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東部連合編

貯蓄

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「彼については、全体でも対策を共有するとして、力を合わせる必要があるのは、塔にたどり着くまでもだ。特に、塔を防壁を越えるのに一山あることは知っておいて欲しい」左内が言った。地下街建築について語るときの得意げな顔は、頭の中には明確な答えがあるあらわれだ。

 左内の話が退屈しのぎになり、遅番はつらくなかった。二日目で、ちょっとした慣れもあっただろう。眠った後の当番で、睡魔という難敵と戦わずに済んだのも大きい。
 ただ、婆娑羅や旗軍が来なかったのを当然だと思い始めた節があり、自省というお土産はついた。それぞれが互いの命に対して、責任を負うことによって、連合は成立している。私だけいい加減に任務をこなす訳にはいかない。

 非番の起床が、一仕事を終える合図だ。緊張が抜けると、日の出とともに眠気が顔を出す。非番の井上と、目が覚めた、と言う東田さんのご厚意に甘えて、仮眠をとらせてもらった。

 休息した脳は、小笠原さんの十八番を想い出したが、その時は睡眠十分で、睡眠貯蓄に参加することはできない。すれ違いが、我ながら面白かった。

 もちろん、自然の眠りに勝るものはない。体が回復した分は、道中の戦いで貢献するべきだ。
 状態の良い体を資本に、一日最善を尽くす。そしたら、体が疲れて、泥のように眠ることができる。
 なんせ、役場やお宮で、腕を磨いてきた。万全の状態でいられたら、連合を引っ張るくらいでいられる。彩粕の杖を経由してではなくて、正攻法で任務に貢献するのが一番だ。

 ただ、連合の性質上、夜通し安静というわけにはいかない。次の夜、真ん中の夜勤を井上と担当すると決まった時に、その事実に突き当たった。
 深い寝むりの最中に起こされるし、井上からは気が紛れる学びを期待できない。婆娑羅との戦闘が体に刻まれていなければ、寝落ちは確実だった。
 長く苦しい夜は、小分けの睡眠ではごまかせない。中番や井上の役割には、睡眠魔法に協力することも含まれるのだ。

 北進の歩調は変わらないか、多少速くなっている。婆娑羅への警戒とともに、延永将軍との協力が念頭にあるのは間違いなかった。
 一週間もしないうちに、脊椎山脈を北に渡り切らなければいけない。後半急ぐと、イツクンでの任務に支障をきたす恐れがある。途中で何が起きるか分からないという意味でも、進めるうちに進んでおきたい。前半に距離の貯金をして、後半は調整ながら進むのが理想だ。
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