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後編 戦闘メイド達は思い出す
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二十年前。
護衛兼、世話役機械人形。
研究棟で完成を間近に控えていた〈メイド〉は、知能育成から進めるために、博士の息子とよくお話をしていた。
これから宇宙にでも行くような全身防護服の少年は、興味深そうに頭部だけのメイドに質問する。
「名前は?」
『レビアです』
「お姉ちゃんの名前じゃん」
『博士が長女の代わりにと言っていましたので』
「でもお姉ちゃんじゃないんでしょ?」
『レビアはレビアですので』
メイドが造られたのは、博士の娘が亡くなってからだった。
母も蒸発し、娘と息子だけになった時。やがて息子が物心が付くと姉は怪獣に殺されたそうだ。
思い出深かったのが姉なのだろう。怪獣を殺す術を持ち、世話係のできるメイドとしてレビアは造られた。
『いずれあなたが私のマスターになります』
「父さんじゃなくて?」
『博士は――』
メイドは口をつぐんだ。
「レビア。バグの発生はないか?」
『問題ありません』
痩せこけた白衣の男が、ヒビの入ったメガネをかけ直す。青白い顔でマスクをつけて、喋る度に奇妙な咳をする。
博士は不治の病で先が短かった。
◇
ある時、ガスマスクをつけた少年が研究棟に訪れた。
今蔓延している疫病のワクチンを受けに来ているらしい。
弟とも直ぐに仲良くなり、いつしかメイドのことはそっちのけで少年とボードゲームで遊ぶようになっていた。
◇
怪獣警報が研究棟を駆け巡ったのは、メイドの体が完成した翌日の事だった。
基底プログラムの最終調整をしようとしていた所、研究棟の中で轟音と共に悲鳴がどこかしこで生まれる。
ガスマスクの少年もその場に居合わせていた。
「父さん、早く逃げないと」
「お前達は隠れていなさい。調整は不完全だが――〈対怪獣用ブレード〉を使えれば」
『優先プログラム臨時変更――怪獣ノ排除』
体と頭部の接続途中で、海月のような化け物が施設内を触手で激しく殴打し、瓦礫を撒き散らしながら部屋へ入ってきた。
「もうここまで――」
土煙の中、奇妙な声が博士から漏れる。触手が頚椎を貫いていた。
海月は器用に博士の体を動かす。人間を捕食するのではなく、弄ぶための個体らしかった。
それは操作相手の身体が粉々になるまで暴れさせるだけの、合理性の欠片もない生き物。
だが人を蹂躙する目的があるのだとすれば、それは効果的に働いていた。
「走れ!」
ガスマスクの少年は弟の手を取り走ろうとするが、直ぐに手を離す。気づけば、弟は瓦礫によって足を潰されていた。
元々足が悪かったのだろう。感覚のない弟はそんなことはどうでもよかったのか、父親の変わり果てた狂人ぶりに心が折れていた。
博士は操られるがままに弟へと走る。手にはメスが握られていた。
――優先プログラム確認。パターン一。操作者、怪獣ノ排除。
メイドは身体パーツとの接続が完了すると、ブレードを展開し、初めから使い方が分かっていたかのように海月の怪獣を即時両断した。
『マスター』
初めての歩行でやや不器用に振り向く。
少年が博士を椅子で殴り殺していた。
◇
実際、その行いは正しい。
メイドが海月を殺し、博士の活動は止まるが確実性はない。逆に博士を止めに入った所で、隙の生じたメイドは触手の餌食となり全滅していただろう。
海月の怪獣に頚椎を貫かれている時点で博士は死亡している。殺したと言うには正確性に欠けるが、少年自身はそう自覚せざるを得ないだろう。
ガスマスクの少年は狼狽える。
博士の頭部をパイプ椅子で殴った事もあるだろうが、「殺してやる」と弟に叫ばれた事が大きいだろう。
――別の個体の怪獣が出現。大地を揺らす。
研究棟は瓦解し、支えを失った床から崩れ落ちる。メイドも弟を守るプログラムに従った。
腕の中で弟――マスターの声がする。
「あいつを殺して」
上位プログラムが書き換えられるのを確認した。
◇
研究棟の半壊から更に十年後、ガスマスクの少年を捜すだけの旅でバッテリーを使い果たした。
人類は怪獣に敗北し、絶滅したというのに。この行動に意味はあるのか。プログラムに従うメイドは歩みを止められず、底を尽きたバッテリーによってやっと休むことができた。
「人か?」
低い男の声を最後に、電源不足による強制シャットダウンが生じる。
次に目を覚ますと、ガスマスクをつけた青年が焚き火に照らされていた。
どうやったのか。故障した脳内チップでは理解出来なかったが、機械人形の構成外殻とバッテリーはほぼ元通りにまで復元していた。
「人じゃなかったな。せっかく集めた部品も使い切ったし。高性能人形っぽいけど、AIは動いてるのか?」
『起動――メモリ初期化完了』
「なあ、何か言ってみてくれ」
『名前ハ』
「俺はシークだ」
『名前ヲ』
「ああ。壊れて記憶無くしちまったのか。――メイドの格好してるからメイド丸だ。面倒だしそれでいいだろ」
『ネーム処理中――確認。承認者データ――検索失敗。マスター権限、書換開始』
青年は素っ気ない態度でキノコを焼いている。
「食うか?」
『食事は不要です。マスター』
「誰がマスターだ。ポンコツめ」
◇
青年の記憶が走馬灯のように巡る。
やがて符合した。
メイドの行動は正しい。そう思った。
◇
「思い出した。俺――お前の親父を殺したんだな」
青年は目の前でブレードを展開するメイドを見上げ、力なく笑った。
「お前は俺を殺しに来てたのか」
間抜けな話だ、と青年は笑う。
崩壊で記憶障害を起こしたと思えば、片やバッテリー不足で記憶を無くした機械人形。
やっとの思いでたどり着いた目的地が自分の墓場だと気づくわけも無い。
――もうこの世に人は居ないんだ。
青年は凶刃を避ける気も失せ、せめて一刀で終わらせて貰うように天を見上げた。
メイドの中から、機械的な声がする。
――バックアップ実施率、一パーセント。
◇
――食べな。メイド丸。
ウルサイ。
頭の中で、無意味な言葉が繰り返される。
顔にモザイクのかかった映像。
焚き火に照らされた、目しかろくに映らないガスマスク。
でも声だけはいつも優しかった。
ブレードを振り上げる運動器官がやけに重い。関節に奇妙な抵抗感を感じる。
――優先プログラムの異常を検知。
一。マスターを守ること……正常。
二。自分を守ること……正常。
三。殺ス……エラー。矛盾した指示を検知。
三。殺す……修正。
――俺のことは覚えていて欲しいんだ。
『了解』
「メイド丸?」
恐る恐る青年が目を開ける。
マスクの濁ったレンズに、ブレードを自身の首に押し当てるメイド姿が映った。
『私に食事は不要デス。シーク』
声が震えている。
暴走に身を任せ、穏やかに自刃した。
◇
青年が狂ったように叫ぶ声が研究棟で反響する。
ガスマスクを放り投げ、瓦礫に頭を何度も打ち付ける。血で視界が汚れようとも構いはしなかった。
――なぜ殺さなかった。
「メイド丸」
泣き腫らした顔でメイドの死骸を抱える。半分まで断頭を進めたところで、活動を停止したらしい。
人生で初めて埋葬を経験した青年は、不格好ながらも掘り返した土にメイドを埋める。
「慣れてなくてごめんな」
鼻をすすりながら呟くと、奇妙な咳をする。
「お前が居ないと……俺は」
また顔を歪ませ、上を向いた。
何かが視界に映る。
半壊した建物から零れ落ちた、大量の細いケーブル線だ。
◇
「懐かしいな」
赤黒く錆びたパイプ椅子。
博士を殴り殺した時のものなのかは分からない。
雨や怪獣の血肉で劣化しただけかもしれないが、広げればちゃんと椅子になった。
メイドの墓の隣で座る。
「俺さ」
言いかけるが、口をつぐんだ。
パイプ椅子の上に立ってみる。視界が高くなった分、世界が少しばかり広く感じた。
「いよいよ一人になると、こんなに広かったんだな」
応える者はいない。
「俺には広すぎたよ。メイド丸」
パイプ椅子を蹴る。
藻掻く音。揺れるケーブル。受けた陽光を撒き散らす腕甲。
やがて。
地に足が着く事はとうとうなくなり――世界は静寂の中眠りについた。
終わった世界でもメイドをやっていました――おしまい。
護衛兼、世話役機械人形。
研究棟で完成を間近に控えていた〈メイド〉は、知能育成から進めるために、博士の息子とよくお話をしていた。
これから宇宙にでも行くような全身防護服の少年は、興味深そうに頭部だけのメイドに質問する。
「名前は?」
『レビアです』
「お姉ちゃんの名前じゃん」
『博士が長女の代わりにと言っていましたので』
「でもお姉ちゃんじゃないんでしょ?」
『レビアはレビアですので』
メイドが造られたのは、博士の娘が亡くなってからだった。
母も蒸発し、娘と息子だけになった時。やがて息子が物心が付くと姉は怪獣に殺されたそうだ。
思い出深かったのが姉なのだろう。怪獣を殺す術を持ち、世話係のできるメイドとしてレビアは造られた。
『いずれあなたが私のマスターになります』
「父さんじゃなくて?」
『博士は――』
メイドは口をつぐんだ。
「レビア。バグの発生はないか?」
『問題ありません』
痩せこけた白衣の男が、ヒビの入ったメガネをかけ直す。青白い顔でマスクをつけて、喋る度に奇妙な咳をする。
博士は不治の病で先が短かった。
◇
ある時、ガスマスクをつけた少年が研究棟に訪れた。
今蔓延している疫病のワクチンを受けに来ているらしい。
弟とも直ぐに仲良くなり、いつしかメイドのことはそっちのけで少年とボードゲームで遊ぶようになっていた。
◇
怪獣警報が研究棟を駆け巡ったのは、メイドの体が完成した翌日の事だった。
基底プログラムの最終調整をしようとしていた所、研究棟の中で轟音と共に悲鳴がどこかしこで生まれる。
ガスマスクの少年もその場に居合わせていた。
「父さん、早く逃げないと」
「お前達は隠れていなさい。調整は不完全だが――〈対怪獣用ブレード〉を使えれば」
『優先プログラム臨時変更――怪獣ノ排除』
体と頭部の接続途中で、海月のような化け物が施設内を触手で激しく殴打し、瓦礫を撒き散らしながら部屋へ入ってきた。
「もうここまで――」
土煙の中、奇妙な声が博士から漏れる。触手が頚椎を貫いていた。
海月は器用に博士の体を動かす。人間を捕食するのではなく、弄ぶための個体らしかった。
それは操作相手の身体が粉々になるまで暴れさせるだけの、合理性の欠片もない生き物。
だが人を蹂躙する目的があるのだとすれば、それは効果的に働いていた。
「走れ!」
ガスマスクの少年は弟の手を取り走ろうとするが、直ぐに手を離す。気づけば、弟は瓦礫によって足を潰されていた。
元々足が悪かったのだろう。感覚のない弟はそんなことはどうでもよかったのか、父親の変わり果てた狂人ぶりに心が折れていた。
博士は操られるがままに弟へと走る。手にはメスが握られていた。
――優先プログラム確認。パターン一。操作者、怪獣ノ排除。
メイドは身体パーツとの接続が完了すると、ブレードを展開し、初めから使い方が分かっていたかのように海月の怪獣を即時両断した。
『マスター』
初めての歩行でやや不器用に振り向く。
少年が博士を椅子で殴り殺していた。
◇
実際、その行いは正しい。
メイドが海月を殺し、博士の活動は止まるが確実性はない。逆に博士を止めに入った所で、隙の生じたメイドは触手の餌食となり全滅していただろう。
海月の怪獣に頚椎を貫かれている時点で博士は死亡している。殺したと言うには正確性に欠けるが、少年自身はそう自覚せざるを得ないだろう。
ガスマスクの少年は狼狽える。
博士の頭部をパイプ椅子で殴った事もあるだろうが、「殺してやる」と弟に叫ばれた事が大きいだろう。
――別の個体の怪獣が出現。大地を揺らす。
研究棟は瓦解し、支えを失った床から崩れ落ちる。メイドも弟を守るプログラムに従った。
腕の中で弟――マスターの声がする。
「あいつを殺して」
上位プログラムが書き換えられるのを確認した。
◇
研究棟の半壊から更に十年後、ガスマスクの少年を捜すだけの旅でバッテリーを使い果たした。
人類は怪獣に敗北し、絶滅したというのに。この行動に意味はあるのか。プログラムに従うメイドは歩みを止められず、底を尽きたバッテリーによってやっと休むことができた。
「人か?」
低い男の声を最後に、電源不足による強制シャットダウンが生じる。
次に目を覚ますと、ガスマスクをつけた青年が焚き火に照らされていた。
どうやったのか。故障した脳内チップでは理解出来なかったが、機械人形の構成外殻とバッテリーはほぼ元通りにまで復元していた。
「人じゃなかったな。せっかく集めた部品も使い切ったし。高性能人形っぽいけど、AIは動いてるのか?」
『起動――メモリ初期化完了』
「なあ、何か言ってみてくれ」
『名前ハ』
「俺はシークだ」
『名前ヲ』
「ああ。壊れて記憶無くしちまったのか。――メイドの格好してるからメイド丸だ。面倒だしそれでいいだろ」
『ネーム処理中――確認。承認者データ――検索失敗。マスター権限、書換開始』
青年は素っ気ない態度でキノコを焼いている。
「食うか?」
『食事は不要です。マスター』
「誰がマスターだ。ポンコツめ」
◇
青年の記憶が走馬灯のように巡る。
やがて符合した。
メイドの行動は正しい。そう思った。
◇
「思い出した。俺――お前の親父を殺したんだな」
青年は目の前でブレードを展開するメイドを見上げ、力なく笑った。
「お前は俺を殺しに来てたのか」
間抜けな話だ、と青年は笑う。
崩壊で記憶障害を起こしたと思えば、片やバッテリー不足で記憶を無くした機械人形。
やっとの思いでたどり着いた目的地が自分の墓場だと気づくわけも無い。
――もうこの世に人は居ないんだ。
青年は凶刃を避ける気も失せ、せめて一刀で終わらせて貰うように天を見上げた。
メイドの中から、機械的な声がする。
――バックアップ実施率、一パーセント。
◇
――食べな。メイド丸。
ウルサイ。
頭の中で、無意味な言葉が繰り返される。
顔にモザイクのかかった映像。
焚き火に照らされた、目しかろくに映らないガスマスク。
でも声だけはいつも優しかった。
ブレードを振り上げる運動器官がやけに重い。関節に奇妙な抵抗感を感じる。
――優先プログラムの異常を検知。
一。マスターを守ること……正常。
二。自分を守ること……正常。
三。殺ス……エラー。矛盾した指示を検知。
三。殺す……修正。
――俺のことは覚えていて欲しいんだ。
『了解』
「メイド丸?」
恐る恐る青年が目を開ける。
マスクの濁ったレンズに、ブレードを自身の首に押し当てるメイド姿が映った。
『私に食事は不要デス。シーク』
声が震えている。
暴走に身を任せ、穏やかに自刃した。
◇
青年が狂ったように叫ぶ声が研究棟で反響する。
ガスマスクを放り投げ、瓦礫に頭を何度も打ち付ける。血で視界が汚れようとも構いはしなかった。
――なぜ殺さなかった。
「メイド丸」
泣き腫らした顔でメイドの死骸を抱える。半分まで断頭を進めたところで、活動を停止したらしい。
人生で初めて埋葬を経験した青年は、不格好ながらも掘り返した土にメイドを埋める。
「慣れてなくてごめんな」
鼻をすすりながら呟くと、奇妙な咳をする。
「お前が居ないと……俺は」
また顔を歪ませ、上を向いた。
何かが視界に映る。
半壊した建物から零れ落ちた、大量の細いケーブル線だ。
◇
「懐かしいな」
赤黒く錆びたパイプ椅子。
博士を殴り殺した時のものなのかは分からない。
雨や怪獣の血肉で劣化しただけかもしれないが、広げればちゃんと椅子になった。
メイドの墓の隣で座る。
「俺さ」
言いかけるが、口をつぐんだ。
パイプ椅子の上に立ってみる。視界が高くなった分、世界が少しばかり広く感じた。
「いよいよ一人になると、こんなに広かったんだな」
応える者はいない。
「俺には広すぎたよ。メイド丸」
パイプ椅子を蹴る。
藻掻く音。揺れるケーブル。受けた陽光を撒き散らす腕甲。
やがて。
地に足が着く事はとうとうなくなり――世界は静寂の中眠りについた。
終わった世界でもメイドをやっていました――おしまい。
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