魔王様、ずっと記憶喪失のままでいてください

チョロケロ

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最終話 幸せな朝と最後の別れ

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 頭が痛い。なぜ痛いんだっけ?
 ああ、そんなことよりもう朝だ。起きなければ……。

 私は思いまぶたをこじ開けて目を開けた。
 すると、いつもと違う景色が目に飛び込んでくる。
 むくりと起き上がりここはどこだ……? と頭を悩ませていた。
 すると、すぐ近くから声が聞こえた。

「なんだ。もう起きたのか」
「!?」

 声の方を見ると、優しく微笑んだ魔王が立っていた。

「な、なぜここに魔王様が……?」
「なぜって……。ここは俺の部屋だぞ?」
「!!」

 その言葉を聞いて、昨日の記憶が一気によみがえってきた。
 そ、そうだ!
 私は昨日魔王と飲んでいたのだ。それから酔っ払って魔王がキス魔だと言うことが判明して、それから……それから……!
 瞬時に私の頰が熱くなった。きっと今の私は、魔王から見たらリンゴのように真っ赤だろう。
 と、とりあえず謝ろう!
 私はベッドの上で魔王に土下座し、ぺこぺこ謝った。

「魔王様! 昨夜の数々の非礼、申し訳ございませんでした!」
「……。なぜお前が謝る」

 なぜって……。
 だって魔王を誘惑して無理矢理身体を繋げたから。
 ――ん? 無理矢理繋げたか?
 どちらかと言えば、魔王の方が積極的に私に触れていなかったか? キスをしたのも魔王から。セックスしようとベッドに運んだのも魔王から。
 なんだ……。私はなにも悪くないではないか。
 なぜ謝ってしまったのだろう。どうせなら、怒れば良かった。
 これから怒ってもいいだろうか? 恐る恐る魔王の顔色を窺う。すると、困ったように笑っていたので自信がついた。
 無表情だったら怖いから黙ろうと思ったが、これなら怒れる!
 私は意気揚揚と怒鳴った。

「魔王! 私を傷モノにしたな!? この責任をどう取るつもりだ!?」

 私の言葉に、魔王はぷっと噴き出した。

「そうだ。そう言えばいいのだ。謝るから困惑したぞ? それでこそお前だ」

 これで良かったのか。怒られなくて良かったぁと内心ホッとしつつ、攻めの手をゆるめない。

「笑いごとじゃないのだ! お前! 私は婚約者がいる身なのだぞ!? 婚約前にこんなことをしたら、浮気だ! お前のせいで婚約を破棄されたらどうする!?」
「あはは。婚約など、とっくに無かったことにされているではないか」
「なにがおかしいのだ! 私の純潔を奪いおって! 許さんぞ! 絶対に許さん!!」

 本当は私も今更婚約のことを切り出しても遅いと思ったのだが、言わずにはいられなかったのだ。
 とにかく魔王は私の処女(?)を奪った。きっちり責任を取ってもらわねば!
 私は威嚇した虎のようにガルルと唸った。
 すると、魔王が私の方に近付いてきてポンポン頭を撫でた。表情は、ご機嫌だと言っていい。ニコニコし過ぎていて気味が悪いくらいだった。

「よしよし。責任を取ろう。今日からお前は俺の伴侶だ。結婚式も挙げよう。生涯幸せにすると誓うよ」

 ば、ばかか!?
 私は魔王の発言に驚き過ぎて、目の玉が飛び出そうになった。バチンっと魔王の手をはたき、ギロリと睨みつける。

「男同士で結婚などできるか! と、言うか愛していないくせにそんなことを言うな!」
「結婚できるぞ。俺が望めば叶わぬ願いなどないのだ。――それよりお前、まだそんなことを言うのか?」

 魔王は悲しそうな表情をしたあと、そっと私を抱きしめた。

「俺はお前をこんなに愛しているのに……」

 あ、愛している!? まだリップサービスが終わらないのか!? もう朝だぞ? セックスの後の甘い時間はとっくに過ぎたのだ。

「バカを言うな。愛している者に監禁などしない」
「愛しているから閉じ込めたのだ……」

 魔王は私の頰にそっと手で触れると、哀切の交じった表情で話し始めた。

「お前が結婚するなどと申すから、カッとなったのだ……。俺がお前を閉じ込めれば、誰のものにもならない。俺だけのものでいてくれると思ったから……」
「……。じゃ、じゃあ、なぜ裸で鎖に繋いだのだ。なぜ、食事を絶ったのだ」
「……それは、お前をコントロールしたかったからだ。お前を苦しめれば、お前は俺だけを見てくれると思った。恨まれてもいい……。お前がどうしても欲しかったのだ。――だが、それは間違いだと気付いた」
「……」

 魔王はそっと私の頰を撫でた。

「お前が苦しいと、俺も苦しい。お前を監禁していたとき、俺はどうして良いか分からなかった。だが、そんなとき、俺はアイツに会った。アイツが好きな者にはどのように接したら良いのか教えてくれたのだ」
「アイツって……、記憶喪失のときの自分のことか?」

 魔王はコクンとうなずいた。

「そうだ。アイツに愛し方を教えてもらった。本当の愛とは相手の気持ちにたつこと。相手が喜ぶことをしてやること。そして、愛されるように努力することだ」
「……」
「俺はまだまだ努力が足りないかもしれん。だが、この気持ちは本物なのだ。ずっとお前を愛していた。今まで、苦しめてすまんな。でも、もしお前が俺を許してくれるのなら……、俺を愛してくれるのなら、婚約の件を考えて欲しい……」
「ま、魔王……」

 魔王がここまで人の心に寄り添えるなど奇跡だ。
 今までは自分のことしか考えなかったのに……。

 私はどうなのだろう?
 魔王の気持ちに応えられるだろうか?
 チラリと魔王の顔を窺う。
 やっぱり、セックスしたときのようにキラキラ輝いて見えた。

 えー!? 私、ちょろ過ぎないか!?
 ちょっと優しくされただけでこれか!? 私はこいつに監禁されたんだぞ!? 婚約者を寝取られたのだぞ!? しっかりしろ、私!
 だが、何度魔王を見返してもキラキラ輝いて見える。
 先ほどの愛の言葉も心に響いて、胸がドキドキしてきた。

「~~っ!」

 く、くそ!! 認めたくない。認めたくないが、私はチョロい! もう魔王に惹かれ始めている。
 魔王と結婚した後の幸せな生活もありありと想像出来てしまう! 本当私はチョロいな! でも……でも! 魔王がかっこ良すぎるのが悪いのだ! 顔が良くて性格もこれなら、無敵じゃないか! こんなの私では太刀打ち出来ない!

 そんなことをグルグル考えていたら、魔王が私の顔を覗き込んだ。

「カイネ……。なぜ無言なのだ? なにか喋ってくれ。お前が無言だと、寂しい……」

 寂しいだと? く、くそ!! ちょっと可愛いではないか!
 優しさだけでなく、可愛らしさも身につけたな!? ますます無敵ではないか!

「わ、私は……」
「うん?」

 私もお前が好きになったぞ! と言いそうになったが、グッとこらえた。
 だってそれじゃあ、あまりにもチョロすぎるではないか。私はふーふー深呼吸をして心を落ち着けると、ゆっくり口を開いた。

「わ、私は、これからのお前の態度を見て、婚約するかどうか決めたい」
「つまり?」
「これからも人に優しく出来るか? 思いやりの心はあるのか? そういうのを見て、お前と婚約するか決めたいと言っているのだ」
「!」

 魔王の表情がぱあっと明るくなった。
 拒絶されなかったことが嬉しかったようで、ニコニコ微笑みながら私をギュッと抱きしめる。

「ああ! 分かった! これから俺は変わるぞ! だから、お前はその姿を俺のそばでずっと見ててくれ!」
「……頑張れよ、魔王。尊敬できる姿を見せて、私の心を射止めろ」

 偉そうだな。なにが射止めろだ。本当はもう大好きなくせに。
 だが、魔王は嬉しそうにうなずいた。
 ほ、本当に別人のように良い魔王に変わったな。
 それもこれも全て、記憶喪失になったおかげだ。

 魔王は私のひたいにコツンとひたいをくっ付けると、とろけるような美しい顔で微笑む。

「では、これから俺が良い魔王になれるよう、誓いのキスをしていいか?」
「……いいぞ」

 実は私も魔王ともっと触れ合いたかったので、すぐさま了解した。
 すると、魔王の唇が、そっと私の口を塞いだ。
 魔王は目を瞑っていて、長いまつ毛が見える。
 本当にコイツは美しいな。こんな美しい者が私のことを好きなんて……。
 そんなことを考えたら、なんだか幸せな気持ちになってくる。
 私も目をつむり、魔王のキスを喜びにあふれながら受け入れた。

――そんなときだった。

(良かったねぇ、カイネちゃん)

 頭の中に、懐かしい声が響いた気がした。
 私は一筋の涙を流し、心の中で最後の会話をした。

(ありがとう。私の大好きだった人)
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感想 4

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みんなの感想(4件)

ユル^ - ^サティ

お酒ですごい酔っt……カワイイーー‼︎
魔王の初っぽいの癒しです!

2025.03.26 チョロケロ

魔王はカイネの隙をつきたいので、ガンガン酔わせちゃいます。
魔王もカイネのあまりの酔いっぷりに嬉しくなってきちゃってニッコリです。

素敵な感想ありがとうございました。

解除
ユル^ - ^サティ

魔王が可愛い!
2人の会話が癒し〜😻

2025.03.25 チョロケロ

魔王が可愛いと言っていただけて嬉しいです。
今度も頑張ります。
素敵な感想ありがとうございました。

解除
ユル^ - ^サティ

わ〜(良いサイコウー!!!)
こう言う話好き❣️めっちゃ良い!!!

2025.03.21 チョロケロ

ありがとうございます。
続き頑張ります。

素敵な感想ありがとうございました。

解除

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