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ファンタジーな異世界に召喚されたら銀髪美少女が迫ってくるんだが?

113.勝敗

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 二つの魔力の塊はお互いを貫こうと拮抗していたが、俺が魂力ブーストを全開にしたことで、それは一気に崩れた。イシュタルは高平の具現化したランサーフィッシュの角を粉砕して突き進み高平を貫こうとする。

 俺はイシュタルの軌道を操作して直撃は避けた。さすがの高平もイシュタルが直撃したら即死だろうからな。

 戦艦の主砲のごとく轟音と共にイシュタルは彼方まで飛んで行く。呼べばすぐ手元に戻ってくるのは便利だ。それはさて置き高平は無事だろうか。

 直撃を避けたと言っても攻撃的な魔力を高度に纏ったイシュタルが身体をかすめたんだ。並みの相手なら蒸発してしまうはず、異常に強い魂力の持ち主である高平でも大ダメージは避けられないだろう。

 激しく抉れた地面に高平は倒れていた。まだ死んではいないな。

 俺が近づくと高平にはまだ意識があった。

「俺は……まだ負けていない。穂乃香は殺させない!」

 これほどの重傷を負いながらも、意識を失わないとは凄まじい精神力だ。やはり試合に負けたら陵木さんを殺すと脅されていたのか。胸糞のわるい連中だ。異世界の勇者的にはきっちりお仕置しないとな。

 俺がそんなことを考えていると、遠くから女性の声が聞こえてきた。

「光希! 私なら無事だよ!!」

 セフィリアがここまで陵木さんを連れてきてくれたのか。高平は痛んだ体を起こし陵木さんの方を見る。

「穂乃香? なぜここにいる?」

「柳津君の奥さんのセフィリアさんに助けてもらったんだよ!」

「お前、高校生くらいに見えるけど、もう結婚してたのか?」

「今はそんなことはどうでもいいでしょ?」

「ああ、そう……だな」

 俺は高平に陵木さんを救出した経緯を説明した。

 これでもう高平は俺と戦う理由は無くなっただろうから、俺は高平に治癒魔法を掛けて、全身の大怪我を治癒してやった。

「一応、負けを宣言して欲しいんだけど」

「……俺の負けだ」

 厳しい勝負だったが何とか勝つことが出来た。緊張が緩んだ俺はふぅ、と息を吐いてその場に座り込んだ。



 高平が負けを宣言してホッとしていると、突然俺達の前に巨大なディスプレイの様な物が出現した。あ、この世界に来た時にもこんなビデオ通話魔法あったな。そこに映し出されたのは、身なりは高貴そうな感じだが、悪人な雰囲気を醸し出した太った若い男性と老人男性だった。

「この役立たずめ! 負けてしまうとは何事か! 貴様を召喚するのにどれだけの費用が掛かったと思っているんだ!」

 俺は罵る老人男性にイラつきながらも、どうにかこらえ落ち着いた口調で問う。

「あんたら、グレンガルドの王様と宰相さんか?」

 俺の問いに太った若い男が「いかにも! 余こそがグレンガルド国王である!」と得意げに答えると、続いて老人男性が「ワシが国王様の右腕であり、この国を動かしている宰相である!」と言う。

 どこでもおバカな王様と悪い宰相はセットだからな。どうせ宰相が王様をそそのかして裏から操っているんだろ? 俺はイライラしながら軽く脅してやった。

「あっそ。人質を取って高平に戦いを強要していたことに腹が立つ。お前ら後でお仕置しに行くからな!」
 
「ふざけたことを! 貴様ごときが余に手出しできるわけなかろう!」

「さっきまでの俺達の戦いを見てなかったのか? あんたの手持ちの騎士達で俺を止められそうな奴がいるのか?」

 王様は顔を真っ赤にして「ぐぬぬぬ……」と唸る。宰相は恨めしそうに顔をしかめた後「おのれ、舐め腐りおって」と言うと、呪文の詠唱を始めた。 

 俺達の近く。おそらく試合会場の中央部だと思われるところに巨大な魔法陣出現した。魔法陣から膨大な魔力を帯びた黒い煙が噴き出した。

 煙はみるみる魔法陣の中央部に集まり20mはありそうな大猿型のモンスターになった。

 今まで見たことも無いほどの巨大な魂力を持つそのモンスターの出現に、俺は再び緊張して構えたのだった。
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