182 / 242
東部連合編
一夜
しおりを挟む
魔法使いに二言はない。
北別府や左内と話し終えると、箒の練習に入った。
母への有言実行の後は、北別府や左内との約束に向き合う。つまり、東部連合に対する身の処し方を熟慮していく。
ミズミアへの一時帰還は、良く言って、気分転換。原寸大に言うと、だらだら過ごしただけで、芽湖の様子を観察するという使命が抜け落ちていた。
むしろ、故郷に触れたせいで、離れるのが寂しくなるという負の側面の方が大きい。連合に再合流したら最後、故郷に戻って来れないという不安に気づいた。心の奥に隠していたものを、野ざらしにされた感覚だ。都合良く見ないふりをしてたけど、もうそんな訳にはいかない。
志筑や左内は、現地を動き回って調べているのだろう。八丁幌に戻らないと断言してたのは、何か手掛かりを掴んだ証左だ。一方で、私は連合の皆んながくれた時間を、何もせずに過ごしている。決断を下し、行動に移す時は迫っていた。
隣人が夜ご飯に遊びに来た。老木に三人が集まった機会を生かそうと思った。
東部連合のことを話しても、深刻にはならない。
八丁幌でのほのぼのしていた時の雰囲気が州境を跨いだ。彩粕謁見を、豪華絢爛なお宮に倣うかのように、盛大に誇張して話した。
天井は、天まで届きそうなくらい高く、寝室から会議場までは、街に出歩くくらいの距離があり、三食に加えてモーニングティーやおやつまで至れり尽くせりの絶品が提供された。
浄御原がおかしな作戦を立てた罪で、軟禁処分を科された話は、装飾せずとも、お母さんの心を掴むことができた。(もちろん、おかしな作戦については、守秘義務があるとした)
ハッカキャンディ椅子についてだけは、上手く説明できず、延永の趣味趣向を理解してもらうのに四苦八苦した。
最近の思い出話しに、左内も楽しそうに加わった。その様子からすると、北別府が「今晩、ゆっくり考えるのじゃ」と言ったのは、言葉の綾であろう。
まるで、決断までに今日一日しか残されていないかのような言い方だった。左内のくつろいだ態度は、言葉を額面通りに受け取る必要はないと教えている。
猶予があるとは言え、自分の中で答えは、決まりかけている。三人で過ごした夕食の時間が、尊く感じられたのは、その為だ。ここでの時間は、どこにでもあるわけではない。
今回は、久しぶりに老木で過ごせただけでなく、二校の友達にも再会することができた。特に、人生の節目の一つにいるこのみのそばにいれた。私なりの言葉をかけられた。それだけで、十分にミズミアに帰ってきた意味があると思えた。
正午も半刻ほど過ぎた時、二階に上がった。やはり一日中家の中にいるとなると、身を置く場所も限られてしまう。度々、景色を変えないといられなかった。
澄んだ空の下にあるものは、昨日と変わらないし、いる人も同じだ。確かに、あの人がいる。
視界の片隅の何かに恐る恐る目を向けると、北別府が一人立っていた。
彼は、手招きではなく、左内の家を指差す。何人かの集団が彼の家に入りかけているところだった。誰であるかは分からないが、怪しい人でないのは、その堂々とした姿勢が示している。むしろ、招かれた者の背中に近かったように思う。
誰が来たか、候補を挙げながら部屋を出た。リビングの母には、左内の家に行く、と正直に告げた。
用事を訊かれた時の答えは用意していなかった。幸い、お母さんは何も聞いてこなかった。
北別府は、湖畔のくねり道を渡り切ろうとしていた。彼が反対側の岸に着いた時、私も追いついた。
「まさか、本当に一晩だなんて。」
「一晩じゃ足りなかったかな?」
「いや、その心の準備が…」
「準備なんて一生できんかもしれぬ。行動に移すのみじゃ」
「はあ。先に入られてるのは、正義軍の方なんですか」
「どうかな?中を見れば分かるじゃろう」時と経験を刻んだ瞳は私に向けられた。奥には、先の大戦も含まれている。彼はぼろ木の扉に、そして待ち受ける未来に手をかけた。
北別府や左内と話し終えると、箒の練習に入った。
母への有言実行の後は、北別府や左内との約束に向き合う。つまり、東部連合に対する身の処し方を熟慮していく。
ミズミアへの一時帰還は、良く言って、気分転換。原寸大に言うと、だらだら過ごしただけで、芽湖の様子を観察するという使命が抜け落ちていた。
むしろ、故郷に触れたせいで、離れるのが寂しくなるという負の側面の方が大きい。連合に再合流したら最後、故郷に戻って来れないという不安に気づいた。心の奥に隠していたものを、野ざらしにされた感覚だ。都合良く見ないふりをしてたけど、もうそんな訳にはいかない。
志筑や左内は、現地を動き回って調べているのだろう。八丁幌に戻らないと断言してたのは、何か手掛かりを掴んだ証左だ。一方で、私は連合の皆んながくれた時間を、何もせずに過ごしている。決断を下し、行動に移す時は迫っていた。
隣人が夜ご飯に遊びに来た。老木に三人が集まった機会を生かそうと思った。
東部連合のことを話しても、深刻にはならない。
八丁幌でのほのぼのしていた時の雰囲気が州境を跨いだ。彩粕謁見を、豪華絢爛なお宮に倣うかのように、盛大に誇張して話した。
天井は、天まで届きそうなくらい高く、寝室から会議場までは、街に出歩くくらいの距離があり、三食に加えてモーニングティーやおやつまで至れり尽くせりの絶品が提供された。
浄御原がおかしな作戦を立てた罪で、軟禁処分を科された話は、装飾せずとも、お母さんの心を掴むことができた。(もちろん、おかしな作戦については、守秘義務があるとした)
ハッカキャンディ椅子についてだけは、上手く説明できず、延永の趣味趣向を理解してもらうのに四苦八苦した。
最近の思い出話しに、左内も楽しそうに加わった。その様子からすると、北別府が「今晩、ゆっくり考えるのじゃ」と言ったのは、言葉の綾であろう。
まるで、決断までに今日一日しか残されていないかのような言い方だった。左内のくつろいだ態度は、言葉を額面通りに受け取る必要はないと教えている。
猶予があるとは言え、自分の中で答えは、決まりかけている。三人で過ごした夕食の時間が、尊く感じられたのは、その為だ。ここでの時間は、どこにでもあるわけではない。
今回は、久しぶりに老木で過ごせただけでなく、二校の友達にも再会することができた。特に、人生の節目の一つにいるこのみのそばにいれた。私なりの言葉をかけられた。それだけで、十分にミズミアに帰ってきた意味があると思えた。
正午も半刻ほど過ぎた時、二階に上がった。やはり一日中家の中にいるとなると、身を置く場所も限られてしまう。度々、景色を変えないといられなかった。
澄んだ空の下にあるものは、昨日と変わらないし、いる人も同じだ。確かに、あの人がいる。
視界の片隅の何かに恐る恐る目を向けると、北別府が一人立っていた。
彼は、手招きではなく、左内の家を指差す。何人かの集団が彼の家に入りかけているところだった。誰であるかは分からないが、怪しい人でないのは、その堂々とした姿勢が示している。むしろ、招かれた者の背中に近かったように思う。
誰が来たか、候補を挙げながら部屋を出た。リビングの母には、左内の家に行く、と正直に告げた。
用事を訊かれた時の答えは用意していなかった。幸い、お母さんは何も聞いてこなかった。
北別府は、湖畔のくねり道を渡り切ろうとしていた。彼が反対側の岸に着いた時、私も追いついた。
「まさか、本当に一晩だなんて。」
「一晩じゃ足りなかったかな?」
「いや、その心の準備が…」
「準備なんて一生できんかもしれぬ。行動に移すのみじゃ」
「はあ。先に入られてるのは、正義軍の方なんですか」
「どうかな?中を見れば分かるじゃろう」時と経験を刻んだ瞳は私に向けられた。奥には、先の大戦も含まれている。彼はぼろ木の扉に、そして待ち受ける未来に手をかけた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
7
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる