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シグマス編 ~出会い~
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飛行船が停止しても、誰も動けなかった。
操縦席にいた彼が力を抜き、大きなため息を付いて、やっと我に返ったのだ。
「…停まっ…た?」
「着陸…したのか…?」
「…生きてる…」
イサも大きな息を吐き、身体の力を抜いて、イスにもたれ掛かった。
大丈夫だと分かっていても、実際に眼にして体験すると、余分な力が入ってしまう。
「管制塔に報告を!」
彼がそう言ってたので、通信画面の前にいた男が慌てて通信を繋げ、この後の段取りの指示を受けていた。
イサは震える手で座席のベルトを外すと、通信画面からサクラさんの声がした。
『イサ!その男を逃がさないでね!』
その男とは彼の事だろうか?
「分かりました!」
イサは返事すると、震える足を叱咤し、操縦席から降りてきた彼の腕を掴んだ。
「おい…」
慌てる彼にイサは微笑み掛ける。
「サクラさんの指示です。逃がさないでと言われました」
「…逃げないぜ…」
彼は戸惑った様にこちらを見る。
「下船の準備が出来ました」
「ありがとうございます」
船内にいた男達が頭を下げてお礼を言ってくる。
「俺もまだ、死にたくないからな…」
そう言って、彼らに苦笑いしている。
「では、僕達は降りますね」
イサは、男達に頭を下げて、彼の腕を引っ張って船室を出ていった。
まずは借りていた部屋へ戻り、荷物を持って、彼に『荷物は?』と聞くと、無いそうなので、そのまま船を降りることになった。
飛行船の扉が開いたのか、柔らかな風が船内に吹き込んでくる。
イサは青年と一緒に出入りに向かい、飛行船の出入り口から外を見ると、いくつもの消火機器と輸送車が見え、その奥に連合軍の送迎車も見えた。
イサは青年の手を引っ張りながら、外側から接続された階段を降りていく。
「…そう言えば、荷物置き場の乗客を、縛ったままだった…」
不意に彼がそんな事を呟いた。
「えっ?!」
イサは思わず足を止めて彼を見る。
「ギャアギャアうるさかったからな…」
「…。」
それで納得した。
騒いでパニックになる乗客は、彼が押さえ込んでいたのだ。
だから余計な事に気を取られず、無事に着陸出来たのだとイサは自分に言い聞かせた。
取り敢えず、縛られている乗客の説明を報告しよう…。
イサは止めた足を動かし、彼と共に地上に降り立った。
イサは彼の手を離さないように繋いだまま、地上にいた救出部隊の人達に、中にいる乗客の説明をして、後の事は任せて、奥の方に控えている連合軍の送迎車の方に向かって歩き出した。
彼はおとなしく黙って付いてくる。
ちょっと気になって、彼の方を振り向くと視線が合い、彼に微笑まれる。
…なぜかドキドキして、慌ててメタルシルバーの送迎車の方を見た。
いつの間にか送迎車の側に、イサと同じシルバーブルーの制服を来た青年が立っていて、扉を開けて待っている。
きっと送迎車にはサクラさんが乗っている…。
また、心配を掛けてしまったな…。
イサはそんな事を思いながら、送迎車の側に来ると、見知った青年に促されて車の中に乗り込んだ。
そして彼も乗り込むと扉が締められ、送迎車が連合軍の本部に向かって走り出した。
予想通り送迎車には、顔を歪めるサクラさんが座っていて、イサが座席に座る間もなく、腕を引っ張られ、サクラさんの腕の中に閉じ込められた。
もれなく彼と手を繋いだままだったので、彼も一緒に引き寄せられ、サクラさんが彼を睨み付ける。
イサは慌てて手を離し、彼は疲れた様子で座席にドンと座った。
「無事で良かったわ」
サクラさんがギュと抱き締めてくる。
…く、苦しい…。
心配掛けたのは謝るので、手加減して下さい…。
「…サクラ、お前の男か?」
彼が変なことを言う。
男って…?
「…弟分よ。イサの保護者なの」
サクラさんが怖い顔をして、彼を睨み付けている。
なんとか腕を緩めてもらい、サクラさんの隣に座ると、彼と向かい合って座ることになった。
「…イサ、疲れているだろうけれど、本部に戻ったら報告書をお願いね。空港を封鎖した経緯を報告しなくてはいけないから」
「はい。…あの、船員に気になることを聞いたんですけど、今回の事に関係するかは分からないですが…」
イサは船員に聞いた積み荷の話と技術者が乗船していた話をする。
「そうね、一応、報告書に書いておいて」
「分かりました」
帰ったら、まずは急ぎの連絡が無いか確認して、今回の報告書を書いて、やっと部屋で眠れる。
「…それより貴方は、今まで連絡も無く何処に行っていたの?」
サクラさんが彼をじっと見ると、彼は罰が悪そうに顔を背けて頭をグシャグシャとかく。
「…ああ、国境が封鎖されて、別ルートから遠回りして帰って来たんだ。後で話す」
彼はそう言って、苦悶の表情で黙った。
ここでは話せない内容なのだろう…。
誰が聞いているか、分からないから…。
しばらく沈黙が続くと、国交連合軍の本部がある建物の正面の玄関に車が停まった。
扉が開けられ、サクラさんが出ると彼が後に続き、イサが最後に降り、彼はサクラさんに引きずられるように本部の建物の中に入って行った。
いつものサクラさんと違う…。
気楽な友人とやり取りしているみたいだ。
イサは背伸びをすると報告書を書くために、本部の建物へと入って行った。
操縦席にいた彼が力を抜き、大きなため息を付いて、やっと我に返ったのだ。
「…停まっ…た?」
「着陸…したのか…?」
「…生きてる…」
イサも大きな息を吐き、身体の力を抜いて、イスにもたれ掛かった。
大丈夫だと分かっていても、実際に眼にして体験すると、余分な力が入ってしまう。
「管制塔に報告を!」
彼がそう言ってたので、通信画面の前にいた男が慌てて通信を繋げ、この後の段取りの指示を受けていた。
イサは震える手で座席のベルトを外すと、通信画面からサクラさんの声がした。
『イサ!その男を逃がさないでね!』
その男とは彼の事だろうか?
「分かりました!」
イサは返事すると、震える足を叱咤し、操縦席から降りてきた彼の腕を掴んだ。
「おい…」
慌てる彼にイサは微笑み掛ける。
「サクラさんの指示です。逃がさないでと言われました」
「…逃げないぜ…」
彼は戸惑った様にこちらを見る。
「下船の準備が出来ました」
「ありがとうございます」
船内にいた男達が頭を下げてお礼を言ってくる。
「俺もまだ、死にたくないからな…」
そう言って、彼らに苦笑いしている。
「では、僕達は降りますね」
イサは、男達に頭を下げて、彼の腕を引っ張って船室を出ていった。
まずは借りていた部屋へ戻り、荷物を持って、彼に『荷物は?』と聞くと、無いそうなので、そのまま船を降りることになった。
飛行船の扉が開いたのか、柔らかな風が船内に吹き込んでくる。
イサは青年と一緒に出入りに向かい、飛行船の出入り口から外を見ると、いくつもの消火機器と輸送車が見え、その奥に連合軍の送迎車も見えた。
イサは青年の手を引っ張りながら、外側から接続された階段を降りていく。
「…そう言えば、荷物置き場の乗客を、縛ったままだった…」
不意に彼がそんな事を呟いた。
「えっ?!」
イサは思わず足を止めて彼を見る。
「ギャアギャアうるさかったからな…」
「…。」
それで納得した。
騒いでパニックになる乗客は、彼が押さえ込んでいたのだ。
だから余計な事に気を取られず、無事に着陸出来たのだとイサは自分に言い聞かせた。
取り敢えず、縛られている乗客の説明を報告しよう…。
イサは止めた足を動かし、彼と共に地上に降り立った。
イサは彼の手を離さないように繋いだまま、地上にいた救出部隊の人達に、中にいる乗客の説明をして、後の事は任せて、奥の方に控えている連合軍の送迎車の方に向かって歩き出した。
彼はおとなしく黙って付いてくる。
ちょっと気になって、彼の方を振り向くと視線が合い、彼に微笑まれる。
…なぜかドキドキして、慌ててメタルシルバーの送迎車の方を見た。
いつの間にか送迎車の側に、イサと同じシルバーブルーの制服を来た青年が立っていて、扉を開けて待っている。
きっと送迎車にはサクラさんが乗っている…。
また、心配を掛けてしまったな…。
イサはそんな事を思いながら、送迎車の側に来ると、見知った青年に促されて車の中に乗り込んだ。
そして彼も乗り込むと扉が締められ、送迎車が連合軍の本部に向かって走り出した。
予想通り送迎車には、顔を歪めるサクラさんが座っていて、イサが座席に座る間もなく、腕を引っ張られ、サクラさんの腕の中に閉じ込められた。
もれなく彼と手を繋いだままだったので、彼も一緒に引き寄せられ、サクラさんが彼を睨み付ける。
イサは慌てて手を離し、彼は疲れた様子で座席にドンと座った。
「無事で良かったわ」
サクラさんがギュと抱き締めてくる。
…く、苦しい…。
心配掛けたのは謝るので、手加減して下さい…。
「…サクラ、お前の男か?」
彼が変なことを言う。
男って…?
「…弟分よ。イサの保護者なの」
サクラさんが怖い顔をして、彼を睨み付けている。
なんとか腕を緩めてもらい、サクラさんの隣に座ると、彼と向かい合って座ることになった。
「…イサ、疲れているだろうけれど、本部に戻ったら報告書をお願いね。空港を封鎖した経緯を報告しなくてはいけないから」
「はい。…あの、船員に気になることを聞いたんですけど、今回の事に関係するかは分からないですが…」
イサは船員に聞いた積み荷の話と技術者が乗船していた話をする。
「そうね、一応、報告書に書いておいて」
「分かりました」
帰ったら、まずは急ぎの連絡が無いか確認して、今回の報告書を書いて、やっと部屋で眠れる。
「…それより貴方は、今まで連絡も無く何処に行っていたの?」
サクラさんが彼をじっと見ると、彼は罰が悪そうに顔を背けて頭をグシャグシャとかく。
「…ああ、国境が封鎖されて、別ルートから遠回りして帰って来たんだ。後で話す」
彼はそう言って、苦悶の表情で黙った。
ここでは話せない内容なのだろう…。
誰が聞いているか、分からないから…。
しばらく沈黙が続くと、国交連合軍の本部がある建物の正面の玄関に車が停まった。
扉が開けられ、サクラさんが出ると彼が後に続き、イサが最後に降り、彼はサクラさんに引きずられるように本部の建物の中に入って行った。
いつものサクラさんと違う…。
気楽な友人とやり取りしているみたいだ。
イサは背伸びをすると報告書を書くために、本部の建物へと入って行った。
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