竜人王子の魔女っ子リスタート〜優しすぎた竜人王子、裏切りを受けて暴君魔女に回帰する〜

炭酸吸い

文字の大きさ
25 / 36
魔女の里編

25話 再会

しおりを挟む



 転移早々ダンジョンの寝返りが起こったのは想定外だった。そこにクラリスと従者のジェイがいて、早々にブラッカと合流したことも。

「ノトムはどうした?」

 ブラッカは気まずそうに頭を掻いて笑った。

「すぐに合流したんだが、急に地面が動いてよ。離れちまった」

 その割には随分と落ち着いている。発言にどことなく人の冷たさを感じた。
 ブラッカは阿呆だが、このダンジョンが危ないということは分かっているはずだ。

「ノトムの近くに魔物はいたのか? 盗賊は?」
「心配し過ぎだぜ。ちょうど近くにイヴァも居たんだ。あと、ポチだっけ? あの狼も一緒だ」

 コイツがあっけらかんとしている理由が分かった。
 どうやら都合よく固まって飛ばされていたらしい。
 イヴァの実力は前世で良く知っているから安心できる。考えが一本調子だから扱いづらいだろうが、情には熱い人間だと思っている。

「そうか。どっちに行ったかはわかるか?」
「ここめちゃくちゃに動くからわかんねえけど……たぶん俺より上に行っちまったんじゃねえかな。結構な叫び声だったし」

 ブラッカのことだから割と適当に答えている可能性もあったが、きっと正しいと判断した。
 叫び声が聞こえていたなら遠ざかった方向はわかるはず。
 俺はそこまで聞いて頷いた。

「あっちは地上に近そうだな。良かった」
「そうとも言えないんじゃない?」

 クラリスが真面目な顔で否定する。
 そのまま両手の人差し指を立てて、足元をつんつんと指して見せた。

「彼、きっと下を目指すわよ」
「なんでだ? 危険だろ」
「あなた達が心配だから」

 割と子供らしい理由だった。
 クラリスも今のスミレと同年代だ。そう思ってしまうのも仕方がないのかも知れない。
 あまり深刻な理由じゃないと思った俺は鼻を鳴らした。

「そんなことか」

 俺だってあの短い時間で対策していた。魔法陣の転送前に釘を刺していたからあまり心配していない。

「大丈夫だ。飛ばされる前に『出口にいけ』って言っておいた」
「そんなの言う通りにできると思う? 私達まだ十五なのよ」

 クラリスが呆れた目を向けてきた。
 さすがに嫌な汗が出る。
 子供っぽい理由だと思ったが、そもそも俺達は子供で、未熟だった。

(最悪だ……これがクレアだったら)

 そこまで考えて頭を振った。
 多分クレアも似たようなものだ。俺が強いのを知っているくせに、当たり前のように心配してくる。
 魔王軍の第二団体を滅ぼしてやった時なんて、都市に出かけるような格好で俺のもとに駆けつけてきたのだ。

「信頼がないと誰も信じないわ。当たり前でしょ」

 まさかクラリスからそんな善人めいた言葉が出てくるとは思わなかった。
 ここまでうまくいかないものなのか?
 あとは俺がこいつらを上層まで送って、下層に隠した遺物を取りに行くだけなんだぞ?
 悩んでいたところで、ブラッカが首をならしてやや仰け反った。

「しゃーねーなー」

 と言って、大きく息を吸う動作。
 次の瞬間、俺達は耳を塞ぐことになった。

「ノトムぅうううううう! 上に行け――!」
「……うるっ、さいぞおい!」
「いや、聞こえるかなって」

 ブラッカは明るい顔をしてはにかんでいる。
 やっぱりブラッカはブラッカだった。そんな簡単に意思疎通が図れたら苦労しない。 
 確かに声量は見事なものだったが、ノトムが返してもきっと聞こえないだろう。

「聞こえるわけないだろ。ここがどれだけ広いと思って――」
『わ――かった――ぁあ!』

 女の大声量がかすかに反響した。
 イヴァ・ヴァルキュリエの声だった。
 クラリスがおかしそうに笑う。

「耳いいのね」

 俺も肩をすくめるしかない。

「アマゾネスの一族って言ったかしら」

 ブラッカの声量でも人間の耳だとキャッチできなかったはずだ。竜人でも難しいだろう。
 アマゾネスの一族は血のもたらす第六感が注目されがちだが、五体全てが殺傷武器になり得るほどのフィジカルこそ本命だ。
 当然、視覚や聴覚も並外れている。
 やっとツキが巡ってきたかもしれない。

「私たちも地上へ出ましょう。いいわよね、ジェイ」
「ええ。長居することは無いでしょう」

 再びクラリス達が先陣を切る。ダンジョン離脱行動を進めていると、ブラッカから無言で肩をつつかれた。
 そいつは先程の威勢を失っていた。というより、明らかに怯えている。

「アネキ」
「どうした?」
「なんであいつ居るんだ?」

 前を歩くクラリスの方を指さしている。
 そういえばブラッカは、クラリスがいると決まって様子が変になっていた。
 あれだけ偉そうにしていたくせに情けない奴だ。

「言っただろ、ダンジョンの寝返りで鉢合わせたって。クラリスと何かあったのか?」
「違う、ジェイトリックさんだよ」

(ジェイトリック……あの従者か?)

 クラリスからジェイと呼ばれていた男。
 黒髪で病的に肌が白い、パッとしない人間だ。
 子供数人詰め込んだように膨らんだ大きな荷物。体格が人並みだから、それを平然と背負って歩く姿は意外ではあるが、それだけだ。
 人間にしてはできる奴くらいにしか見えない。

「大人しい付き人にしか見えないが」
「どさくさに紛れて逃げよう。あいつヤベえんだよ」
「はっきり言え。なにがどうヤバいんだ」
「それは……」

 ブラッカは言葉を切ると、伺うようにジェイの背中をちら、と見る。
 ジェイは黙々と前を見据えて歩いている。
 それがかえって不気味さを醸し出していた。

「言ったら殺される」
「……まさか」

 あの男はクラリスの従者だから、力に自信があるただの荷物持ちだと思っていた。

 ここまで一切ジェイの魔術を見ていないのだ。
 俺が戦うまでもない程にクラリスは強い。ただ、ジェイは別だ。
 俺が戦わないのは後衛を呑気について行っているだけだからであって、前衛を歩くジェイは魔物の奇襲に対応する必要がある。
 それなのに、簡単な防御魔術ですら一切使わない。探索の魔術でさえ、一つもだ。

 使えないのではなく、使わないのだとしたら。邪な思いで魔を使う者なら、答えは割と限られてくる。
 魔力は使用者によって明確に違う。個性が出る。
 見る者が見れば、悪いことに使った奴の足はつきやすい。

「ノトムの店の――」

 泣きそうな顔で口を塞がれた。
 しきりに頷いている。まるで聞かれたらまずい話をしているかのようだ。
 ブラッカにとってはそうなのだろう。

 ジェイトリックは、巨大スライムを召喚した魔術士だ。



     ◆



 ノトムの店に仕掛けられていた巨大スライムは並の術者では召喚出来ないと思っていた。
 実際、その見立ては間違いではなかったらしい。
 不良気質なブラッカがジェイの名前を伏せたり畏怖の感情を抱く程だ。過去によほどの仕打ちを受けたのだろう。
 こうなると小声で話す仕草でさえ怪しまれそうだ。魔力消費を気にしつつ、念話に切り替える。

『ちょっと前歩いてみろ』
『俺の背中に何かついてんのか?』
『いいから』

 大人しく俺の指示に従ったブラッカが、ちょうどクラリスの後ろあたりをついていくように歩く。
 俺は目に魔力を集めた。
 左に竜人の目を再現すると、生物に流れる魔力の流れが見えるようになる。

(あの男……大人しい顔してえげつないことしやがる)

 ブラッカの体に流れる魔力が二種類、グラデーションのように溶け合っていた。
 一つは純粋なブラッカの魔力だろう。問題はもう一つだ。
 ジェイトリックが俺に吸わせようとした自作のポーションと同じ魔力を感じる。
 普通は服用者の魔力に取り込まれるべきところを、今この瞬間も溶けずに腹部で占有しているのだ。

『あの従者からポーションをもらったのか?』
『ああ、魔装が使えなかった時にくれたんだが――なんで分かったんだ?』

 だとするとスミレに日常的な乱暴をする前くらいか。
 クラリスを見ると、ブラッカほどじゃないがジェイの魔力が根強く残っている。

(まるで悪魔族の現象だな)

 悪魔族は邪悪な呪いの魔法とは別に、精神侵食を専売特許にしている。
 学園長が初代魔王だからもしやとは思ったが。

(ジェイトリックという男、さては魔人か?)

 確証はないが、ほぼ確定だろう。
 卑しい魔人が魔女の連中に何かしようとしているのか。
 侵攻として有効な手段は、人間の心を操ることだ。
 社会的地位が高そうな人間を無意識下で操り、精神支配の抵抗を、時間をかけて下げさせる。
 もし俺が悪魔なら、未成人の魔女か魔術士を狙う。教職レベルはかえって危険だ。魔に精通している分勘付かれやすいし、正体を暴かれかねない。

 だとすると、スミレが苛められていたのもこの男の仕業か?
 思うに、非倫理的な行いができるか否かで精神侵食の成果を測った可能性がある。
 そうだったとしても、今の俺にどうする事もできない。


 ――たぶん、考え事をしていたのが失策だった。
 あとは念話に夢中になって、クラリス達と徐々に距離が開いたことも要因といえる。

 無防備なブラッカを待ち構えていたように、壁の穴から巨大ミミズが飛び出してきた。

「――くそっ!」

 転移魔法陣にリソースを割いたせいで、あのレベルの魔物を止める魔法が使えない。
 今更引き寄せる程腕力もない。
 消去法でブラッカを向こう側に蹴り飛ばした。

「う、おっ」

 ほとんど転ぶようにして金髪の大男はクラリスの足元に滑り込む。すぐ後ろを黒光りした巨大ミミズが通過した。
 直後、本日二度目となる大振動。

「……アネキ!」
「分かってるな! 地上を目指せ! 捜しに戻ったら食い殺すからな!」

 再びダンジョンの寝返りが再開される。
 間隔がかなり短い。前世でもここまでの活動ぶりは初めてだった。
 地形が生き物の用に変わっていく。すぐにブラッカ達の姿は見えなくなり、激しく景色変わること数回。
 落ち着いたと思った時、背後から数人が騒ぐ声とともに、抜剣する音がした。

「動くな! 何者だ貴様!」

 振り返ると、見覚えのある家紋が刺繍された銀甲冑が一人。血だらけでこちらに剣を向けていた。
 前世で何度も見た家紋――『水平に保たれた天秤』の刺繍。

「――あ、ああ」

 手が震える。
 どうしてここに居るのかはわからない。
 わからないが、そんなことはどうでも良かった。
 兵士のすぐ隣に、ダンジョン侵攻には似つかわしくない女性がいる。
 黒を基調としたドレスに、艶のある黒い長髪。
 前世で守ると誓っていた女性――クレアがいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...