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チビの正体と自分の役割
①
しおりを挟むあの春の日から一ヶ月以上が経過した。
今は夏の二ノ月の終わりで、日本で言えば六月の終わり頃と言ったところだ。
俺は三十七歳になった。
とは言え体感としては何も変わっていない。ただ四十路が目の前に迫ってきたなぁと思うのみ。
体調管理は今までに輪を掛けて気をつけようと思っている。代謝が衰えてまたあの腹に戻らないように。
チビは少しだけ大きくなった。
魔力回復薬を試す前は二~三歳の見た目だったのが、今は四歳くらいに見える……と思う。
約二ヶ月でここまで大きくなるなんて、回復薬は凄い。俺にもたらした効果も凄い。まさか射精するとは思わなかった。
出来れば飲み続けたくなかったが、悔しいことにヨヨ茶よりも格段に美味いのだ。
何度か量に失敗しつつ、今は小さじ一杯を舐めることで落ち着いた。
魔力持ちはあの快楽をどう処理しているのか、甚だ疑問である。
飲むたびに射精していたら普通に疲れると思うのだが――……飲み続けていたら耐性でも付くのだろうか。
「オンラ! 今日は川に行こうと思うんだけど、チビも連れてって良い?」
「……ユアン。構わないが、今日の手伝いは良いのか?」
「平気! 朝の分は終わったし、後は魚を捕ってくることで許して貰った。アランたちも皆で行くんだよ」
「わっ、私も一緒に行きますので!!」
「レオニダス、そのほうが心配なんだが――……デーメルも一緒なのか?」
「はい。私が見ていますのでご安心ください」
俺自身は変わらなかったが、周りの面々は少々変わった。
まずユアン。
いつの間にか俺のことを避けなくなり、今まで以上に子供たちの面倒を見るようになった。
毎日のようにチビを誘いに来てくれるんだが、一緒に遊ぶ連中が迷惑に思っていないか不安である。遊びというか子守りになっていないだろうか。
一度アランに聞いたら「大丈夫、俺はユアンの味方だから」と煙に巻かれてしまった。
そしてレオニダスとデーメルの主従。
一旦は予定通りに帰って行ったのだが、その次の満月にまた戻ってきた。
しかもそのまま居座った。何故――……と聞いたら呆れることに、俺を落とす為だそうだ。未来はないから、いい加減王都に帰って欲しい。
レオニダス個人の我が儘で、デーメルはそれに完全に巻き込まれた形だ。
救いなのはチビがデーメルを許容していることか。レオニダスはものの見事に嫌われた。
ついでに、今は居ないがシギもこの村に逗留している。
向こうでやっていた小間物細工の仕事を持ち込んで、村長宅を間借りしながらこなしている。
たまに隣村まで戻っているが、一週間掛かる山道を三日で行き来していた。
これは行商人と違って大荷物で移動しないこと、山道に慣れていることが関係している。俺には多分無理だな。
「川は急に深くなる場所があるから気を付けてくれ。子供たちは慣れているが、レオニダスが心配だ」
「……多少はここの生活にも慣れたんですけどね。そこも含めて、私がよく見ておきますので」
「――ユアン、聞いていたな?」
「うん。この人が流されないように注意するんだね」
いつも遊ぶ場所なら子供用プールの深さくらいしかないから、そこまで危険はない筈だ。
もし流されても村から歩いて一時間程のところでまた浅くなる。そのあたりには魚用の罠を仕掛けるから、一緒に回収も出来るだろう。
「じゃあ頼んだ。何かあればすぐ誰かに声を掛けろよ。後、体が冷えないようにこまめに休憩を入れること」
「わかった。――チビ、行こう!」
大人しくユアンに抱かれたチビがバイバイと手を振ってくれた。
あの時聞こえた「もうすこし」と言う声は、あれ以降聞いていない。
多分チビの筈だ。
何が〝もう少し〟なのはわからないが、もしかしたら……――。
「――今日の夕飯はちゃんちゃん焼きかな」
鮭ではないが、似たような川魚は捕れる。
それと野菜。味噌と砂糖に白ワインで味付けをすれば、それっぽい物になるだろう。
考えなければならないことに目を背けて、そんなことを考えた。
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