ゆうみお

あまみや。旧

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5章 冬休み。

183.仮告白

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(海斗side)

「ていうわけで海斗君、俺が大丈夫だったんだから海斗君も大丈夫だよ!」

「はぁ……そうですかね……」


とりあえず愛想笑いしておく。



(途中から2人だけの世界に入っててすごく気まずかった………)



それにしても、



(今から未来斗に会うって、思うだけでも緊張する……)




緊張もするし、怖い。



「りゅーき、あと何時間くらい?」
「3時間くらいだな」
「え、だるいからコンビニでお菓子買おうよ……」




ーーー

途中でコンビニに寄ってお菓子とかいろいろ買った。



「はい海斗君」
「ありがとうございます……!」



先輩が奢ってくれた………



寒かったから俺はお菓子じゃなくて肉まん。



「じゃあ行くぞ。」
「はーい、海斗君大丈夫?」
「はい……大丈夫です」



ーーー



それからは会話したりゲームしたりしながら三坂まで向かった。



段々日が暮れていって、そして、






「……あ、三坂市に入った」





ここまで来てしまった。





「はぁー……これからあの父親に会いに行くのかぁ………」




西原先輩が憂鬱そうな顔をしてる。



(う……お腹痛くなってきた)



俺も俺で緊張して腹痛が起きてた。



(でも……大丈夫。大丈夫、大丈夫。)



言いたいことを伝えればいい。





何も怖くはない。








ーーー


「よし、じゃあここでお別れだね」
「あの、ありがとうございました…!」



ちゃんとお礼を言うと西原先輩は「そんなのいいよ」って笑ってた。
…その後「お前が言うことじゃない」って二階堂先輩にデコピンされてたけど。


最後まで頭を下げて、車が見えなくなる。




「あー…俺も未来斗に会いたかった……」
「明日でもいいだろ……、それより……俺達も行かなきゃな」





ーーー


覚悟して家のチャイムを鳴らした。


出てきたのは妹さん。



「はーい……って、…!海斗さん?」
「……!あの、未来斗っていますか?」



そういえばいない時の想定はしてなかった………


でも、明日香さんは少し嬉しそうに微笑んで、




「いますよ!呼んできます!」





そう言って、玄関の扉を開けたままリビングへ入っていった。



………それからすぐに明日香さんが名前を呼ぶ大きめな声が聞こえてくる。


「お兄ちゃん!ちょっと降りてきて!」



リビング階段の未来斗の家。
……すごく、久しぶりに来た気がした。



……黙って待っていると、階段をゆっくり降りてくるような足音が聞こえてきた。



必死に肩の力を抜いて、手のひらに「人」と書く。






…………大丈夫。







「…………はい、どちら様………」







未来斗が、出てきた。





俺と目が合うなり目を見開いて固まって、



「……ぇ………」





小さな声を漏らした。





「ッ……ひさ、しぶり?」



………会ったのは昨日と言えるくらいつい最近なのに。





目の下をうさぎのように赤く腫らして、きょとんとする未来斗に、




緊張を抑えきれず引きつった微笑み方でそう言った。






「……ぁ…、……うん、えっと………」



未来斗は困惑してた。
まあ当たり前だと思う………




「……未来斗と一緒。迎えに来た。」




少しだけ緊張が和らいでくる。





「っ…あ、とりあえずあがって!寒いだろ?」





ーーー



リビングに入って階段を登って、廊下から未来斗の部屋へ向かう。


廊下の吹き抜けからリビング全体を見下ろして、よくここに来てた懐かしさを感じた。



部屋に入ると、やっぱりその懐かしさは増して、




(あの時のまま……)




それが当たり前だけど、当たり前のように嬉しくて、


あのまま東京にいたら二度と入れなかったんだろうなって思った。




「ごめん、散らかってるけど………ちょ、ちょっとベッドに座って待っててくれない!?」
「うん、急に押しかけてごめん……ほんとに」






…………課題でもやってたのかな。



机の上が勉強道具で溢れてる。





俺の目に見える範囲で物が片付けられて、未来斗も隣に座った。




「それで………どうしたの?ここまで来るの大変だっただろ」

「二階堂先輩がこっちに用があったらしくてたまたま会って………」



近くで見るとやっぱり目の下が赤い。
疲れ切ったような顔をしてる。



「そうなんだ……」
「あ、それでな、これが本題」
「うん…?」



未来斗の方を向いた。





「婚約破棄になったんだ。さく…相手の人に好きな人がいて」

「え……?」





「俺もう父さんにどんないい人を連れてこられても、結婚しないって言えると思う」



だから、



「……待って」
「うん?」


口を開けた途端未来斗が先に喋った。



「それなら、俺は……俺には、まだ望みがある?」



…………そんなの当たり前なのに。



むしろ、だからここまでしてきたのに。






「当たり前だよ、やっぱり俺の隣には未来斗がいて欲しいんだ。」



俺の隣にはもうこの人しかいない。


この人しか、愛せない。




「……っ、じゃあ!



俺も海斗にふさわしくなれるような人になるから、



そしたら俺から隣に居たいって言うから、




ちゃんと好きだって言うから、待ってて欲しい……!」





…………!




「今の……告白?」
「仮告白…。」
「仮、て………」




……じゃあ、





「待ってるよ、いつでも隣、開けておくからな。」



未来斗の言った「ふさわしい人」はまだよく分からないけど、





とりあえずもう、大丈夫だと思う。








「今日泊まってってもいいかな……」
「おう!母さん達に聞いてくる!」



その後無事泊まることが出来て、一晩泊まらせてもらうことになった。



「海斗君!まだまだあるからいっぱい食べてね~!」
「本当によか"った"……、一時はどうなるか"と"」


未来斗のお父さん、割と泣き虫なのかな。

いっぱい食べさせてもらった。



明日香さんが、




「今回もそんな感じだけど、……ふふ、次はお兄ちゃんと海斗さんの結婚報告会かなー?」





………ッ




「ま、まだです!まだ結婚までは……」
「海斗!もう別に否定しなくてもいいじゃんー!!」




久しぶりに食卓が楽しかった。





ーーー


(優馬side)



「うた、もうご飯いいの?」
「はい、ご馳走様でした。」


また間食でもしたのかうたはご飯を3分の1残した。


「全く……米粒残すと目潰れるって近所のおばさん言ってただろ……」ブツブツ


うたはリビングの隣の和室…自室に戻って、それから話し声が聞こえてきた。



(……?電話中?)



一体誰と……




ちらっとふすまに耳を当ててみる。




「……もしもし、久しぶりですね……。どうしたんですか?」



聞こえてくるのは勿論うたの声だけ。



「ふぅん……婚約破棄になったんですか。先輩はそういうこと出来ちゃってすごいですね」



……婚約破棄?


なんの話してるんだろ………




「はい、…はい。おやすみなさい、……友里恵先輩」




…………?



結局誰だったのかわからなかった。

うたの前の学校での友達…先輩かな。




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