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最終話
しおりを挟むたっぷり時間をかけて黄色の保管作業を終え、僕たちは特殊個体保管室から退室した。
これで『メロメロキュンキュンで仲間割れだぞ』作戦は完了だ。
そのまま自室に戻り、僕は頭を抱えたくなった。
(ずっとついてくる)
僕が黄色を基地に連れ帰ってからずっといる。
特殊保管室でも無言のままずっといた。
あの『兄弟愛』を見ても1言も喋らない。
振り返っても姿が捉えられない。
でもいる。
いつも以上に甘ったるい匂いを撒き散らしている。
そのくらい機嫌が悪いままずっと無言で僕の背後に引っ付いている上司を、どうにかしなければ。
(これは久しぶりに、全力のご機嫌取りをしないといけないかもしれない)
僕は尊厳を捨てる覚悟を決め、片手を上げた。
「おばあちゃん! 加齢臭とか言ってごめんなさい! おばあちゃんは臭くないです! むしろ僕は香水つけてないおばあちゃんの匂いが大好きです!!!!」
「……んもう。ほんっと素直じゃないんだから。あとおばあちゃんじゃなくてお母さんってよんでね!!」
僕の血がつながった家族としての言葉に、同じく家族としておばあちゃんが返事をくれた。
おばあちゃんは10歳の誕生日に突然、自分は特別な存在だと確信したらしい。
そして、それからのおばあちゃんは自分と同じく特別な存在を求めるようになったという。
その第1歩が特別な自分と同じ血の流れる者たちを確認すること。
自分と同じ性能になるように親兄弟を改造していくことだった。
結果は全て失敗。
おばあちゃんは1人になった。
でもすぐにおばあちゃんは思い至ったそうだ。
「私がいっぱい産んで、娘にもたくさん産ませて、孫娘にもがんばって産ませていけば、いつか私のような突然変異が生まれるんじゃない?」
こうして僕が生まれ、僕に満足したおばあちゃんは自分の血筋から特別な存在を造り出すのを止めた。
そして、その代わりに自分の血が混じらずに自分の改造に耐えうる、特殊な存在を求めるようになった。
それは今も続いているが、おばあちゃんが望むような存在は未だ現れない。
おばあちゃんが言うには「貴様に出会うまでにも数百年かかったのだ。気長に続ければいい」らしい。
化物の理屈を凡人の僕に押し付けられても困る。
おばあちゃんに何故、毎回特殊個体群の中から1人サンプルとして保管するのか聞いた時も、おばあちゃんとの精神性の違いを感じた。
「可能なら天然の存在がいいが、交配させて生み出すのも面白そうだと思わないか?」
この答えには当時の僕も(このババア狂ってやがる。僕と同じ血が流れてるとは思えない)と感想が浮かんだものだ。
完全におばあちゃんの機嫌が治ったのを空気感で確認できると、こらえていた屈辱が心のなかで溢れ出てきてしまい、僕は迷わず感情のアクセルを踏み抜いた。
「こっちは幼い肉体に精神が引っ張られて、まだまだ反抗期なんだよクソババア! こっちに気を使わせるな! 駄目ババア!」
「嘘をつくな! 私の血を引いて、かつ私の細胞に唯一適合した貴様にそんな不具合が起きるわけ無いだろうが! 貴様はただ口と性格が悪いクソガキなだけだ! あと何度も言うが私はババアじゃない!!」
「孫から下の世代が未だに3桁以上いるくせ寝ぼけたこと言ってんじゃねぇ!! そもそも僕はあんたの玄孫じゃねえか!!」
「聞こえませ~ん。あと身内3桁もいませ~ん。今は子供世代を含めても93人ですぅ~。去年貴様と一緒に大量粛清しましたぁ~。身内殺し忘れるとか貴様……バ~カ! バ~~カ!!」
「はぁ? 去年? ……あ! もしかして世界征服を掲げてやたらと強かったバカ集団のことか!! え? あれ僕たちの身内だったのか!?」
「……だから私がわざわざ出向いたんだろうが。貴様は彼等をなんだと思っていたのだ……。あと自称女神を名乗って無駄に大人数で暴れていた組織も私達の身内だったぞ」
「はぁ!? そんなの気づくわけねえだろ! 先に教えとけ!!」
「はぁ、なぜ貴様は気づかないのだ……ちなみに今回の組織だと、私との間柄まではわからなかったが、赤の個体にも僅かながら私の血が混じっていたな」
「それも言えよ!!!!」
うああああああああああ!!!!!!!!
誰か頼む!! 世界のために!!!! このババアを滅ぼしてくれ!!!!!!!!
僕は戦闘員1411号。
おばあちゃんが上司をしている組織で働いている。
僕の今の肩書きは『戦闘員1411号』であり『メロメロキュンキュンで仲間割れだぞ作戦実行隊長』であり、なにより『最強のおばあちゃんの最高の玄孫』だ。
肩書きに負けない人生を歩んでいきたい。
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