竜人王子の魔女っ子リスタート〜優しすぎた竜人王子、裏切りを受けて暴君魔女に回帰する〜

炭酸吸い

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魔女の里編

22話 崩れる

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 入場して思ったのは、俺のパーティ選別センスは決して悪いものではなかったということだった。

「そこ、魔力溜まりが不自然ぽい。触らないようにして」

 ノトムは店から揃えたマジックアイテムで、ダンジョン内の罠を正確に見破った。
 俺が試しに遠くから手近な石を投げると、警告通り小規模な炸裂が起こった。それがノトムを怒らせた。
 俺を責めるように振り返る。

「触らないでって言わなかったっけ?」
「すまん。このレベルなら怪我しないと思ったんだ」

 結果的にノトムを試したことにはなるが、嘘は言っていない。

「ダンジョンは構造上音が遠くまで響くから、暗い場所で生活する魔物は敏感なんだ。もうやめてね」
「そうだな、悪かった。そうは言っても寄ってくる魔物は二人がなんとかするさ。な?」

 俺は前衛を警戒するブラッカとイヴァに言った。

「今のとこ子鬼系の魔物だけだしな。ゴブリンは平気だぜ」
「アタシは熊の魔物とか狩ってたから楽勝だ。心配すんな」

 流石に表立った喧嘩はしていないが、俺を介してさり気なく張り合うようにしたらしい。
 全員慣れないダンジョンだろうが、気後れしていない。ガキのくせに頼もしい限りだ。ああ、俺も今はガキなのか。

 ――今回のダンジョン攻略は、ノトムの指示に従い先程とは隊列を変えている。
 燭台を倒したような隊列で確実に進むプランだ。
 前衛をブラッカとイヴァ、ポチに任せ、すぐ後ろでノトムが索敵と危険地帯をキャッチする。
 俺とラッキーは最後尾をカバーするが、今のところ出番はない。

「ノトム見直したぞ。お前探索技術があったんだな」
資源採掘トレジャーハントで父さんに教わったんだ」

 だから装備が作業員に近いのか。
 ノトムは、魔術士というより機械技師のような装いをしている。
 栗色の髪を押さえつけるように大きなゴーグルを装着し、金属を何層にも重ねたマスクを付けている。
 アンテナの立った耳当てまでして、そのダイアルを回しては安全なルートを指示していた。
 さすがのブラッカも感心したらしい。

「お前鈍臭そうなヤツだと思ってたけど、なんていうか……なんだ。すげえな、お前」

 確かに人間の目線で言えば、ノトムは割と凄いことをしている。
 そもそもダンジョンのトラップを正確に感知するのは冒険者でも難しい。生涯見た斥候の死体も数え切れないくらいだ。
 一方、俺がダンジョンを歩く時は〈魔法障壁の加護〉に全部処理させる。
 ダンジョンの罠は魔力起因が多く、仮に落石のトラップや落とし穴だったとしても、竜人の俺は頑丈だから気にすることはなかった。
 魔女の体になった今はノトムの存在がありがたい。

「大した事ないよ。よその国から騎士団のお供を依頼された父さんの見様見真似でやってるだけだから」

 そういえば前世でもダンジョンを荒らすように進軍する騎士団と会ったことがある。
 なまじ言葉が通じるから、俺と騎士の連中は互いに干渉しなかったが。むしろ騎士達が勝手に道を開けるから衝突はなかった。
 もしかしたら前世で会ったこともあるかもしれないな。

 そうして、ここまで低級の魔物を順当に仕留めているブラッカが大きく伸びをした。

「危ないダンジョンって聞いたが大したことねえな。ノトムのガイドもいい感じだしよ。快適なもんだ」
「そう? 僕は気持ち悪い感じがするけど」

 顔をしかめているノトムは、きっと俺と同じものを知覚しているのだと思った。
 勘が良すぎるのも考えものだ。
 リネリットが念話魔法を繋げてきた。

『ご主人様』
『ああ、こいつ転移魔法陣に気づいてるな』

 このルートの近くには、目的にしていた『転移魔法陣』がある。
 それはリ・エンジット魔鉱場を経由して別のダンジョンに飛ぶための媒体だ。
 転移先は前世で遺物を隠したダンジョンに繋がっている。
 人間は知らないだろうが、ダンジョンというのは正確には一つしか存在しない。
 転移魔法陣の知識がない人間が後からダンジョン名を付けていっただけで、ここは巨大な蟻の巣ダンジョンの一部みたいなものだ。

『この人間は危険です。ご主人様のこともいつか気づくかも』
『心配しすぎだ。俺は人間社会に溶け込む魔人とは違う。体は正真正銘人間なんだから気にしなくて良い』

 それこそ魔人なら転移魔法陣は熟知してるだろうな。
 ダンジョンはすべてが天然の魔法陣で相互に接続しあっている巨大迷宮。使い方によっては大陸の移動時間を短縮したり、騎士団を欺いて遭難者として急に現れたりもできる。
 竜人には無用の長物だが、今ほど転移魔法陣をありがたいと思ったことはない。魔人どもの気持ちがわかる気がする。

「ノトムは心配性だな。あーあ、聞いてたより楽だし、案外つまんなかったな」

 かなり気の緩んだブラッカを注意しようとしたノトムが顔をあげると、急に慌てて声を裏返らせた。

「う、わ、――うし、後ろぉ!」

 後頭部で手を組んだブラッカを待っていたかのように、輪郭のぼやけたなにかがうなじに飛びついた。
 はじめからそこにいたような、前兆のない奇襲方法だった。

 その生物を、銀色の狼が驚異的な跳躍力をもって容赦なく捕食する。
 不意打ちを食らわせた魔物は何を目論んでいたか確認する前に絶命していた。
 遅れてブラッカが身を縮めている。
 さすが銀狼といったところか。脅威への反応速度が尋常じゃない。イヴァの相棒であるポチがいなければ、ブラッカもただでは済まなかったかもしれない。
 戦闘終了を確認したノトムが慌てて謝罪する。

「ご、ごめん。今の今まで気付けなかった」
「たぶん『ブルート』だな。認識阻害の魔力が体中に巡ってるから、熟練の冒険者くらいじゃないと気付かないのも無理はないさ。命拾いしたな」

 ポチが雄々しい立ち姿のまま咥えた魔物をべっと吐き出す。息絶えた魔物はすでに原型を失っていた。
 ドロドロに溶けた死体。ブルートで間違いないだろう。
 ブルートというのは、見た目不詳の低級魔獣と知られている。肉眼でぼかされたような姿形にしか捉えられず、四つ足の時もあれば人型で現れるときもある。
 いずれも共通するのは、液状化したうえで絶命することだけだ。死んでも本当の姿を見られたくないからだとか、諸説ある。
 今回のように集団行動であれば脅威は少ない。奇襲の名人だが、仲間が対処すれば大事には至らないからだ。

「ふふん。ポチは鼻が利くんだ」

 イヴァが誇らしそうに言う。

「ああ……ビビったぜ」
「礼くらい言ったらどうなんだ?」
「ああ? あんなの噛みつかれたって怪我しねえよ」
「嘘つけ! めっちゃビビってたじゃねーか!」

 また始まった。
 俺が言えたことではないが、騒ぎすぎると魔獣が寄ってくる。
 俺も後ろから進行停止の宣言をした。

「だいぶ進んだな。ここらで魔鉱石を採掘しよう。報告する実績としては十分なはずだ」


 ノトムが設置した篝火を中心に、各々魔鉱石の採掘にあたっている。
 ここまでは予定通りだ。

(あとはどうやってコイツらと離れて、あのダンジョンに転移するかだな)

 適当に先に帰らせても良いのだが、後から来るであろうクラリス達の離脱まで見届けたほうがトラブルはないかもしれない。
 杭を押し当てハンマーで打つ。小物の鉱石を砕く作業をしながらどうやって俺の遺物を回収するかシナリオを練っていた。ハンマーの衝撃が加わる度に魔鉱石から魔力が漏れ、多色に発光する。
 ふと、遠くでノトムのうめき声が聞こえた。見てみると、なにやら大物の鉱石を掘り返そうとしているようだった。
 ブラッカが無遠慮に覗き込んでいる。

「何やってんだよ」
「見てわかるだろ。採掘……うう、だよッ」

 魔鉱石は砕いた欠片を回収するのが通例だったはずだが、ノトムは抱えるほどある魔鉱石をそのまま掘り返そうとしているようだった。
 目的の魔鉱石周辺は光が失われていて、掘り返すためにかなり努力したように見える。

「なっさけねえな。代わってみろ」

 そう言うと金髪男の上半身は筋骨隆々の大男にまで肥大化した。上腕から手先までも巨大化し、魔鉱石と同じような肌に変わる。
 ストーンゴーレムの魔装をしたらしい。
 両手の先を魔鉱石の下に滑り込ませるようにして一気に突き刺し、豪快に引き抜いた。透き通る青い魔鉱石が神秘的に輝いている。
 採掘道具が服を着て歩いているようなものだ。多分このパーティメンバーの中ではブラッカが一番採掘活動に適任だと思う。

「おら」

 ブラッカは口調とは裏腹に、割れ物を扱うように青水晶の魔鉱石をノトムの前に置いた。

「え? なに?」
「なにじゃねえよ。店に持ち帰るんだろ」
「いいの? 結構貴重なんだよ、これ」
「そんなの分かってら。……こんだけで店、元に戻んねえだろうけどよ。無いよりマシなんだろ」

 どうやら店の中を荒らしていた事を気にしていたらしい。
 裏庭まで来るときは相当頭に血が上っていたんだろう。不良だとは思っていたがあいつの中では不本意な行いだったのかもしれない。

「うん……ありがとう」
「やめろ気持ちわりい。次はどこ掘るんだ?」
「えっとじゃあ――」

 ノトムが指示役になってブラッカが採掘を始めた。
 なんだ、案外悪くない組み合わせだな。俺が採掘の手を抜いても平気そうだ。
 そこまで呑気に考えて。
 俺は前世の感覚でいたから忘れていた。
 ダンジョンでは不測の事態が簡単に発生することを。

「お前ら! ここ、なんかちょーヤベえ!」

 イヴァとポチが何を察知したのか、急に鬼気迫った顔で叫んでいる。

「走れ! なんでか知んないけど、たぶん、ここ、」

 アマゾネスの一族の優れた第六感だったのだろう。
 ――〝崩れる〟と、そう聞こえた頃には、ずんと突き上げる振動を感じた後だった。


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