竜人王子の魔女っ子リスタート〜優しすぎた竜人王子、裏切りを受けて暴君魔女に回帰する〜

炭酸吸い

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魔女の里編

2話 食い殺すぞ

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 魔女の里を見て回りわかったことがある。
 一つ目は、俺は竜人の王子としてではなく、敵だった魔女の姿で過去へ戻ってきたということだ。
 若くして俺に本気を出させた魔女。スミレ・レーニーン。
 この魔女はクレアと同年代だったはずだ。そして今の推定年齢が十五歳程度。
 ならば、俺がいるのは二〇年前といったところか。
 この時期は確か、魔王軍が人間どもと戦争を始める時期である。
 俺が竜人の王子だった頃、クレアに手出しできないよう魔王軍を蹴散らしたのが更に五年先のことだ。
 二つ目にわかったのは、この体が異様に魔力の低い劣等種ということだった。

「くそ。感知魔術すら使えないのか!」

 俺に悪魔の呪法を放ったとは思えないほど、スミレは魔術センスに恵まれていない体だった。
 俺の魔術イメージは完璧だ。それこそ魔力に芽生え始めた幼児だってなにかしらの魔術を起動できるくらいには、丁寧に魔力を練り上げたつもりである。
 それなのに、発動させようとすると何かで蓋をされたように魔力の流れが遮断されてしまう。
 苛立ちで手近なレンガを蹴飛ばすと、思ったより痛くて俺が跳びはねる羽目になった。人間の体はこんなに脆いのか?
 感知魔術でクレアを探せない今、あいつがどういう状況か心配で仕方ない。
 ふと横を見ると、俺の様子に気づいた三人が指をさして笑っていた。

「見ろよ。〝ホウキ売り〟だぜ」
「才能ないからって里から逃げたんじゃないのか?」
「修行が終わって戻ってきたんだってよ」
「修行? ……くく。小等部が受ける、点穴を開ける滝行だろ?」
「全然魔力を感じないぞ。灯火の魔術すらまだ使えないんじゃないか」

 さっきからこっちをチラチラ見て何を笑ってるんだ?
 その男三人は、全員魔術士のローブを着ている。魔女の一族なのに男もいるのか。
 三人ともローブをわざと着崩しているのかだらしない格好だ。数少ない男というだけでなく、立ち居振る舞いからして悪目立ちしていそうだった。
 短く刈り込んだ金髪の大男と、それに付き従うようにしているシルエットの細い男と肥満げな男。
 彼らもこの体と対して年は変わらなさそうだ。

「ようホウキ売り」
「ピクニックは楽しかったか~?」

 俺を取り囲むように男たちがにやついた笑みで絡んでくる。
 なまじ図体がでかいから、肩を組んでくるだけでも結構重い。というか、俺の身長が低いせいで肘を置かれているような姿勢なのだ。
 この体と知り合いなのだろう。あまりいい関係ではなさそうだが。

「何だお前ら。気に障るやつだな」

 身を捩って相手の腕を払い除けると、案の定男たちは気を悪くした。
 人間に凄まれても怖くないのだが。
 様子を見ているといきなり胸ぐらを掴まれた。足が浮いてすこし苦しい。
 里で見た中では珍しい、短く刈り込んだ金髪の大男が、眉根を寄せて睨みつけてきた。

「久々に会って忘れたフリか?」
「修行先で頭でも打ったんだろ。低級魔術すら使えないんだ。魔術学校に戻ってきたところでマド先生に無駄な時間使わせるだけさ」
「いっそ戻ってこなけりゃよかったのにな」

 取り巻きらしき二人が嫌味ったらしいことを言ってくる。
 あー。そういうことか。
 クレアのことを知ろうとして、人間観察をしたことがあるからわかる。
 魔女の一族というのは、独自に築いた魔術理論を継承するため、取り組みを営んでいたことを。
 いわく、〝魔術学園〟だ。
 なぜこのタイミングでそう思ったのかと言うと、『この体の記憶』がフラッシュバックしてきたからだった。
 確かに、この体――スミレという魔女は、この男たちからイジメを受けていたらしい。
 気の弱い性格で、おまけに魔女の一族のアイデンティティである魔術がろくに使えないのだ。
 人間は自分より劣っている同族を見つけると、優越に浸ろうとする下品な習性がある事は知っていた。

「そうだ。お前が魔獣の森でピクニックしに行ってる間、俺は中級魔獣をペットにしたんだぜ」
「すごいだろ。ブラッカさんはもう中等部の課程をクリアしたんだ」
「ホウキ売りのスミレが一生頑張っても従えられない魔獣――リザードさ」

 そう言って金髪の大男ブラッカが指を鳴らすと、辛そうな様子の四足歩行――蜥蜴竜リザードが這うように寄ってきた。

「下級魔獣ならこいつに任せるだけでなんでも食い殺すんだぜ」

 分厚い皮膚の上に赤い鱗を纏った、ポピュラーな中型竜種。
 この蜥蜴竜リザード、目が血走っているが、どうにも様子がおかしい。
 確かに魔獣には強い者に従う種もいる。こいつも例外ではない。にしては、主に従うペットの振る舞いではないのだ。
 無理やり捕まえでもしたのか? おおかた、首輪に隷属の魔術でも込めているのだろう。
 ブラッカという男は図体はでかいが、自力で蜥蜴竜リザードを従えるほどの魔術センスがあるとは思えない。どちらかというと肉体強化の魔術で戦う、前衛的な役割がせいぜいだろう。
 物珍しい魔獣を従えて着飾りたい年頃と見える。
 ブラッカは得意げに「こいつの歯、すげえだろ」と、首輪を引き寄せるように鎖を引っ張った。
 獰猛な目が俺に向いている。

「…………」

 見れば見るほど不憫な生き物だ。目に悲壮さが漂っている。こいつらは卑怯な手で蜥蜴竜リザードを捕縛したに違いない。
 黙って見ていた俺に、取り巻きの男が「こいつビビってるぜ」と機嫌の良さそうな声で喜んでいた。
 よほどこの体をイジメるのが楽しかったらしい。奴らの口ぶりからして、俺は長い修行に出ていたらしいから、久しぶりに俺でストレス発散ができると思っているのだろう。
 ひとまずそれはどうでもいいとしよう。
 それより腹立たしいのは、

「おい」
「ああ?」

 この状況で取り乱さない俺に苛立っているのか、ブラッカが低い声で返事をした。
 お前に言ったんじゃない。馬鹿め。

「いつからこんな連中に従うほど大人しくなったんだ?」

 俺が腹立たしいのは――この蜥蜴竜リザードが竜のプライドを簡単に失くしていることだ。

。トカゲ野郎」

 蜥蜴竜リザードを覗き込むように言うと、そいつは怯えたように吠えだした。

「お、おい! ラッキー! 暴れるな! ……うわわ、やめろ! お前の主人だぞ!」
「ブラッカさん!?」

 ラッキーだと? 誇り高い竜種の獣になんて名前つけてやがる。
 それにしてもこの蜥蜴竜リザード見上げた根性だ。
 一時は服従した魔術士相手に、獰猛な飼い犬のように吠えて噛み付いている。根性があるというより、ブラッカとかいう魔術士より怖い人間――俺に会ったから混乱してるんだろうな。
 俺の見た目が華奢な魔女だからって舐められていたが、腐っても中身は竜人の王子だ。そのくらいの威厳は示せないとプライドが許さない。
 ブラッカとかいう男、首輪をつけた蜥蜴竜リザード程度を躾られない分際で、よくも俺の胸ぐらを掴み上げやがったな。

「くそっ、だから馬鹿なペットは嫌なんだ。捨てるぞ!」

 俺に構っている場合ではなくなったのか、ブラッカは奇妙な魔術で両腕をゴーレムのように肥大化させると、力業でリザードを引き剥がした。面白い魔術だな。モンスターの外殻を模倣したのか。
 隙を見たブラッカ達は、そのままペットの蜥蜴竜リザードから逃げるように去っていった。

「まったく人間はどうしようもないな。……おい獣畜生。俺を舐めるな。おいやめろ。やめろって」

 俺の頬を無遠慮に舐めるリザードに思わず背筋がぞわりとした。当然、あまりいい気分では無い。同じ竜族のものとはいえ、ペットのように懐かれても可愛くないのだ。俺は愛玩動物に口元を緩めるほど腑抜けでは無い。
 と思いつつも、こいつを引き剥がす力がこの体にあるはずもなく、地面に押し倒された獲物よろしくリザードの思うままに愛でられ倒されることとなった。

「いい加減にしろよ」

 ひと睨みしてやると、そいつは直ぐに大人しくなった。見た目が魔女の俺にこの態度なら、本当に竜族として先が思いやられる。

「そんな甘えた目で見るな。もう良いだろう。自力で魔術士野郎の力を解いたんだ。さっさと野生に帰れ」

 なぜ落ち込んだような目になるんだ。元いた広い野原に帰れるんだぞ? 嬉しくないのか?

「お前がリザードじゃなくワイバーンだったら竜山まで乗り潰してやるところなんだが、出来もしないことを言ってもしょうがないからな」
「くぅん」
「犬みたいに鳴くな! お前は竜の獣だろう! 恥を知れ!」

 ダメだこいつ。ご主人様を見る目をしている。

「まさか俺に付きまとうつもりか?」
「ハッハッ」
「嬉しそうにしっぽを振るな」
「バウッ」
「こいつ、本当は犬なんじゃないのか?」

 終始上目遣いで目をうるうるさせる大トカゲ。否が応でも俺から離れないつもりだな。

「言っておくが俺は優しくないぞ。見た目で舐めてるなら考え直した方が」
「ガウッ」
「おお……食い気味だな。ペットを飼うことなんて俺の生涯で初めてなんだぞ。お前ラッキーだな」
「ワンワンッ」
「お前を呼ぶ時に名前が無いと面倒だな。トカゲでどうだ?」

 なんで不機嫌そうな目をするんだ。
 そこから「レッドリザード」だの見た目から思いつくものを適当に口にするが、ことあるごとにそいつはそっぽを向いて不服そうな態度をとった。やっぱり俺の事舐めているだろう。

「何を拘ってるんだこいつ。さっきの野郎みたいにラッキーって呼んでやろうか?」
「ワンッ」

 過剰反応と言っても大袈裟では無いリアクションで、そいつは全身で喜びを表現していた。

「ラッキーがいいのか」

 無理やり捕まえられたくせに、案外名前は気に入ってたんだな。
 地面に転がるようにしてお腹を見せたラッキーが、ただ見ている俺に気づいてつまらなさそうな顔をした。
 あーもう犬だ。こいつは竜種じゃない。今の俺と同じく、見た目と中身がチグハグな生き物だ。
 やけくそにラッキーのお腹を撫でてやるとそれは嬉しそうに身を捩り、喉をゴロゴロ鳴らした。
 こんなことしている場合じゃないのに。猶予はたった二十年だ。そうすれば、今度こそクレアが殺されてしまうかもしれない。

 その日、周りでこそこそしていた魔女の連中が俺の事を噂したらしく、暫くして俺のあだ名は「ホウキ売り」ではなく、「リザード使いのスミレ」になっていた。
 黙って聞いてやっていたがやはり蔑称だったのか。
 あのブラッカとかいう連中、次会ったら八つ裂きにしてやる。
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