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黒砂糖デニーロ

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第三章

第二十四話 Unknown

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 鉱山都市ガルス――
 ここがそう呼ばれていたのは今より約半世紀程前までの話。かつては採掘を中心に大いに栄えた一大都市だった。
 周囲を資源鉱山に恵まれたこの都市、当時の魔属大戦による特需も手伝い、ガルスを、そしてグリューという国を経済的に潤わせ発展に大きく貢献した。
 その繁栄は鉱山での採掘量が減少し始めると陰りが差し始めた。都市や業者は新たな炭鉱の開発を試みるも、結局は相次ぐ廃鉱をカバーするには至らなかった。他にこれといった産業を持たないガルスには、失業者が溢れかえり、都市は衰退が進み始める。
 それに追い打ちをかけるように周辺地域の魔属が活性化。かろうじて残っていた採掘可能な鉱山も魔属によって出入りすらもままならなくなり、そしてついには都市に魔属が侵入するという事件が起こるに至り、ガルスは都市としての存続そのものが危ぶまれる事態に見舞われてしまう。
 折しもその頃、グリュー政府の主導で行われていた次世代型都市が完成を間近に控えていた。もはや負担にしかならないガルスをどうにかしたいという政府の意向もあり、都市の移転という形で新都市にガルスの名を冠した。それが現在のガルスである。
 最終的に全ての住民が新ガルスに移り住み、長い歴史を持つ鉱山都市ガルスは廃棄されることとなった。以降、ここは「旧ガルス跡」と呼ばれている。
 僕とアオイが今歩いている都市南部は多くの家屋が広がる住宅街。周囲には鉱山で働く人々のための住居だったとおぼしき団地が立ち並んでいた。今はコンクリートの塗装は剥がれ落ち、無機質な壁面を晒してる。元々が住宅地だっただけに、生活の残り香が色濃く残るその光景を横目に、僕たちは大通りを行く。
 尚、クロウとギンとは別行動をとっている。人を探すのに旧ガルスは広大すぎるため、二手に分かれることにした。
「なんか、不気味だ」
「そうだね。なまじ人の痕跡があるだけにね」
 立ち並ぶ廃墟の群れは、表面に絡みついた蔦や色褪せ劣化した様子から経過した時間を感じさせる。路面のアスファルトは大半がひび割れ、その生命力をアピールするかのように植物が生い茂っていた。
 都市の中心を望めば、最盛期の頃に大きく発展した旧ガルスの栄華を見て取れた。当時としてはまだ珍しかった高層建築物が数多く立ち並び、とりわけ、発展の象徴として立てられたという時計塔は街のどこからでも見えるほどの高さを誇り、今なおその威容を見せつけていた。その周囲に見られる、建設途中で打ち捨てられたビルたちは、この街が廃都になるために工事が止まってしまったのか、繁栄が終わり財政難から工事を続けることができなくなったのか。
 退廃してしまった今の街の姿は、うら寂しさを感じずにはいられなかった。
 時間の流れから取り残されたかのようなこの旧ガルスは文明の栄枯盛衰、人間の老い、逃れられない時間の恐ろしさを暗に表しているように思え、また別種の恐怖を与えてきた。
「少なくとも、魔属がいるって感じじゃないね」
「ここに魔属の気配はない。間違いない」
 勇者のアオイが言うのだから間違いない。やはりケイン君らに依頼された要請は偽のものだったのか。
 問題は、その指示がどこから出たものなのか。帰ったら調べる必要がある。
「って、そういえば、まだ二人から定時連絡が来てないな。ちゃんと報告してって言ったのに」
「本当にしょうがないやつらだな。アイツらはクビでいいな」
「勇者が率先して仲間をリストラしないでよ……でも、クロウはともかく、ギンまで忘れるなんておかしいね」
「また壊したんじゃないか?」
「あ、ありえる……」
 僕はレシーバーのスイッチを入れ、クロウに呼びかける。
「クロウ、聞こえ――!?」
 しかし、回線を開くと同時に耳に飛び込んできた激しいノイズに、僕は一瞬身を竦ませる。そんな僕のリアクションにアオイもつられてビクっと一瞬驚く。
「な、なんだ!?急にどうした?クロウが気色悪い声でも出したか?」
「い、いや。すごいノイズだったから……く、クロウ?聞こえる?」
「レ……か!……ぜ……聞こえ……だ!」
 僕は呼びかけるも、ひどいノイズでまともに聞き取ることができない状態だった。
 ついには、わずかに聞こえた断片的なクロウの声もノイズの海に消え、完全に聞こえなくなってしまった。
「クロウ!クロウ!」
「なんだ?電波が悪いのか?」
「いや。この程度の距離で会話ができないほどの激しいノイズが交じるのはおかしい」
 まして、こんな打ち捨てられた街中で電波を遮るようなものなどあるはずがない。原因が考えられるとしたら、それは、
「意図的な電波妨害……?」
 僕がそう口にした、その時だった。遠くから鼓膜を震わせる轟音と、その直後に地面を震わせる振動と爆音が響き、反射的に体を強張らせた。
 二つの音がしたのはいずれも都市中心部の方から。目を向ければ、もうもうと粉塵が立ち上っているのが確かに見えた。
 何が起きているかはわからない。でも、これが偶然や自然の何かであるわけがない。
 間違いない。ケイン君たちはあそこにいる。そして、何事かに巻き込まれている。
「レン!」
「ああ!急ごう!」
 僕が返すまでも無く、アオイはすでに音の方向に向かって駆け出していた。


 目の前の光景に、言葉を失う。
 野風に曝されるがままに、朽ちるのを待つ老木のごときビルが並ぶ古びた市街地。
 その大通りの真ん中で血の海にうつぶせに倒れているのはアルベルト。そして通りに面したビルの前には全身を切り刻まれ、銃創を穿たれてぐったりとしているケイン君。どうにか二本の足は地面についているものの、回復が間に合わないまでに傷の深さも数も尋常ではなく、その目も朦朧としている様子だった。
 そして、そのケイン君を守るように抱くヒルダさんは、片手に握った銃を油断無く周囲に向けている。
「ケイン――!」
 思わず叫びそうになる僕を、横から伸びた手が制す。アオイの小手に覆われた手だった。
 粒子の煌めきが鎧を形作り、彼女がすでに臨戦態勢であることを知る。
 アオイの視線の先には、彼らを周囲を包囲するように通りの向こうやビルの影に無数の人の姿があった。
 確認できたのは、全部で5人。その全員が皆、同じ出で立ちで身を固めていた。
 ブーツから指先のグローブ、予備の弾倉を多数収納したベストまで全てが黒一色。さらにその手に握られているのは取り回しの良い小型ながら精度に優れ、連射性も高いPAR社の『PW-02A プレスト』。先進国の警察機関や特殊部隊などが採用している高性能サブマシンガンである。
 少なくとも、そこらの犯罪組織や武装集団がおいそれと体に入れられる銃ではない。
 頭部にはすっぽりと覆ったフェイスマスクの上から、ガスマスクが装着されている。昆虫を連想させる大きなレンズ越しに見える双眸を除いては、いずれもその素顔は窺い知れない。
 いずれも統一されたその出で立ちは、軍や警察などの特殊部隊の姿に酷似していた。彼らが、戦いを生業とするプロであることがうかがい知れる。
 彼らは隙の無い慎重な足取りで徐々にケイン君たちに接近し、追い詰めていく。彼らが友好的な相手でないことは、誰の目から見ても明らかだった。
 横目で見たアオイは歯を剥き出して怒りを露にしている、まるで猛獣そのものであった。横にいる僕にも、全身からあふれ出る怒気が肌で感じ取れた。
「レン。ヒルダたちと合流して安全なところに隠れてろ」
 そう告げるやいなや、アオイは一瞬で脚力を爆発させ、一陣の疾風となり駈け出していた。
 彼女の怒りの爆発は、相手が人間であっても一切の躊躇を見せない。ケイン君に最も近い一人の背後に迫ると、速度を一切緩めず、体ごとぶつける勢いで黒服の背中に剣の切っ先を突き入れる。完全に慮外からの攻撃に黒服は避ける事も防ぐ事もできず絶命する。
 前のめりに倒れる黒服の背を蹴って跳躍し、天地逆さまの状態で、背後にいるもう一人に狙いを定める。
 その黒服は目の前に迫る小さな影が何かを確認することも叶わなかっただろう。逆さの状態から独楽のように旋回しながら放ったアオイの刃は側頭部から頭部を真っ二つに切り裂いた。
 二人の後方にいた黒服はその光景を目の当たりにし、ようやく異変を察する。着地したアオイの背に素早く銃口を向け、銃の引き金を引いた。
 しかし、吐き出された銃弾が射抜いたのはアオイの残影。
 消えたアオイを目で追うも、彼は絶命するまでその姿を見つけることはできなかった。一瞬で黒服の懐に潜り込んだアオイは、低い姿勢から柄に手を添えて切っ先を男の下顎から突き入れていた。
 その凄まじさはまさに獅子奮迅。瞬く間に三人を葬ったアオイは、次の敵を探し求め視線を素早く左右に振る。
「ヒルダさん、聞こえますか?」
『その声……レン?』
 アオイが気を引いている間に通りを避け、路地裏を駆け抜けながら僕がレシーバーに呼びかけると、ヒルダさんの驚いた声が帰ってくる。やはりヒルダさんたちも前の作戦で渡されたレシーバーを使っていたようだ。
「背後のビルの中を通って裏口へ。そこで合流しましょう」
 ヒルダさんは頷くとケイン君を抱え、アルベルトを引きずりながら戦線を離脱。アオイの姿が確認できる場所でヒルダさんと合流を果たす。
 ケイン君とアルベルトの二人は共に意識を失っていた。全身に穿たれ血を吹き出す銃創は見ているだけで痛々しい。自然回復が間に合わないほどの傷となると、一体どれほどの数の銃弾を受けたのだろうか。
 そこで僕はケイン君の違和感に気付く。
(鎧を装着していない……?)
 彼の身を守る鎧――いかなる時も彼の身を守る盾にして剣、聖剣[アルジェント]。
 戦闘時、ケイン君は鎧の形で身に纏っていたはず。あの聖剣の性能の前では、一発の銃弾すら通さないはずだ。
「どうしてあなたたちがここに?」
「詳しい説明は省きますが、僕達のミッションを追っていたら、ケイン君たちの危険を察知したんです。それより、奴らは一体何者なんです?」
「わからない。こっちが聞きたいくらいよ」
 言いながらもヒルダさんはこちらを見ず、ひたすらケイン君の手当を行う。
「でも、もう大丈夫です。アオイにかかればあんな奴ら――」
「ダメよ!奴らを侮っては!」
 僕の言葉を遮り、切迫した表情で叫ぶヒルダさん。
「奇襲だったとはいえ、普通の人間にケインがやられると思う?」
 確かに言われてみればもっともな話だ。アルベルトはともかく、ケイン君は実力のある勇者だ。何より、ブラインの念弾すら防いだ聖剣[アルジェント]に守られた彼が、こうも一方的にやられるとは考えにくい。
 それほど強力な相手なのか、巧妙な罠にはめられたのか。あるいはその両方か。[アルジェント]が機能していないのも気がかりだ。
 不安になりながら、僕はアオイに目を向ける。アオイと対峙していたのは二人の黒服。装備こそ他の黒服と全く同じであるものの、その手に握られている得物だけが異なっていた。
 細身で長身の一人が握るのはT字型の特殊な刀剣。握りの下から垂直に伸びる形状は古武術に用いられる武具、トンファーにも似ているが、棍に当たる部分が身幅の厚いX字の刃となっており両端も先が鋭く尖っている。
 一方、中背でガッチリとした体格の一人は、清水の如き青白い刀身を持つ諸刃の長剣を下げていた。
 いずれも近代的な装備で身を固めた彼らにしてはミスマッチな印象だった。
 そして驚くべきことに、彼らが肉弾戦でアオイと対等以上に渡り合っている。二対一とはいえ、勇者ではない人間相手であれば楽勝だと考えていた僕は目の前で繰り広げられる光景に言葉を失うことになる。
 アオイの正面に対峙する長身の黒服は、軽く体を沈めたかと思うと目にも留まらぬ速さで間合いを詰め、側頭部めがけ回し蹴りを放つ。豪風を起こしながら迫る力強い蹴撃を、アオイは[ベルカ]を垂直に立ててかろうじて防ぐ。しかし剣の上から突き抜けてくる衝撃はアオイの身体を浮かせ、後方に大きく吹き飛ばした。
 全身を駆け抜ける衝撃にうめき声を漏らしながらも、アオイは着地と同時に〈L粒子〉を展開し、一気に加速して即座に攻めに転ずる。粒子加速から間合いに入ったタイミングで放たれる横薙ぎの一撃は、先程の黒服以上に速く、常人ではとても反応できないスピードだ。まして、まだ蹴りを放った姿勢の黒服に躱すことは不可能だ。
 しかし、黒服は絶妙なタイミングで軽やかに宙へと舞う。[ベルカ]は黒服の影を切るだけに終わった。
 驚愕するアオイの顔面が、ぐしゃっと潰れる。躱しざまに放った靴裏がアオイの顔面に突き刺さったのだ。自身の突進の威力も上乗せされた一撃はアオイの顔面に突き刺さり、衝撃は脳にまで達していた。
 血を吐き、血涙を流しながらよろめくも第六感が彼女の体を突き動かし、倒れるように身体を側面に投げ出した。もしそうしていなければ、脳天から振り下ろされた刃によって頭を真っ二つにされていただろう。
 長身の黒服が跳び避けたタイミングで、その後ろに控えていた中背の黒服が剣を振りかぶって、アオイの目の前に迫っていたのだ。
 横顔を過る剣の風圧で危機を察知し、アオイはその場を離れ黒服から距離を取った。
 僕は驚きに飲まれ、一連の攻防をただ呆然と見つめていた。
 黒服たちの身体能力は、明らかに常人の域を凌駕していた。無論、ギンやクロウなどのように、こと身体能力だけで見れば勇者に匹敵する達人も世の中にいるのは確かだし、彼らの動きにも訓練されたものが見て取れる。
 だがその一方で、彼らの身体能力はそういった次元を超越しているように思えるのは、僕が戦う人間ではないからだろうか。
 顔の傷は粒子治癒によって早くも回復しているものの、油断ならない相手だと理解したアオイは、頭に昇った血が抜けたことで幾分冷静に戻ったのか、リーチ外から相手を観察しつつ息を整える。
 もっとも、それを黙って見過ごすほど黒服たちは優しくないようだ。
 長身の黒服がしなやかな動きで迫り、その長い足を跳ね上げる。真下から迫る爪先をアオイは身を反ってやり過ごす。鼻先を掠めて過った足は頭上で静止すると、今度は垂直に落ちる軌道に変わる。細足から繰り出されているとは思えない力強い踵落としは、振り下ろされる大槌を連想させた。
 これ以上身を引く事のできないアオイは、思い切って前進した。身長差がある黒服の股下を潜り抜け、背後へと回ると、背中合わせになった状態から振り向く旋回の軌道に剣を乗せて横薙ぎに払う。
 完全に背後からの攻撃を、黒服は避けることも防ぐこともできない。アオイの剣は黒服の背を切り裂いた――はずだった。
 しかし、ベルカの刃は突如間に差し込まれた刃によって防がれていた。
 小さな刃の正体は、無数の刃に分裂したトンファー型の剣だった。
 ワイヤーで一繋がりになった連刃は不思議なことに、何の支えも無しに空中に留まっていた。
 しかも、それだけではない。
「ぐあぁっ!」
[ベルカ]を受け止めたのとは別の連刃が音もなく宙を過ぎり、アオイの首筋を切り裂いた。たまらず後ろに後退るアオイ。首の傷を押さえる指間からは鮮血が吹き出す。
 悠然と振り返る黒服の手に握られた左右の剣の刀身はそれぞれ四本の連刃に分裂している。都合八本の連刃は先端を持ち上げ、長身の黒服の背後で妖しく蠢く。まるでそれぞれが意思を持つ刃の蛇であった。
 と、中背の黒服が大きく後ろに後退したかと思うと、肩の前に装着した無線機に何やら言葉を発していた。それを目にすると同時に、僕の手は反射的に動いていた。
 敵の無線を傍受できれば、彼らの動きや正体を探る手がかりになるはずだ。
 ディスプレイに周波数を検索するアプリケーションが起動する。コンピューターは瞬く間に通信プロトコルを解析。
(やっぱ暗号化されているか。でも、この程度なら解読できそうだ)
 僕は同時に立ち上げていた手製の暗号解読のプログラムを実行。程なくして、僕の耳には彼らの会話がクリアに入り込んできた。
『――解しました。フェイクリーダーより各員へ。これより介入者イレギュラーの排除を再優先とする。ただし、絶対に殺すなとの厳命だ』
 まず聞こえていたのは低い男の声。
『殺すなだって!?こっちは三人もやられているのにか!?』
『ボスからの指示だ。そいつも勇者だからな。その分、報酬は上乗せだそうだ』
『思わぬボーナスね。いいじゃない。ねぇ、フェイク3?』
『フェイク1に同意です。我々の戦力なら支障はないかと』
 ハスキー気味な女の声に、感情を感じさせない若い声が答える。フェイクというのは彼らのコールサインか。
 まずい状況だ。二人以外にも、姿を見せていない敵がいるのか。
『だが気を抜くな。奴は上級種を葬った殿だ。油断すればやられる。相手は変わったが対応はあくまで作戦通りに行くぞ。フェイク2、そこから?』
『ここからでは難しいです。南へ1ブロック先の交差点あたりまで誘導してください』
『了解した。聞こえたなフェイク1、移動するぞ。フェイク3、奴を追い込め』
 二つの声が『了解』と短く頷く。
(あの中背がリーダーで、1がトンファーの女。それに姿を見せていない2と3……)
 コールサインと会話内容から各人を結びつけて整理する。
「アオイ、深追いしないように気を付けて!何かを狙ってる!」
「そんなこと言われたって……!」
 アオイの声を、轟音がかき消す。どこかより飛来した弾丸が、アオイの足元に着弾し、路面のアスファルトを盛大に巻き上げて大穴を穿った。
 目の前の二人の攻撃じゃない。
 完全に視覚外からの攻撃。直前の発射音はどこか遠方から響いた。
(フェイク3は狙撃手か!)
 狙撃といっても、その威力は砲撃と言ってもいい代物だ。無論、こんな正確な砲撃はあり得ない。
 結局、警告も虚しく、フェイクたちの付かず離れずの絶妙な間合い取りと狙撃に翻弄され、まんまと誘導されてしまう。
『フェイク3、ホーネットリーダーにも増援を頼んでおけ』
『よろしいのですか?』
『目立つリスクはあるが、こちらもだいぶ数をやられた。念のためだ』
 まだ戦力を隠し持っているのか……!
 どんな増援かわからないけど、これ以上の相手はアオイでも太刀打ち出来ない。
『フェイク2、いけるか?』
『すでにエイミングしています。いつでも』
 さらに、所在不明のフェイク2なる人物が応える。フェイクリーダーの次に声を発した野太い男の声だ。
『よし、やれ』
 フェイクリーダーの冷厳な命令。
 何か来る!アオイに警告するよりも早く、それは起こった。
 相手が強敵だと判断したアオイは、粒子を最大に展開。粒子を足元に纏わせると、高速で一気に勝負に出る。粒子加速で一気に間合いを詰め、剣を突き出す構えで正面からフェイク1に迫る。
 だがあと一歩で間合いに入るという瞬間――失速。
 アオイの意志ではない。
 そこにフェイク1の強烈な回し蹴りが狙いすましたように放たれる。驚愕に隙を生じさせていたアオイは躱すことはできなかった。つま先が腹部に突き刺さり、甲冑越しでもその衝撃はアオイの身体を軽々と吹き飛ばした。
 僕は確かに見た。光り輝く〈L粒子〉が、空気に溶けるように霧散していくのを。
「アオイ!?何が起きたの!?」
「わからない……粒子が、消えた」
「なんだって……!」
「それに、[ベルカ]も、全然反応しない」
 よろりと立ち上がりながらアオイは再度、粒子を展開させようと試みるも、粒子が生み出されることはなく、[ベルカ]のマテリアル・ドライブも沈黙したままである。
「一体、何がどうなっているんだ!?」
「あれが奴らの厄介な能力です」
 そう言ったのは、ヒルダさんに支えられて身を起こすケイン君だった。
「奴らと戦闘に入ってすぐ、どういうわけか僕のDEEP、〈ヘリカル・バインド〉が使えなくなりました。それに[アルジェント]の自動防御も機能しなくなりました」
「勇者の能力や聖剣を無効化するなんて、そんなことが本当に……?」
 少なくとも、現行の兵器にそんなものは存在しない。
「……待って。君、今奴らの能力って言った?」
 ケイン君は黙って頷く。どうやら僕の感じた予感を察し、それを肯定していた。
 突出した身体能力と異質な性能を見せた刀剣。そして異能力――もはやその正体は明らかだった。
「まさか……奴らは勇者なのか!?」
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