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ファンタジーな異世界に召喚されたら銀髪美少女が迫ってくるんだが?

104.ガブリエル

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 女王との話が終わり部屋を出ると、メイドさんが何人か俺達に近づいてきた。

「セフィリア様のお部屋に御案内いたします」

 俺も付いて行こうとすると「イツキ様はこちらです」と違うメイドさんが言う。

「え、セフィリアと別なの?」

「はい、そのように女王様より承っております」
 
 結婚式が終わるまでは城の敷地内にある別々の屋敷で寝泊まりすることになった。当然一緒に風呂に入るなんてできない。くそぅ、女王め……。



 ――その夜。

 セフィリアと魔力を混ぜる為に、スマホで連絡を取り合い部屋を抜け出す。魔法で姿を消して窓から飛びたって、セフィリアのいる屋敷まで飛んで行こうとした。
 
「こんな夜更けにどちらまで?」

  声の方を向くと空中に浮いているレハタナさんがいた。レハタナさん程の実力者なら、姿が見えなくなるだけの魔法は無意味だったか。

「ちょっと、お花を摘みに」

「……女王様の御下命によりイツキさんとセフィリアさんの逢瀬を阻止させて頂きます」

 レハタナさんはおもむろに剣を抜き、切っ先を俺に向ける。

「歴代の聖竜騎士団長に貸与される、この”聖剣レーヴィン”は持っている者の能力を強化してくれます。いかにイツキさんが強くても簡単には負けません」

 レハタナさんが魔力を込めると剣に炎が宿った。俺が怯むことは無いけど、かなりの圧力を感じる。

 塔で見たときはさっさと逃げたが、今回はじっくりと観察した。あの聖剣とやらがレハタナさんの魂力と固有スキルを強化しているみたいだな。固有スキルは実質支配者クラスの強度だろうと感じた。聖剣自体の強さは、俺が具現化する刀と同等の魔力密度を持っているな。

 殺気や悪意の類は全く感じないから、軽く注意しに来ただけだとは思う。それにしてもあの炎の聖剣、綺麗だな……、なら俺も……。

「こい、アマテラス」

 俺の目の前に現れた、炎の揺らめきにも似た光を放つ朱色の刀を握り、アマテラスの方が綺麗でしょ? と言わんばかりに、炎の魔法を込めて軽くプレッシャーを放った。

 レハタナさんの表情に緊張感が増すが、多分本気で戦う気は無いだろう。こんなところで俺と戦ったら、王都が壊滅してしまうことくらい分かっているはずだ。
 
「俺はセフィリアと、どうしてもしたいことがあるんだ。出来たら見逃して欲しいんだけど」

「どうしてもしたいこと? あなた達が結婚前に淫らな行為をしないように私がここにいるのですよ」

「確かにえっちもするけど、それ以外にもやりたいことがあるんだ」
 
「お聞きしても?」

「簡単に言うと鍛錬かな」

「こんな夜中に鍛錬ですか?」

「セフィリアは昨日、自身の壁を越えて能力が大きく上がったんだ。その状態にならないとできない鍛錬があるから本当は早くそれをしたかった。でも今日はそれを我慢してまで女王に付き合ったんだけどなぁ」

「元の世界に帰る術が無い以上、今後は我が国があなた達を責任をもって面倒を見ます。それと同時にあなた達も国民として最低限の責務は果たして頂きたい」

「確かに俺が自力で元の世界に帰ることは出来ない。でも俺の仲間がこの世界に迎えに来ることは出来る。どんなに遅くなっても3カ月以内には迎えに来てくれるはずだよ。まぁ、迎えが来るまではお世話になるつもりだし、なるべく協力もしようとは思っているけど」

「イツキさんの……仲間ですか?」

「そう。俺と同等以上の強さの人が四人」

「まさか、そんな……」

 俺一人にこの国の騎士団は歯が立たないのに、それよりも強い人が四人も来るとなれば驚くよね。俺の思惑通りレハタナさんは驚いたのか、黙り込んで何かを考えている。しばらくして口を開いた。

「分かりました。今日は引き下がります」

「うん、ありがと」

 俺はレハタナさんの横を素通りして、セフィリアのいる屋敷に飛んだ。



 セフィリアの魂力を探りつつ飛んでいると、部屋の窓から外を眺めているセフィリアを発見した。

「遅かったわね?」

「レハタナさんに見つかったから説得してたんだ。どうにか見逃してもらえたよ」

「こんな時間まで仕事をしてるなんて、あの子も気苦労が絶えないタイプね。それよりも早く魔力を混ぜて固有武器を作りましょう」

「ここでやると、城が壊れるから、人気のない所まで行ってやろう」

 俺がセフィリアの手をとるとセフィリアは窓からふわりと飛び上がった。二人で、王都の外まで飛んで行き、人気のない森に降り立った。

 俺は早くセフィリアと魔力を混ぜたくて心音が高鳴っている。自分を落ち着かせるために、ふぅと息を吐き水魔法でクッションを作って腰掛ける。

 セフィリアも俺の隣に座る様に手招きをすると、俺の隣にぴったりとくっついて座った。

「まずは植物を具現化してみて」

 俺の言葉にセフィリアは頷き、魔力を放出すると茨を具現化させて、さらに薔薇の花を咲かせた。

「今までよりも遥かに多くの魔力を簡単に操ることが出来るわ」

 セフィリアは嬉しそうに笑う。俺も茨を具現化させてセフィリアの茨に絡ませて混ざる様にイメージした。

「イツキの熱い魔力が私の魔力と溶け合って混ざるのが感じられる……、え? あぁっ」

 セフィリアは声を上げながらガクガクと震えた。はぁはぁと呼吸を荒くして頬を染め、うっとりしている。

「魔力が混ざったのと同時に……、すごく気持ち良かった」

「魔力を混ぜると気持ち良くなるんだよ」

 セフィリアは眉をハの字にして俺に抗議する。

「こんないいこと、あの子たちと散々していたのね。私だけ除け者にして……なんか悔しいな」

「これからはセフィリアとも沢山するよ」

(私だけとするとは言ってくれないか)

 セフィリアは何かを呟き、一瞬表情を曇らせるも、すぐに微笑んで言う。

「私の魔力、思い切り放出するからしっかり混ぜてね」

 セフィリアは俺にしがみつきながら魔力を放出して大木の様な茨を何本も発生させる。俺も同様に茨を発生させてセフィリアの発生させた茨に絡めていった。

 魔力が次々と混ざっていき、激しい快楽が全身を駆け抜ける。二人の魔力と一緒に体まで溶けて一つになったと錯覚するほどの一体感を味わっている中で、異なる速さで刻まれる二つの鼓動が俺とセフィリアが別々の存在だとかろうじて教えている。

 セフィリアは息を上げながら声を溢す。

「イツキの熱いものを受け入れているときよりも気持ちいい……」

「なら、今日は挿れないでおく?」

「挿れるに決まっているでしょ? 意地悪言わないで早くして」

 セフィリアにせがまれるまま、俺達は魔力を混ぜながら身体を重ねたのだった。



 体力とMPを限界近くまで消耗し、二人でぐったりと抱き合っている。荒くなった息も幾らか落ち着いたところで、周囲に視線をやると、俺とセフィリアの魔力で具現化させた巨大な茨が四方を覆い、薔薇の花が無数に咲いている。

「植物を形作っている魔力を一点に集めて、武器にしようか。セフィリアのいつも使っている長くて幅広の大剣にしよう。一緒にイメージして」

「ええ、分かったわ」

 周囲の魔力を収束させ大剣をイメージする。周囲を覆っていた俺達の魔力で具現化された植物が、一点に収束し圧縮されていく。同時に堪え切れない快楽が再び二人の脳内を支配する。

 完成した剣は、夜空に輝く星の瞬きを思わせる光を放っている。幅広で2mはある長い刀身はセフィリアの髪と同じ白銀で微かに透き通っており、複雑にカットされた宝石の様に煌めいている。

「あの白銀の大剣、セフィリアみたいに信じられない程綺麗で、圧倒的な存在感というか……。俺が抱いているセフィリアに対しての印象そのものだな」

「そんな本当の事を並べられると、私でも照れてしまうわ。イツキがあの剣に相応しい名前を付けて」

 やはり、セフィリアの剣なら薔薇の花の名前が良いよな。アシストさん、薔薇の花でセフィリアみたいなイメージの品種ってある?

「薔薇の花を表示します」

 アシストがそう言うと、俺の視界にいくつかの薔薇の花の画像が表示された。その中でも、俺の目を引く一際美しい白い花があった。俺はその花の画像を指差して「これはなんていう品種なの?」とアシストに聞いた。

「ガブリエルです」

 ガブリエルか……。四大天使にもそんな名前のがいたよな。カッコいいし、ガブリエルにしよう。

「ガブリエルって名前はどうかな?」

 セフィリアの視界にも白い薔薇の画像が表示されているらしく「確かにこの剣のイメージに合っているわね」と賛同してくれた。

「ようやく私にも固有武器が出来たのね。白銀の大剣”ガブリエル”か……」

 嬉しそうに微笑むセフィリアは俺をジッと見つめる。

「あのね、剣を具現化させるときにまた魔力が混ざったでしょ? だから、……この先は言わなくても分かってくれるよね?」

 俺はセフィリアに微笑み返して唇を重ねると、再び身体を重ねるのだった。
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