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春はここでも恋の季節?
⑦
しおりを挟むこちらの返事を待たずに大根スティックを食べた男は、そのまま強引に俺たちを商隊が泊まっている宿へと連れ出した。
曰く、ここでは調理器具が揃っていないので困る、とのこと。
俺たち――と言うか俺は、これから味噌を使った料理を教えることになるようだ。
宿へ着くまでの短い間に聞かされた話を纏めると――……
男はザハーヌ商会の大元、ザハーヌ家の四男坊だった。
名前はレオニダス、年齢は二十一歳。嫁入りも婿入りも特に期待されておらず、好き勝手に国中を回るお気楽息子――家族の中ではそんな立ち位置らしい。
王子様ではなかったが、通りでサフがビクビクしている訳だ。
ザハーヌ商会を企業グループ、ザハーヌ家を親会社とすると、ドルドの店は子会社――いや、孫会社と言っても良いだろう。サフはドルドの甥っ子だが、会社から見れば末端の従業員と言える。
さながらレオニダスは親会社の役員あたりか。
いつもは自分たちだけの仕事場にいきなり親会社の役員が現れたら……俺にも心当たりはあるが、かなり心臓に悪い。そりゃあ挙動不審にもなる。
さて、そんなレオニダスだが――普段はこんなド田舎に来ることはないそうで、今回は噂のチーズケーキを仕入れる為に赴いたそうだ。
どれだけ王都で人気に火が付いたんだろうか。
そして、商隊の人たちはどれだけ肝を冷やしたんだろうか。
まだ商談は成立していないが、今日のところは一旦終了。休憩がてら広場まで出た際に、ドルドが味噌の使い途がわかったと話しているのが聞こえ――そのまま俺たちを拉致した、と。
「言っておくが、俺だってちゃんとした料理方法は知らないぞ。ちょっと聞きかじっただけだからな」
「それでも僕たちにはわからない方法なんだ。今回持ち出してるのはあれともう一つだけど、王都の倉庫にはもっと大きな箱が何個も積まれてる……――馬鹿な従業員が騙されてね。まぁ人助けって一面もあったんだけど、うちとしては不良在庫が残るのは困る」
俺が貰った味噌は、料理の報酬としてそのまま貰って良いそうだ。
宿の厨房には「好きに使って良い」ともう一つの壺の他、様々な肉や野菜、酒、そしてハチミツが並べられた。
ハチミツと砂糖だったらハチミツの方が高い。それを好きに使えと言われて、下手な料理を教えることは不可能になった。
しかし俺もそこまで赤味噌に詳しい訳ではない。
俺が慣れ親しんだのは仙台や信州に代表される大豆と米を使った米味噌だ。
更に味噌と相性の良い日本酒がここにはない。
酒は酒でも、ここで飲まれているのはワインである。
「……アディ、確か赤ワインを使った煮込み料理があったよな? ここにある材料であれが作れるか?」
「お祭りの時に作るやつのこと? えーっと、作れるけど……田舎料理よ? 王都の人が喜ぶようなものかしら?」
「わからん。でも赤ワインと味噌で思いつくのがこれだけなんだ。味付けはこれを使ってみてくれ」
宿屋の一人娘――アディを助手にして、とりあえず思いついた料理を作ることにする。
向こうの居酒屋で食べた、赤ワインと味噌を使ったもつ煮込み。同じ物にはならないだろうが、食べられる物にはなるだろう。
そちらはアディに任せて、俺は最初の予定通り〈ハチミツ味噌〉だ。
味噌とハチミツを同量で混ぜ、味見をしながら砂糖を追加する。
それを少し取り分けて胡麻を混ぜたら、先程はなかった蕪やキュウリ、キャベツと一緒にレオニダスへ渡した。
「あっちは煮込んだり漬け込んだりする時間が必要なんだ。出来上がるまではこれでも食ってろ」
大根スティックを食べた後に「……素朴な味だね」と言いやがったことへの意趣返しだ。
味噌と野菜をそのまま食べる――よりかは料理に近づいているから文句は言うな。
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