目の前に重厚な扉が出現した。
私たちのやり取りを見ていた部下たちが、「おぉっ!」と感嘆の声を上げる。
「この扉は人間界に繋がっています。今から私がこの扉の向こうに行き、人間を攫って参ります」
人間を攫うなど、悪いことだ。だが、藁にもすがる思いだった私は、その行動を止めることは出来なかった。
「分かった……。あまり手荒なことはするなよ?」
「御意!」
そんな言葉と共に、ミストは扉を開こうとした。
だが、ミストが開く前に、ギィって音を立てて扉が開いたのだ。
どうやらこちらから出向く前に、人間が先に扉を見つけて開けてしまったようなのだ。
扉から出てきたのは人間の男だった。
男は黒い短髪に黒い瞳の背の高い男だ。目鼻立ちがハッキリしていて、女にモテそうな容姿をしていた。
私たちはこの異常事態に息を呑んだ。
男はなぜかパンツ一丁だ。こちらに気が付き目を丸くする。
「あれ? 便所どこ?」
キョロキョロ辺りを見回して、私と目が合う。すると、男はギョッとして後ろに飛び退いた。
「うぉー!! バケモノがいる! なんだここ!? 俺は便所行こうと思っただけなのに! これは夢か!?」
男の声にハッと我に返った部下たちは、急いで男を羽交締めにする。
「なんだテメーら! 離せよ!」
暴れる男の前に、ミストが急いで駆け寄る。
「落ち着いてください。どうか私たちの話を聞いてください!」
「誰だテメーは!」
「私は魔王様の側近のミストと申します。それと、混乱するといけないので先に申しておきますが、ここは魔界です」
「はぁ!?」
「あなたにお願いがあってここにお呼びしました」
「お願い!?」
暴れても拘束が解けないと悟った男は、諦めて動きを止めた。それからキッとミストを睨む。
「俺の命の保証はあるのか?」
「もちろんです。あなたには傷一つつけません」
「じゃあ……まぁ、聞いてやる」
ほぉ。肝の据わった男だな。私なら混乱して叫び出しそうになるだろう。
それからミストはなぜ男を魔界に呼んだのか説明した。
男はふむふむとうなずく。
「つまり、そこのバケモノに人間の生気を与えたいのか」
物分かりが良い。地頭がいいのだろう。
そんなことを思っていたら、男と目が合った。私は慌てて目を逸らす。こんなみにくいバケモノに見つめられたら不快に感じると思ったからだ。
そんな私と男を交互に見ながら、ミストはうなずいた。
「そうでございます」
絶対断るだろうな……と私は思った。
なぜなら生気を与えると言うことは、性行為をすることを意味するからだ。
この男は、こんなみにくい私を抱いてくれるわけがない。
こんなバケモノ気持ち悪い! と罵られるだけだ。
答えを聞くのが怖くて、私はうつむいた。
だが、男は予想外の言葉を口にした。
「別にいいぜ」
「!?」
私はうつむいていた顔を上げ、驚愕の眼差しで男を見つめた。
「ただし、褒美はたんまりくれるんだろうなぁ?」
男はゲヘゲヘ下劣な笑みを浮かべながら、そんなことを言った。
ミストもまさか了承するとは思わず呆然としていたが、ハッと我に返りコクコクとうなずいた。
「もちろんです! なにがお望みですか?」
「金!……と言いたいところだけど、魔界の金なんか貰ってもただの紙切れだ。宝石だ! 宝石をよこせ!! 山のような宝石を所望する!」
そんなものでいいのか……? 男を除く一同は驚愕した。
「いいでしょう。山のような宝石をご用意します! それならば、このみにくい……じゃなくて個性的なお顔をした魔王様を抱いてくださるのですね?」
「いいぞー。そいつオスだよな? オスはケツの穴使うんだろ? 余裕余裕!」
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