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シグマス編 ~出会い~

追跡

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 イサの覚悟が決まれば、直ぐに行動に出た。
 イサは着替えて、買い物用の鞄を肩から担ぎ、急いで部屋を出た。
 今ならまだ間に合う…。
 僕のもう一つの能力『追跡』。
 少し前の過去の残像を追うことが出きる。
 意識的に左目だけを切り替えて、目標物のカイトを強く思って、左目でカイトの残像が、たどった道を追いかける…。
 時間が過ぎれば追うことが出来ないが、きっとギリギリ残像を追えるだろう。

 左目で過去の残像を…。
 右目で今の現実を…。

 なれるまでは頭が処理しきれず、眼が回りそうで、翌日、だいたい熱を出していた。
 今は加減が分かるので、少し頭痛がするくらいで終わっている。
 『追跡』を使うと眼の色が虹色に変わるので、少し色のついた色眼鏡をかけて、イサはカイトの残像を追った。
 

 近くの駅は終点で、国交連合軍に関係する者達が乗り降りしている。
 そこからカイトは電車で街に向かっていた。
 カイトが乗ったのは見えたが、何処で下りたのだろう…。
 イサは電車に乗り込み、カイトがいた場所に立ち、下りる残像を見逃さないように外を眺める。
 国交連合軍の駅から貨物船の駅、旅客船の駅、整備場の駅を通りすぎ、窓から住宅街が見え始める。
 イサはぼんやりと、電車内からの風景を眺めた。
 
 終点ひとつ前の駅で、カイトが降りる残像が見えて、イサは慌てて電車を降りた。
 何処に向かうのだろう…。
 階段を降りて、少し歩くと上って、違う路線に乗り換えのようだ。
 イサはカイトが乗った電車に乗り、行き先を見る。
 都心から少しは慣れた街を経由して、山側の街に向かう路線だ。
 電車の扉が閉まり、動き出す。
 街中を走り、しばらくすると住宅が減り始め、田園風景が広がり、直ぐに住宅が増え始め、電車は隣街へと入っていった。

 
 再びカイトの後ろ姿の残像が、駅のホームに見えたのでイサは急いで降りた。
 改札を抜け、駅前の車道を渡ると、そこから市場が広がっていた。
 いくつもの露店が建ち並び、野菜や果物、肉や魚、惣菜にパン、飲み物などが売られていて、人が行き交っている。
 カイトの残像が市場の中で見え隠れして、見過ごさないように後を付いていくが、美味しそうな匂いに誘われて、思わず足を止めてしまった。
 そう言えば、お昼ごはんを食べて無かった…。
 イサは残像が歩く方向を確認して、屋台でホットドッグと飲み物を買い、慌てて後を追う。
 カイトも買い物をしていたのか、さっきの場所からあまり進んではいなかった。
 イサはホットドッグを噛りながら、行き交う人にぶつからないようにして、残像を追いかけて行った。
 カイトの残像は、途中で果物を買い、ゆっくりと市場の奥へと進んでいく…。
 人混みを避けながら市場の終点まで来ると、道を渡って地下道へ入り、まるで迷路のような道を右へ左へと進んでいく。
 何処に出るのだろうと、思いながら進み、しばらく歩いて地上に出ると、イサはその風景に驚いた。
 目の前の道路の向こう側に、草原の様な平地が現れ、奥にポツンと一軒の屋敷がたたずんでいる。
 振り向けば、地下道の入り口がある場所の回りには、いくつもの家があって、思わずホッとした。
 道路からこっち側は普通の住宅街だ。
 カイトの残像が屋敷に向かって歩いていく…。
 あそこに住んでいるのか…?
 良く見ると、屋敷に向かう車道は別に有るみたいで、向こうの方に、道が整備されている所がある。
 イサはドキドキしながら屋敷に向かって歩き出した。

 道が無い草原に、くるぶし丈の短い草が踏まれて倒れている場所があり、小さな獣道になっているのが、カイトが歩いた場所なのだろう。
 イサはその後をサクサクと音をたてて歩いた。
 もともと何か建物が有ったのか、瓦礫と建物の土台が草の中から所々で見え隠れしている。
 なので少し歩きにくい…。
 屋敷の前には、やはり道路が付いていて、道は屋敷の中へと続いていた。
 イサが大きな屋敷の前にたどり着くと、屋敷の門は開いていて、周囲は柵で囲まれ、奥に小さな畑が見える。
 人が住んでいるのは確か…。
 門から屋敷までの距離は五十メートルほど…。
 古い二階建ての屋敷だが、整備はされて傷んだ所は見当たらない。
 イサは大きく深呼吸して声をかけた。
「こんにちわ」
 辺りにイサの声が響いても、返事は無い。
 意を決してイサは屋敷の敷地に足を踏み入れた。
 その瞬間、チリチリと右手に静電気が走ったように、小さな衝撃が来る。
 もしかして、防犯用の結界?
 まあ、大きな屋敷だから防犯の為に、取り付けてあってもおかしくはない。
 でも無用心だよね…。
 屋敷の門が開いたままなのだから…。
 イサはそんな事を思いながら、屋敷の入り口へ、たどり着いた。
 さっきので、誰が出て来るかと思ったが、誰も来ない。
 中で待ち構えている?
 イサは緊張しながら小さく息を吐き、扉を叩き開いた。
「こんにちわ」
 
 


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