大好きな親友に嫌いって言われた。もう生きるのがツライ

チョロケロ

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第三話 理由

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 家の呼び鈴を鳴らしても、なかなかユーベラスは出てこなかった。
 いないのかな? 帰った方がいいかなと思い始めた頃、やっとドアが開いた。
 中から出て来たユーベラスを見て、僕は絶句した。

 なぜならユーベラスは、げっそりと痩せこけていたからだ。

 一カ月前と全然違う。
 ユーベラスの身になにがあったのだろう?
 僕は慌ててユーベラスに駆け寄る。

「ユーベラス! どうしたの!? 体調が悪そうだよ!?」
「ペトロ……」

 ユーベラスは僕の名前をポツリとつぶやくと、ゆっくりと目を伏せた。

「ここ一カ月……血を飲んでいないから空腹なんだ……」
「!?」

 吸血鬼の食料は血液だ。
 その血を一カ月も飲んでいないって!?
 大変じゃないか!! このままではユーベラスが餓死してしまう!!
 僕は考えるより先に口が開いた。

「じゃあ僕の血を飲んで! このままじゃユーベラスが死んじゃうよ!」
「……」

 ユーベラスは苦しそうな表情をしながら、『いらない』と言った。

「なんで!? 大嫌いな僕の血は飲みたくないの!? そんなこと言ってる場合じゃないだろう!? いいから僕の血を飲んでよ!!」

 ユーベラスの痩せこけた頰と、真っ青な顔色を見ていたら涙が出てきた。
 僕は泣きながら、必死にユーベラスを説得しようとする。
 すると、ユーベラスが絞り出すような声を上げた。

「……だって、このまま生きていても仕方がないんだ。どう頑張ったって、ペトロは私を置いてゆくのだから……」

 ユーベラスの言葉の意味が分からなくて、僕は首をかしげた。
 
「どういうこと?」
「……。お前は人間だ。すぐに死ぬ。だが、私は吸血鬼だ。これから先何百年も生きる。いつまで経っても死ぬことは出来ない。お前のいない世界でずっと生き続けなければいけないのだ……」
「……」
 
 ユーベラスの言葉を聞いて、僕は絶句した。
 つまりユーベラスは、僕のせいで血を飲まなくなったってこと?
 僕が人間だから……。ユーベラスより先に死ぬから……。
 でも、僕はまだ若い。
 死ぬのはこの先何十年もあとだ。
 そんな先のことを悲観して餓死しようとするなんておかしいよ。

「ユーベラス。大丈夫だよ。僕はまだまだ生きるから」

 僕の言葉を聞いたユーベラスは、険しい表情をして叫んだ。

「人間の寿命など儚いものだ!! そんなことを言ってもすぐに死んでしまう!」
「ユーベラス……」

 ユーベラスは美しい顔を歪ませて、ポロポロと涙をこぼした。
 
「ペトロ……。私は浅ましい。私がなぜお前を遠ざけたか分かるか? それはな、お前と別れるのが辛いから、私はお前を眷属けんぞくにしてしまおうと思ったんだ。お前に私の血を飲ませ、吸血鬼にしてしまおうと考えたんだ」
「!!」
 
 僕は息を呑んだ。
 ユーベラスは、僕を吸血鬼にしようとしたのか?
 僕と離れるのが寂しいから……。僕が死ぬのが怖いから……。
 でも、それじゃあいけないと思い直して僕を遠ざけたんだ。
 だからあの日、僕のことが嫌いだと言ったんだ。
 じゃあユーベラスは、僕のことが嫌いじゃないの?
 ユーベラスの言葉を聞いて、僕はほんの少し嬉しくなった。だが、それ以上に苦しくなった。
 なぜかと言うと、一人ぼっちになってしまうユーベラスが可哀想で仕方がなかったのだ。
 ユーベラスを悲しませるくらいだったら僕が……。
 僕はよく考えもせずに、今の感情だけで口を開いた。

「僕、吸血鬼になってもいいよ……」
「!!」
「ユーベラスを一人にしたら可哀想だもん。いいよ。僕にユーベラスの血を頂戴」
「ペトロ……」
 
 ユーベラスは目をつむり、静かに涙を流した。
 そんなユーベラスを、僕は黙って見つめる。
 しばらく僕たちの間に、痛いほどの沈黙が流れたのだった。
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