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そうだ、お見舞いに行こう

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 病院では、あからさまな容疑に変わり、杖を持っていないか全身の調べを受けた。マリアや左内さんも例外でなく、杖を一時没収される必要があった。

 結局、彼らは何の手掛かりを掴めず、ハル君を元の部屋に戻し、私達を野放しにする指示を出した。
 
 この機会を逃すまい。私が「朝比奈君も一緒はダメですか?」と口走ったら、「ダメ。早く帰る。また今度」と黒岩は不機嫌になった。

 家に着いても、ハル君に関する複雑な思いだけが浮遊し、明後日からの学校の事は考えられなかった。
 ミズミアに残り、いつでも会える事は嬉しいけれど、彼のこれからを案ずると申し訳ない思いになる。杏奈ちゃんやご両親も、悲しむだろう。

 お母さんへの説明は、左内さんに任せた。
 私自身も、今日昨日の事を消化できていなかった。やりとりは「ハル君は、しばらく残るんだね」という母の言葉に対してだけで、それが良いのか悪いのか相変わらず答えが出ないままだった。

 次の日は、母と地上病院に向かった。
 ハル君は、私が職員でなく親を連れてきたと知って、顔がほころんだ。

「玲禾の面影があるし、そうかなと思ったんだけどね」とおどけたのは、褒め言葉だと捉える事にした。お母さんも、娘と比較され、私以上に喜んでるのが、表情に出ている。彼に好印象を抱いたのは間違いなかった。

 彼は、ミズミアや私のここでの暮らしぶりが気になるみたいで色々質問してきた。
 下野横丁、二校、マホージュ、左内さんとかいう隣人、真莉愛やこのみ、律子ちゃんの話をどれも面白そうに聞いてくれる。

 一番反応が良かったのは、私自身のことだ。
「ちょうど明日から魔法学校に通う」という報告は、向こうの世界から魔法使いが出ることを意味する。二つの世界をまたぐ方が、感覚が麻痺せず、驚きを感じやすいのかもしれなかった。

 塞ぎ込んでいたらどうしようと心配だったから、いつもと変わらない彼にホッとした。私が二人分の明るさで行こうと決めていたのに、反対に彼から元気をもらった形だ。お礼として、暇つぶし用に持って来ておいたマホージュ概説東地区編と魔法界の地図を渡し、左内の真似をして「ミズミアは右側だ」と教えた。

「えっ、それ誰?」
「もちろん、隣人さんよ。南淵左内」質がイマイチのようで、彼に笑われる。
 モノマネでへまをしたのはこれで二回目だ。海辺の時(海辺での酔っ払い)のように悲惨な事が続かないうちに、明日の約束をとりつけ、今日はお別れした。

 これから好きな時に会いに来れるのは、学校に負けないくらいの楽しみになる。
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