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シグマス編 ~出会い~

戻る…。

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 互いに欲求を満たし、小さなベットの上で、カイトの上に抱えられながらイサは横たわっていた。
 身体の落ち着きを降り戻し、触れているカイトの温もりにイサは眠たくなってきてしまったが、イサは確認しなくてはいけないことが有った。
「…どうして僕を拐ってしまったの?」
 別にそんなこと、しなくても良かったのに…。
 あのまま、もう会わないと思っていたのに…。
「…わからない」
 カイトは苦笑いしながら右手を伸ばし、イサの頬に触れ、左耳に付いている耳飾りに触れた。
 くすぐったい…。
「…なんかこう…衝動的に…だな…」
 言葉を切って、どう言えば良いのかカイトは悩んでいたが、ポツポツと話し出した。
「テーマパークや水族館に連れていってやろうと思ったのに…帰れなくなる…なんて聞いて、飛行船に乗らなければ…って思って…気が付いたら、イサを抱えて飛び出していた…」
 カイトは気まずそうにそう言う。
 テーマパークや水族館に…?
 連合軍に送ってもらった時、そんな話をしていた…。
 帰って来たら、連れていってやると…。
 えっと…ソレって…。
「…どういう意味?」
 行った事がない場所へ行くのは楽しみだが、確か二人で出かけることを、ルームメイトがデートって、言っていたような…。
 でもソレって好きな人と一緒に出かける…だったよね…。
 …僕が一方的にカイトさんを好きなだけだけど…。
 カイトは頭をかき出す。
「…その…特別…って事だ…」
「…。」
 特別と言われても、いまいちハッキリしない…。
 …僕の事を気に入っているとは言ってくれたが…。
 カイトさんが、僕の事を好きになっているなら嬉しいが…。
「…俺の事…好きか…?」
 どうして、そう聞いてくる?
「…えっと…言わない。…言葉は貴方を縛る」
 『好き』と言ったところで、カイトは一緒に飛行船に乗ってくれるわけでもない…。
 言葉にして伝えてしまうと、閉じ込めようとしていた思いが溢れてしまいそうだ。
「…一緒に飛行船に乗ると言ったら、答えてくれるか?」
 イサは目を見開いてカイトを見る。
 本当に?
 一緒に飛行船に乗ってくれるの?
 また、シグマスに帰ってこれるの?
 イサは嬉しくてカイトの肩にしがみつき、耳元で囁いた。
「…好き。一緒に居たい…」 
「一緒に飛行船に乗ってやる。だからお前は俺のモノだ」
 カイトが嬉しそうに言い、イサの身体を抱き寄せると、イサの耳元からサクラの声が聞こえてきた。
『このバカ!!』
 えっ?サクラさんの声…?
『ちゃんとイサに「好き」って言いなさい!!』
 そうだ、試作品の発信通信機を付けたままだ…。
 もしかして、今までの会話、筒抜け?!
『そんな、のらりくらりとした言い方ばっかりだから、イサが不安になるでしょう!!』
「…イサ…?」
 カイトが青ざめてイサに問う。
「…どうなってる…?」
「…耳飾りが発信通信機になっていて…起動していないはずだけど…」
 そしてふと思い出す。
 さっき、カイトが耳飾りを触っていた!!
 もしかして、その時に起動してしまった?
 …その前から起動してないよね…。
 カイトさんと、ヤってたのが筒抜けだと、恥ずかしいよ…。
 イサは頬を染め、カイトの胸に顔を埋めた。
『…ソレよりカイト。自分で戻ってくるか、連行されて連れ戻されるのと、どちらが良い?』
 楽しそうな、怒っているようなサクラさんの声が聞こえる。
 サクラさん、選ばせてくれるんだ…。
 居場所、発信器付いてるから、分かっているもんね…。
 てか、もしかして、連行しようと近くに待機されている?
「…戻ります」
 カイトは疲れた様子で頭を押えた。
 

 イサとカイトはシャワーを浴びて、テーブルの上に置いてあった軽食を、カイトと半分個して食べると部屋を出た。
 イサは外の明るさに目を細め、時間を見て驚いた。
 今朝、飛行船が爆発して、それからあまり時間が経過していない…。
 時間的にもまだ、昼間だったんだ…。
 真っ昼間からヤってたんだ…僕達…。
 イサは思い出して頬を染めた。
「物足りないから、屋台で遅い昼飯を食べて、連合軍に戻るぞ」
「うん」
 吹っ切れたのか、何か割りきったのか、カイトはイサの手を繋いで歩く。
 慣れなくて、僕の方が恥ずかしい…。
 でも手を離したくなくて、嬉しくて、少しうつ向きながらカイトの隣を歩いた。


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