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シグマス編 ~出会い~

エレベーター

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 急に開いた扉の先にいたのは、先ほどまで一緒にて、サクラさんに連れていかれた、疲れた様子の彼だった。
 向こうもこちらに気が付いて、微笑んでくる。
「悪いな」
「いえ…」
 彼の微笑みにドキリとして、イサが少し緊張して答えると、彼がエレベーターに乗ってきて、イサの隣に来ると、ゆっくりと扉が閉まり動き出した。
 イサはふと、気になっていた事を聞いた。
「あの…」
 イサが声をかけると彼がこちらを見下ろす。
 頭一つ分位、イサより背が高い。
「…もしかして、サクラさんと一緒に『飛行船の悪夢』に同乗してましたか?」
 彼は驚いた様に眼を丸くし、口許が笑う。
「ああ。あの時は、本当に死ぬかと思った」
 やはり『飛行船の悪夢』に乗っていたのだ。
 もしかして、その時も、操縦桿を握っていたのは彼なのだろうか…。
「…それよりお前、本当にサクラの男では無いのか?」
「…イサです。…サクラさんの男って?」
 そう言えば、名乗ってなかった…。
 それに、飛行船に乗っていたときも、そんな事を言っていたけれど…。
「…ああ、恋人って意味だ」
 まじまじとイサを見ながらそう言う。
 なぜそうなる…。
 イサは頭を抱えた。
「…違います。サクラさんは僕の保護者で、身元引き受け人です」
 サクラさんは姉のような存在。
 過保護なくらい、僕を心配してくれる。
 身寄りの無い僕に、頼れるのはサクラさんだけだ。
「…そうか」
 何が言いたいのか分からなく、イサが首を傾げると、エレベーターが止まり扉が開き、彼が出て行こうとする。
「あの…名前…教えてもらえますか」
 イサは何故か、引き留めなくては行けないような気がした。
 彼は足を止めて振り返りイサを見る。 
「…カイトだ」
「…また、会えますか?」
 イサがそう言うと、彼は苦笑いして言う。
「…しばらくシグマスにいるから、また会えるんじゃないか」
 彼がそう言うと、イサはホッとして微笑んだ。
 また、会えるかも知れない…。
 特に話すことは無いのだが、何故か懐かしい気がしたからだ。
 …何処かで会っただろうか?
 同じ国交連合軍に所属しているのだから、何処かですれ違っているのかも知れない…。
「それでは、また何処かで」
 イサがそう挨拶すると、彼、カイトの顔がイサの正面に有った。
 えっ…?
 イサが驚いた瞬間、イサの唇に何かが触れ、幾つもの映像がイサの中に流れてくる。
 『先読み』だ…。
 何故、今なのか…。
「…ごちそうさま」
 遠くでそんな事を言った、カイトの声が聞こえた気がした。
 カイトはイサの様子がおかしいことに気が付かず、イサから離れてエレベーターを出ていく。
 イサは動けなくなって、そのまましゃがみこみ、エレベーターの扉が閉まるのを見た。
 
 
 二つの未来が見えた…。
 分岐点…。
 …全く正反対の未来…。
 

 イサは呼吸を整え、ゆっくりと立ち上がる。
 エレベーターは停まったまま。
 荷物を持って扉を開けて、エレベーターから外に出る。
 そして建物の外へ向かうが、もうカイトの姿は無かった。
 多分、近くの駅に向かったのだろう…。
 イサは本部の建物から離れ、道路を挟んで向かい側に有る、職員の住宅街…自分の部屋が有る寮に向かった。
 足取りは重い…。
 さっき見た『先読み』のせいだ。
 ダルタルへ向かう飛行船に、カイトが一緒に乗ると言う条件が見えた。
 そして、一緒に乗らなければ、飛行船はシグマスへ帰れない…。
 きっと今回のように、何かが起こるのだろう。
 そして、それに対応出きるのは、きっとカイトだからだろう…。
 帰って来たばかりだが、明後日、一緒に飛行船に乗ってくれるだろうか…。
 もし、カイトが一緒でなければ…僕はシグマスに帰ってこれない…。
 それだけは確実…。

 一緒に飛行船に乗ってもらうとしたら、カイトにお願いしなくてはいけない…。
 そう言えば…彼の住んでいる場所を知らない…。
 職員の住宅街に住んでいるのならば、あの時まだ、姿が見えたはず…。
 電車に乗るならば、住宅街とは方向が逆なので、駅の構内に入って、見えなかった可能性がある。
 イサが考えを巡らせている内に、寮の前まで来ていた。
 イサは寮の中に入り、食堂で昼食をもらうのを忘れて部屋へ直行する。
 どうしよう…。
 部屋に入り荷物を置くと、ベッドの上に寝転がった。
 どうしよう…。
 しばらく考えていたが、思考がまとまらない…。

 イサは頭を冷やすのも兼ねて、シャワーを浴びながら自問した。
 シグマスに帰ってきたい。
 家族はいないが、家族同然に面倒をみてくれるサクラさんのもとが、僕の帰る場所…。
 だったら、カイトに一緒に飛行船に乗ってもらうしかない…。
 そしてカイトが嫌だと言ったら…覚悟を決めるしかない…。
 もう、シグマスには、二度と帰れないのだと…。



 

 
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