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シグマス編 ~出会い~

小型の飛行船

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「クソッ…」
 カイトは再び悪態を付いて部屋を出て、庭の奥に有る格納庫に向かった。

 この屋敷の敷地には緊急用の小型の飛行船が有る。
 二人乗り用の飛行船は、急遽、連合軍に向かうときに使用し、連合軍第一の屋上にある、小型飛行船の離着陸用の停泊させる場所へと向かう。
 屋敷から少し離れた大きな格納庫に来ると、屋敷に住む小型飛行船を管理しているラバードがいて、小型の飛行船を運転して格納庫から出していた。
 そしてカイトの姿を操縦席から見つけると微笑んできた。
「さっきの爆発で、召集だろ?」
「…召集はかかってないが、気になるから向かう」
 ラバードが、召集がかかるだろうと準備してくれていたのは有難い。
 ラバードは自分の休日に、屋敷内の小型の飛行船、魔動車など魔石を使用した機械の整備を担当してくれている。
 魔石の機械を触るのが好きで、整備するのは趣味だと言って気が向くと格納庫や車庫にこもっているのが日常だ。
 今日、ラバードが休日で屋敷にいてくれて良かった。
 そうでなければ、自分で運転しなくてはいけない。
 落ち着きが無い…苛立ちがある状態で飛行船の運転は、墜落の危険性が有るから、カイトはあまり運転したくなかった。
 …落ち着きが無い…と、自覚は有る…。
 だから爆発した飛行船には、イサが乗っていなかったと確認できれば、きっと俺は通常の状態に戻るだろう…。
 カイトは格納庫から出された飛行船の後部座席に乗った。
 
 
 小型の飛行船は直立離発着なため、一気に身体に重力がかかる。
 これに耐えられなければ小型の飛行船には乗船出来ない。
 ラバードもカイトも連合軍で重力の訓練をしているから、気絶することは無い。
 飛行船が上空に浮かび上がり、一定の高さになると、一気に加速して連合軍本部に向かった。
 魔動車より早く、十分もすれば連合軍本部の屋上が見えてくる。
 ラバードは着陸許可を取り、ゆっくりと屋上に着陸した。

「しばらく待ってるか?」
 帰りの事を言っているのだろ。
 何もなければ、とんぼ返りすることになるだろう。
 カイトは一瞬悩んで、待っててくれるようにお願いした。
 何もないはずだ…。
 乗っていないはずだ…。
 カイトはそう思いながら、サクラがいる部屋を目指した。


 連合軍第一の三階に有るサクラの部屋に入ると、サクラは疲れた様子でソファーに寄りかかっていた。
 カイトに気が付いたサクラは、『何しに来た』と、ばかりに、こちらを睨み付ける。
「…呼び出した覚えは無いけれど」
「…あの飛行船はダルタル行きだったのか?」
 カイトは率直に聞く。
「…そうよ」
 カイトは青ざめサクラに詰め寄る。
「…王女は搭乗してないわ」
 そんな事を聞きたいわけではない…。
「…アイツは…」
「…誰の事?」
 サクラが意地悪い顔をして、カイトを睨み付ける。
 ああ、分かってて言ってるな…。
「…イサだよ!」
 カイトはイライラしながら、怒鳴った。
 サクラは呆れた顔をして、苦笑いする。
「…生きてるわよ。『先読み』が有ったから、王女は搭乗しなかったのだから…」
「そうか…」
 カイトはホッとしてソファーにドンと座る。
 安否は確認できた。
「…ただ、意識を失ったまま、眠っているけれどね」
 そのサクラの答えにカイトは目を見開いた。
「…どういう事だ!?」
「どうもこうも、『先読み』をした後、倒れて未だに目が覚めないのよね…」
「…。」
 眠ったまま…。
 いずれ意識は戻ってくるだろうが…。
「…そう言えば、『貴方と一緒に飛行船に乗らなければ、イサは帰ってこれない』って聞いたのだけれど、イサをシグマスに無事に連れて帰るため、一緒に飛行船に乗る気は無いの?」
「…何の話だ…」
 …俺と一緒に飛行船に乗らなければ、イサがシグマスに帰ってこれない?
 そう言えば、イサが言っていた。
 一緒に飛行船に乗って欲しい…と。
『…次の仕事。貴方も一緒に飛行船に乗ってもらえないかと思って…会えなくなると寂しい…』と…。
 理由は聞かなかった。
 イサも話さなかった。
「…『囚われて帰ってこれない』そう言っていたわ」
「…。」
 囚われて…。
 どう言った意味の『囚われて』なのか分からないが、二度と帰ってこれないかもしれないと、言うことか!?
 カイトは頭を抱えた。
 帰ってきたら、一緒にテーマパークや水族館に連れて行こうと思っていたカイトには衝撃だった。
 …また、後悔するところだった。
 カイトは大きなタメ息を付いてサクラに聞く。
「…どこに居る」
「…上の階の客室よ」
 カイトはソファーから立ち上がり、部屋を出ていこうとすると、サクラが声をかけてきた。
「…イサと一緒に飛行船に乗ってくれないかしら」
「…。」
 カイトは返事をせずに、サクラの部屋を出た。




 
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